136、分離
ルイーンが両手を広げると背後に炎が広がりそれは先程とは違い床を焦げ付かせていく。燃え広がることがないのは両手のところでわざととどめているからだろう。
「あ~.....研究所が〜〜〜...」
なんとも言えない情けないラナージの声に力が抜けそうになるが黒をちらりと見ると黒もこちらを見てコクリとうなずいた。
<特定対象、強制転移>
眩い光に包まれ部屋にいた全員が違う場所へと転移した。
何も無い只々広い空間が広がり、明るく薄い様々な色が混ざった空模様は外にいるような部屋の中にいる様な不思議な空間に転移したルイーンは得体のしれない恐怖が芽生えるのを無視した。
「...妾を転移させるとは、そこな獣は神獣か。是非欲しいものだのぅ。」
口元はニヤッと笑っているが目は警戒するようにレアルとサジェスタのそばに立つ黒を見ていた。
「一つ聞きたいんだけど、本当にアルアネシスは…そこにいないの?」
急に私から話しかけられ黒に向けられていた視線が私に向けられる。それは取るに足らない者に向けられた馬鹿にしたような態度で。
「わざわざ、自分から妾の意識を向けるとは...レベルの差があり過ぎるとこうも無謀になるものか?」
ルイーンの言葉に私の後ろにいるラピス、メノウ、ハルル、ナハトが青い顔をして首を振っているのはあえて無視する。
「私が聞いてるの、どうなの?ちゃんと答えなさい。」
さらに問うとルイーンは怒りを滲ませたが素直に口が動いた。
「妾の魂がこの器の魂を取り込むことはない。このまま魂が弱り消滅するのみ。それもあと間もなくだ。」
勝手に動く口に驚き慌てて口を手で抑えるがもう遅い。聞くや否や私は行動に移した。
「返して貰うね。」
そう伝えると、いきなり目の前に現れた私を信じられないものを見たように目を見開き、いきなり襲った衝撃に慄いた。
アルアネシスの体からルイーンの魂をガッシリと掴むとそのまま勢い良く引き抜き遠くに投げる。魂が引き抜かれた瞬間に漆黒に染まった塊とそれにまとわりつく同じ色の靄の様な触手が付いていた。
魂を抜かれたアルアネシスの体はガクリと力なく私の元へと倒れ込んだ。
「お姉様!エルノラ、お姉様を殺したの!?」
サジェスタの目には私がアルアネシスの身体に手を突き刺した様に見えただろう。....まあ、やったけどね。
アルアネシスの体をヨイショと持ち上げ肩に担ぐとレアル達の元へと連れていった。
「殺してはいないよ。分離しただけ。ラナージも回収後一緒に保護をお願いね黒。」
<わかりました。>
「.....生きていますのね。よかった。」
ドリルヘアーの解けた髪を優しく撫でながらほっとしていた。
「うっ、....!?アルアネシス?」
気を失っていたレアルが目の前にいたアルアネシスを見て驚いた。すぐに手を出そうとしたがサジェスタに止められる。
「離しなさいサジェスタ!」
「お姉様!お待ちください。アルアネシスお姉様は操られていたのかもしれません!ですから確かめてからでも遅くはないはずです。」
力の入っていた手からそれが抜けていくのを感じサジェスタは手を離した。
「...しっかり縛っておくわよ。魔法も使用できないようにね。」
「は、はい!お姉様!」
元気よく返事をしたサジェスタは腰にある鞭をロープ代わりにアルアネシスを丁寧に拘束し始めた。
「それでどうなってるの?」
説明を求めるべく私と視線をあわせるレアルに簡単に説明する。
「アルアネシスは引き取られた時に体を乗っ取らた可能性がある。」
「.....乗っ取られた?何に?」
「ハイエルフの女王よ。完全にかどうかは分からない。承知の上かもしれないし違うかもしれない。だからはっきりするまでは...」
「.....わかったわ。」
ちらりと縛られたアルアネシスをみやると、ため息をついた。
「じゃあ、暫く黒に守られててね。分離した魂の方がそろそろ動き出しそうだから。」
ぎょっとしたレアルは自分達の前にいる小さなフェアリーフォックスを見ると可愛らしくジャンプしてクルリと宙返りする黒に複雑な視線を向けた。
「神獣様でしたか?よろしくお願いします。」
素直にお願いするサジェスタに黒は大きく頷くと少し離れた所にいるラナージを回収しにいった。