143、ルイーンの目的
お仕置き部屋(空間)はリゼルにとって多少の動き辛いものの白の眷属、即ち神の眷属今この空間にいる誰よりも強いことになる。
私や黒、白は肉体から開放されればリゼルよりもちろん強いが完全に神に戻らなければならず色々と別の弊害がある。このままの状態で神の力を使えばルイーンだけでなくナハトやラピス達も同時にさよならになるので躊躇していた。
なのでここでリゼルの登場は非常に助かった。思ったよりルイーンの負の魔力が濃すぎ浄化が追いつかないのでヤバい選択を迫られる所だった。とナハト達に告げたらドン引き、説教された。
«僕の眷属なので聖魔法特化の神聖騎士になりました。なのでリハビリがてらの初戦闘には丁度良いかもしれません。»
ルイーンに対峙しているリゼルを見ながら白は楽しそうに笑った。
「さて、君が何かはよく知らないけど魂が黒く染まって禍々しい気配を発しているのはよくわかるよ。」
聖光輝く細剣の刀身をルイーンに向けると怯えたように一歩下がったが赤い瞳は求めるようにギラギラしていた。
「...アノカタ....オナジ....」
ルイーンがリゼルに向って手を伸ばすが届く前に細剣が浄化し、ジュッと音を立て焼け消えた。
「ヒィ、グオッ....オォ!!」
消えた手を押さえ痛みに呻くルイーンだが消えた手に負の魔力を集めだし、それが手を再生した。
「負の魔力を絶たないと再生するのか...。なら先にこれだな!」
リゼルが聖細剣を掲げると一際強く輝きをました。その光はルイーンを照らし深い闇に染まるその身を削りとっていく。
「ヤメロ!!ワラワハ..アノカタニ...フタタビアウ....タメニ..!タツキサマ!!」
削り取られ苦しみだしたルイーンが負けじとリゼルに襲いかかった。今まで削り取った負の魔力以上の力を一気に放出してリゼルとの距離を開ける。
ハァハァと肩で息をしだしたルイーンはその姿をまた変えていた。
斑な灰色の髪に青白い身体は死人そのもので、仮面の様な顔はヒビが入った模様がはしり血涙を流していた瞳の部分だけか異様に目立っていた。
その身を纏っていた黒の衣装も体ごと薄れまるで幽鬼のようだ。かなり弱っているのが分かる程にあれだけ濃かった負の魔力がなくなっていた。
「ウゥ....お前はなんだ....?なぜあの方の気配を纏っている?」
苦しそうに問いかけるルイーンにリゼルは首を傾げた。
「この力はエルを支える為の力だ。気配といっても良くわからないな?俺は下僕だからな深くは考えん!!」
アホなことを言い切ったリゼルに私はズッコケてしまった。思わず白を見遣ったが思いっきり視線を逸らされた。
久々のアイアンクローが白を襲ったのは言うまでもない。
«ひさ..しぶりの感覚...じゃない、僕の眷属だからちょっと精神的に引っ張られただけですぅ〜。暫くすれば元に戻りますから〜大丈夫。»
「僕は黒の眷属になるってことは....黒の影響を受けるってことか.....まだマシかな?」
ナハトよ、コイツラは双子...同じモノだよ。あれ?待てよ...てことは私も.....考えるのをやめよう。うん...。
「黒、白。」
««はう!!すみません!!»»
「いやいや.....まあ、いいや。私は結界から出てルイーンに聞きたいことができたから、白と黒は私が出たあと全力で結界を強化して。」
言い終わると直ぐ様結界から抜け出るとリゼルの元へ向かう。まだリゼルより後方は清廉な気配が漂っているが前方のルイーンがいる場所からは重く、暗い気配がまだ漂っている。だが最初よりかなり薄くはなっていた。
「お前達のせいで馴染んだ体がなくなってしまったゆえ、お主の体を一時的ににもらうとしようかのぅ。」
「ルイーン、あなたの本当の目的は何?種の存続は出来ないよ?」
私の体を貰うと言い出したルイーンはもはや種族の存続が望みでは無いように思える。魂だけの存在となった今のルイーンなら魂を汚してまで生に執着する理由が聞ける筈だ。
「....妾は始まりのハイエルフ。始まりの種族は神への謁見が一度だけ赦される。妾も会った。幼い女神は頼りなく、生まれいでた時から自我が成人していた妾にとってあまり好ましいものではなかった。...だが女神の隣に立っていた御方は違う!美しく、逞しく、圧倒的な力を感じる御方!!」
酔いしれるように光悦した表情を見せたルイーンは感情が落ちたように、酔から冷める様にまた語った。
「女神に寄り添い、労り、愛情を向けた。あの御方の関心が向けられる存在になりたいと思ったのだ。あの御方は女神しか見てなかった。あの頼りない弱々しい女神....」
「それでハイエルフ達を扇動して聖樹を狙ったり女神に成り変わろうとした訳ね。女神が弱っていたのは世界や貴方達を生み出したからなのにあの子も報われないわね。」
「妾は、あの御方のお側に行くのだ。その為にはあの御方と同じ神にならねばならない。でないとお会いすることもできぬ。」
何も聞こえていないかのように、自身に言い聞かせるように呟きだす。
「あの御方ってエルはわかるのか?」
リゼルの問に私は頷いた。
「分かるも何も前女神の側にいた人型は、異世界の神であり前女神の兄妹神、龍樹。私を女神にする為に暗躍して、前女神に力を貸したり、リゼの眷属化を早めてくれた食えない人だよ。」