145、穢れた魂
一部の過激な仲間達が種を残すために他種族の尊厳を傷つけて実験を繰り返していたのは知っていた。その実験には妾も協力していたのだから当たり前だが...。
永い時を生きるハイエルフとはいえ終わりはくる。少しづつ衰え、老いていくのだ。あの御方には一番美しい妾を見てほしい。だから同じハイエルフに非難されても、他種族から敵意を向けられようとも実験を繰り返した。
その事で女神から呼び出されるかもと期待をしたが何の反応もなかった。
だからだろうか、聖樹に向かい、煌国のエルフ共に立ち入りを禁じられた時は仲間の行動を諌めなかった。仲間達は多大な魔力でハイエルフの下種であるエルフを一掃し煌国から追い出し聖樹を占拠した。
聖樹は淀んだ魔力を浄化し、魔力を生み出す。魔法特化のハイエルフにとって独壇場だった。仲間達はその恩恵を使い、更なる様々な実験を繰り返した。その間、妾は女神の間で神の道が開かれるのをずっと待っていた。
妾達が占拠した事で世界には淀んだ魔力が溢れ返った。その間一度も母神は妾の前に来ない。
妾の中の黒は溢れそうだ。
その日は仲間がある魔法を成功させたと妾にそれを行使した日だった。それは[継承憑依]の魔法。力と魂を削り他者に自分の魂を移す。身体から馴染めば成り変わることもできる。魂が消滅するまで何度も使えると言う。
大いに喜びに湧いた仲間達だったが、良い知らせだけではなかった。実験に使った妖精族達が一部が逃げ出し、下等種であるヒューマン種と番った竜族の子孫である竜人族が共に神の次に力のある聖竜に助けを求めたと知らせがあった。
地上にいない母神と違い、聖竜は精霊と共に地上にいる。その聖竜が助けを受けこちらに攻撃してきたのだ。
聖竜は強かった。仲間は倒れ、逃げ出し、世界に溢れた魔力の淀みによって姿を化け物に変え見境なく全てを襲った。ただ一人聖樹の前で力を奮うも神に次ぐ力には勝てなかった。相性の悪さもあるが溜めた力も今思えば母神に阻害されていたように思う。
薄れゆく意識の中、ただあの御方の顔だけが妾をつなぎとめていた。あの黒い瞳に妾を映したい........。
意識を取り戻したのはエルフの女の中だった。初めはただ女の行動を見ているだけ、少しずつ意識のない時に行動できるようなり、魔法も問題なく使用できた。そこから生き残ったハイエルフの確保と相性の良さそうな身体に目を付けていった。
ハイエルフを神格化し、絶対的な味方を作っていく。女神教から熱心な信者を洗脳してハイエルフを新たな神とする新しい宗教をつくる。
今度は母神に期待しない。妾が神となればあの御方に会うことは可能な筈だ。...魂が重くなり思考が纏まらないが強い思いだけを優先させていく。
あの御方の名前は何だったか.....。
母神があの御方に肩を置かれた時に一度だけ呟いた「タツキ」。
ひどく寒い。凍える。身体から引き離され黒い闇に飲み込まれ、意識が戻ったのは痛みと寒さからだ。何度か新しい身体を使うたびに死んでいったはずの仲間の魂が重く張り付いてくるが力も共に戻るので無視していた......。思考が纏まら無かったのは穢れた魂のせいだったとは。
妾の事はいい。今は小奴らの方だ。あの御方の力を感じるのは見た目がヒューマンだが神の力を纏う二人だ。
「かなり...力を削がれた....ようだが、頭はハッキリとしたぞ。」
小奴らが何であれ早く肉体を手に入れ、あの御方に妾を映してもらうのだ。