135、ハイエルフの女王ルイーン
怒りを滲ませこちらを睨みつけるアルアネシス?は急にフッとわらった。
「まだ、滅びてはおらぬわ。妾やそこにいるではないか、ハイエルフを継ぐものが。」
指差したのはやはりメノウとラピスだった。
「残念だけど無理なのよ。」
素直に答えて上げるのが嫌で意味有りげに口角をあげるとアルアネシス?の殺気が膨れ上がった。線引きしていた炎の一部が激しく燃え上がり襲ってくる。
だがハルルの腕の一振りで炎が消えた。
「ちっ、竜族か。相性がわるいのぉ…。」
「お前は魂は穢れ混じり過ぎだ。ハイエルフでは無いお前からハイエルフが生まれることはない。そして仲間もハイエルフではない。」
ハルルがきつくアルアネシス?を睨みつけると意味がわかるのか悔しそうに顔を歪ませた。
「.....ならば器に魂を入れ替え生き続けようぞ。種族が滅ぼうとも妾がおればなんとでもなる。...そうじゃ、やはり神への道へ....!」
爪を噛みながらブツブツと焦点の合わない目で呟き続ける。そんなアルアネシス?を警戒しながらサジェスタがこちらへと視線を向けた。
<黒、レアル達をお願い。>
<わかりました。>
ナハトの頭から姿を消したままレアル達へと転移したのを確認すると私達を隔てる魔法の炎へと手をかざした。
「ふん、ただのヒューマン種に妾の炎を何とかできるとでも?」
気づいたアルアネシス?がこちらを馬鹿にしたように笑みをこぼす。それを無視してかざした手をふわりと横にふった。それと同時に炎はあっさりと消えた。
「な、何故じゃ!ただのヒューマン種ではないのかキサマ!?」
驚きと共にアルアネシス?の体から黒い靄が立ち上っていく。悔しそうに憎らしそうに表情を変えたアルアネシス?は黒い靄に包まれてしまった。
「エルノラ、一体何が起こっているのですか?」
異様な自体にナハトは説明を求めるようにこちらに視線を向けた。
「見てればわかるよ。本体が出てきたっていえばいいのかな?」
ハルルがサジェスタの所まで素早く移動すると黒が結界を張るのを確認し、サジェスタとレアルを両脇に抱えてこちらに戻ってきた。
「ねぇ!アレはなに!?お姉様じゃない!」
黒い靄によってアルアネシスだった者は変容していく。瑠璃紺色のドリルヘアーだった髪は黒く斑に染められ大きな螺角の様に頭を飾り、ドレスは体に張り付く蔦の様に黒く纏われ皮膚と融合していた。美しい顔も黒い模様が入って目尻を飾り、瞳は黒く濁り光っている異様な出で立ちが姿を現した。
「負の魔力と完全に融合しただと!?そんな...ありえない....。」
驚きを隠せないメノウは目の前の現象が信じられないようだ。
禍々しい力を纏いアルアネシス?はうっとりと焦点の合わない濁った瞳でこちらをみつめる。
「妾はアルアネシスではない。器であった者は完全に消えた。」
腕を広げ自身を抱込むように腕を絡ませると肢体を確認するかの様に手でなぞっていく。
「素晴らしい!馴染むぞ、力が漲るようじゃ!フフフッ...妾は、妾はルイーン!ハイエルフの女王じゃ!」
ハイエルフの女王ルイーン。
ハイエルフという種族の始まりであり全てのハイエルフは彼女の血が必ず入っている。純血統を推し進めた過激で非情な為に竜族に最初に制裁された。
死体も残らず竜族に屠られたはずだが魂を回収し保存していた者がいたようだ。
「...........、.............................................................。」
(魂が穢れるはずだ、他に死んだハイエルフの魂まで取り込みながら魂が消滅しないように繋いでいたようだな。)
ラピスの言葉にメノウが目を見張った。
「あの恥知らず共が...その為に俺達の様な者を生み出していたのか!子を産ませたら魂を餌にして、その子供は器にと!!ハイエルフはクソだが元がクソなら当たり前だな!!」
憎々しげにルイーンを睨みつけるがそれを心地良い様に嬉しそうに受け止める。
「今なら良く分かる..お前の母親の魂は私の糧となった。フフフッ、父親はそれを助けようとして妾の下僕に嬲り殺され、お前は父と母によって逃されたが捕まり下僕のモルモットにされた。」
今にも飛び出しそうなメノウを捕まえ、落ち着かせる為に手を握る。と、大丈夫とでも言うように優しく握りかえされた。
その反対の手にラピスが手を握りしめてくる。
「天使族のお前は面白いのぉ、色々犠牲にしたお陰で得難い力を得ておるな。...素晴らしい。そなたの魂を喰らえば女神に近づけそうじゃ。」
そして二人と手を繋いでいる私へと視線を投げかける。その視線は探るような、塵でも見るかの様に軽い。
「こちらにおいで、そのようなひ弱で直ぐ死ぬヒューマン種の女なぞ殺して妾の物におなり。」
ゆっくりと手を差し出すとラピスもゆっくりと手を繋いでいない方の左手を伸ばす。
ルイーンは当然とばかりにニヤリとするとゆっくりと近付こうとしてやめた。
ボトリ…
ルイーンの手が床に落ちた。
落ちた腕には護る君の蔦が絡み、いそいそとラピスの腕に帰っていく。
その光景をルイーンは黙ってみた後、騒ぐでも無く落ちた腕を拾い、元あった場所へとくっつけた。その腕は黒い蔦が繋げ何事も無かったかの様に戻った。
「下賤な鳥めが...妾に歯向かうとは愚かなものよ。」
仄暗い瞳の奥に怒りを滲ませると同時に体から黒い蔦が踊り出た。激しく襲いかかって来る黒い蔦を避けると研究室の待合室が破壊されていく。それを見てラナージが青い顔を白くした。