140、駄犬は待てが出来ない
分裂したルイーン1とにらみ合うラピスとメノウナハトにその場を任せ、カインズとハルルの元へ移動したルイーン2を追った私は結界を覆うように広がったルイーン2を見た。
「エルノラ!浄化の力を!コイツ切れないぞ!!」
大剣を振り回し結界に張り付いたルイーン2に攻撃をしているカインズに目掛けドロップキックをかますとカインズは勢い良く、くの字に身体を曲げ転がり転んだ。
「グヘッ!!な…何すんだよ!」
「浄化の力が無いと切れないってわかったんなら攻撃を止めなさいよ!結界を攻撃してんのがわからないの!?」
憤るカインズに、その倍憤った私が睨みつけると涙目になったカインズは黙った。
「エルノラ、浄化の力を使えば退治できる?」
「出来るわ。まずは浄化で弱らせる。ルイーンは身体から無い状態だからアルアネシスの身体に引き寄せられてるの。」
結界を見たハルルは私を見ると頷いて槍を私に向けた。
「[武器付与:浄化]」
手をかざし清浄なる光が武器に宿り槍が輝いた。
「お、俺も!」
気を取り直したカインズが大剣をこちらに向けて差し出した。
「....次にやらかしたらわかってるわよね?」
ギロリと睨むと高速で首を縦にふったので、ため息を付きつつ手をかざした。
「[武器付与:浄化]」
「ヘヘッ、やったぜ!」
輝く大剣を振り回しながら嬉しそうに見るカインズは少年の様に笑った。それを見ながらハルルと私がまた、ため息が揃って出てしまった。
<マスター、こちらは問題ありません。ハーフエルフの女もまだ目覚めておりません。>
<わかった。報告ありがとう。破られるとは思わないけど気をつけてね。>
<おまかせください。白の分もしっかり努めます。>
黒の頼もしい言葉に満足すると結界を覆うルイーン2に意識を戻した。
「先に浄化の魔法を掛けて弱らせて引き剥がして完全に輪廻の和に戻す。」
「「了解!」」
「[魔力増幅][範囲拡大][浄化]」
広い範囲で浄化の光がルイーン2へと降り注ぐと真っ黒な負の魔力が少しづつ薄くなっていく。それと同時に結界を覆っていたルイーン2はうねりながらその身を小さくして悲痛な叫びを響かせた。
苦しみ、悲しみの声を上げるルイーン2は耐えられなくなっはのかその身をズルズルと浄化の範囲が及ばない所まで移動させていった。
「結界から離れた今なら攻撃しても問題ないよな?」
カインズが待ちきれないといったように大剣を振り上げる、ハルルも槍を構えた。
「いいわ。もしかしたら魂の欠片がまだ残ってるかもしれないから、見つけたら絶対に手を出さないで。ハルルお願いね。」
「わかった。」
ちらりとカインズを見てハルルは頷いた。
「ちゃんと言いつけは守るからいいだろ?」
待てないとばかりにウズウズしているカインズに軽く頷くと繋いだ鎖が切れた犬の様に喜び走りルイーン2に飛びかかり切りに行った。
「前よりひどくなってない?あれ。」
「...余りに今の世が弱くなり過ぎて、力を抑えていた分反動が来ているのかもしれない。」
「落ち着いたら世界中のレベル上げが必須かな...転移魔法が使えないのも痛いしね。世界中を回って中級止まりになってしまった魔法も広げないといけないし、やることにはたくさんあるんだから。」
カチャリと愛剣を構えハルルと共にルイーン2に切りかかった。
逃げ道を塞がれ、その身を小さくしながら浄化され弱っていくルイーン2はハルルの一撃を受けるとその身を霧の様に霧散させ浄化の光と共に溶け残った魂の欠片だけを残して消えていった。
「ルイーンの魂の欠片...キレイに浄化されてる。」
魂を拾い上げアイテムボックスにしまうと残ったルイーン1の方に目を向けた。
「向こうも行っていいか?」
「駄目よ。このままハルルと一緒に結界を守ってて。」
シュンの肩を落としたカインズを窘め結界を任せるとまだ決着のついていないルイーン1の元にもどった。
私が近づいたのに気づいたルイーン1は近付かせまいと負の魔力を使い攻撃をして行く手を阻んでくる。その傍らナハトとメノウの力で強化されたラピスが浄化を付与した鎌で攻撃を続けていた。
「.....,.......................。」
(気をつけろ、先程から余り手応えを感じない。)
ハァハァと肩で息をするほど疲れを滲ませるとラピスに一度下がる様に言い私とナハトが前に出た。
「ナト、無理をしないでね。大分薄れたとはいえ、まだ負の魔力は濃いから。」
「はい、僕の力は余り相性が良くありませんが剣に浄化の力をラピスさんに付与してもらったので物理で頑張ります。」
先程の攻撃があまり無かったルイーン2と違い、ルイーン1は負の魔力を使い激しい攻撃をしてくる。ルイーン2はあわよくば取り込もうとしていただけだったようだ。
「ラピスは行けそう?」
「......,.................。」
(問題ない、こちらの浄化の力が弱いようだ。)
まだ疲れが見えるラピスにメノウが小瓶を投げよこした。
「体力回復剤だ。新作だぞ、ありがたく飲め。」
ドヤ顔で進めてくるメノウの顔に苦虫を噛み潰した様な表情をしたラピスがジーと見つめたあと一気にグイッと飲み干した。
「グッ…ゴホッ.....。」
飲み干したラピスの顔から血の気が一瞬引き、青紫色になると身体をくの字にしてむせた。
「毒でも盛ったの?」
「毒と薬は紙一重だからな。俺達には毒はきかんだろう?これは味だ。」
「....、....、.....、......、....、...」
(苦い、エグい、甘い、酸い、辛い、不味い)
放心しているラピスを見るに壮絶な味だったようだ。アイテムボックスから聖水を取り出すと飲み物代わりにガブガブと飲み干す。
「だがこれで体力回復プラス増強が継続的に一日はもつ。」
メノウが言うように聖水で口の中が正常に戻ったラピスはキラキラと輝くほどに元気になっていた。