146,ルイーンの最後
ルイーンは片手で顔を覆うと引き剥がす様に払った。仮面顔は取り払われ真っ赤な瞳はそのままに元々の顔である青白くも美しい顔が現れた。
「醜く妾に縋り付きおって。消滅は免れたが意識がなければ意味が無いではないか、愚か者共め。」
グチャリと払い落とされた仮面顔を忌々しく美しい顔を歪めて足で踏みつけると足元から赤黒い炎が上がり燃え尽きた。
「さて、お前たちは…何者だ?あの御方の力を感じる男、不可思議な気配を持つ女のヒューマン種よ。」
そういうと、ルイーンは手から負の魔力を纏った炎を私達に向けて放ってきた。避けるまでもなくリゼルが手をかざすと炎は勢いを失い消失する。僅かに目を開いたルイーンは口角を震わせた。
「そんなに感じるのか?」
「腐っても神から直接創られた種族だからかな?」
「そうなのか。体を無理やり造り変えるから無茶苦茶痛い思いを短時間にするか、長時間に感じるほどの痛い思いを一瞬にするかの二択を迫ってきた鬼畜な神様の力を感じるのか。」
なにか思い出したのか、死んだ目になってる。二択のようで選択肢のない感じは間違いなくタツキだ。
「お前達、あの御方を知っているならば妾をあの御方に会わせるが良い。」
私達の会話を聞いていたルイーンはタツキに会わせろと言っているが聞いてやる義理はない。
「無理だな。そんな穢れた魂で会えるわけがない。そもそも妹を殺した原因に会ったら一瞬で殺してしまうから、なるべく時間をかけてヤレと言われている。一度ならず二度までもと怒っていたぞ。」
それを聞いて、恐れるどころか嬉しそうに笑いうっとりとした表情になったルイーンは私達の後ろで守られている結界に目を向けていた。
「残念だけど、あの結界はむりよ?」
結界魔法が苦手な黒だけだった時ならともかく、今は白がいる。2匹?同時の結界魔法は女神の力を開放した私でも破るのに時間がかかる。
私の言葉を聞いてルイーンはこちらに視線をむけた。
「...あの生き物はお前の獣魔か?過ぎたものを下等種族がもったものじゃな...妾が手にするべきであろう。」
攻撃魔法を次々と繰り出し私に向って放つが全てリゼルに阻まれる。だが攻撃を止めることはない。
「...半神か?妾の力を簡単に防ぐなどヒューマン種にはできんはずだ。」
「半分位正解かな、私は女神を引き継いだ元ヒューマン種で、彼は女神の補佐の眷属プラス異世界の神の加護付ヒューマン種だよ。」
私の言葉にびっくりしたのはリゼルだった。
「えっ!!あれが加護!?あのヤバいのが加護!?」
ステータスを覗くと加護がついてるのだかは間違いがない。そんなやり取りを聞いていたルイーンはやはり気にすることなく攻撃魔法を緩めなかった。
「女神....?女神.....妾が女神になる....お前は女神....女神は一人だ。」
意識がハッキリとしたはずのルイーンの真っ赤な瞳はやはり虚ろだ。会話が出来ているようでできていない。
かなり減った負の魔力を全てルイーンが身体に吸収し始めると魔力と練り合わせて圧縮し始めた。
「...あんなことできるんだな。」
「腐ってもハイエルフの女王だしね。」
すごい勢いで圧縮している魔力に引き寄せられるほどの風が生まれ吹き荒れている。
«マスター!その魔力はマスターの今の体では耐えられません!»
白からの心話に結界をみると中から心配そうな仲間たちの顔が見えた。
「リゼ!ハイエルフ女王、ルイーンを倒しなさい。」
「御意のままに。」
吹き荒れる魔力の渦に全く影響されていないリゼルの身体が輝きを放ち、細剣を構えるとフワリと舞うように細剣に光が吸い込まれ強い輝きを放った。
ルイーンが圧縮した魔法を放とうとした瞬間、先にリゼルの剣から放たれた強い輝きが空間すべてを飲み込んでいた。
光に飲み込まれる瞬間、私の目に映ったのはあのコの幻に包みこまれた穏やかな顔をしたルイーンの最後だった。