127、まだまだ若い
仲間達がいる部屋にカインズを連れ戻るとハルルの後ろにラピスが完全に収まり切っていた。
「あれ!?ラピスは?いねーじゃん?」
カインズには見えない様に気配と姿を完全に消しているのだろう。私が先頭で部屋に入った瞬間隠れた為、私は確認できたからわかるのだがカインズが入る前には隠れきっていた。中々の早業だったがハルルが動けば見つかるので前に立つハルルは冷や汗をかいて目が泳いでいる。
「カインズ、約束は覚えているよね?」
ウキウキとラピスに絡むつもりだったカインズは約束を思い出したのか一気に気が沈んだように肩を落とした。
「ほぉ、そんな約束をするほど追い詰められるとは珍しいではないか?」
メノウが普段殺しても死なないようなカインズの様子を見ながら興味深そうに観察していく。
「メノウか久しぶりだな、...しかたねぇだろ?外からの痛みには平気だが内は弱かったんだから...俺も今回初めて知ったんだよ!」
通常なら状態異常に入る痛みや毒等は攻撃と見なされ防がれるが魔神の心臓による痛みは自分から取り込んだ肉体の異物拒否反応と許容オーバーによる魔力の破裂。満杯の器に塊を入れたので溢れるのは必然だろう。そして無理矢理経験値(大)が付与された様なものなので異常無効が効かず肉体が悲鳴をあげたのだ。
「相変わらずバカそうな...いや、バカだったな。何でも口にするから食あたりを起こすのだ。」
メノウの言葉にムッとしたカインズは反論した。
「じゃあ面白そうな物があったら無視できるか?例えば敵が自分の知らないアイテムを見せてきてそれをくれるっていったらお前どうするよ?」
暫し考えたメノウは敵をとりあえず倒してから厳重に調べたあと手に取ると答えた。
「二人共...バカ?」
ハルルがため息をつきながら言葉をこぼした後ろからラピスが恐る恐る顔を出すとカインズの興味はラピスへと移った。
「ラピス!いたのか!?そういえば何かお前達おかしくないか?」
違和感があるが何が違和感なのかはわからないようだ。問題なく強力な阻害効果がでている。ヒューマンに見えているがカインズのセンサーに引っ掛かるのだろう。どれだけラピス好きなんだか...。
「...う~ん、あれ?お前は初めて見る顔...じゃないな?」
考え込むようにラピス、メノウ、ハルル、と見てナハトで視線を止めた。身長差が頭一個ぶんあるので自然と見下げる形になり逆にナハトは挑む様に見上げた。
「あの時はどうも。」
その顔を見て何故か嬉しそうな顔をカインズがしたので行動に移す前に足払いをかけた。
「おもしれぇぇ..........イぎゃ!!?」
綺麗に前からベシャッとなったのでそのまま頭を鷲掴みにして顔をこちらに向かせる。
「ナト...ナハトは私達の新しい仲間で私達が封印した魔王様だよ。彼も仲間だから手を出さないようにね。」
「....はい。」
素直に同意したので手を離すと起きあがり大人しくなった。その耳元を引き寄せ小声で補足した。
「もう一人仲間がいるのだけど、カインズが魔王の力と記憶を封じられていた筈のナハトを負の魔力の多い場所にいた私の所へ確認もせず転移させたから狂化魔王が復活しちゃったのよ?それでその仲間が重症になって、仲間を傷つけてしまったナハトの心も傷つけた。」
ナハトをハッと見てこちらを振り向くと少しは反省したのか瞳に罪悪感がみれたので安心させるように続きを話す。
「治療しているから問題ないわ。ただし反省を活かせなければ意味がないからね。」
自分の行動で他の人を巻き込み傷つけていたこをしったカインズは少しは行動前に考えることを覚えるといいなと思う。
「わかった。」
これまで私達が何度注意しても同じことを繰り返していたカインズは、自分と同じ強さを持つ仲間しか知らなかったが、眠りから目覚め魔国の弱い人々との接する事で手加減を考えたようにナハトとリゼルが仲間に入ったことでカインズが真剣になってくれそうだ。
鬼人年齢的には約18歳位で眠りにつき200年眠っていたのでまだ子供な所がある。年長者が導くのは当然だろう。
とそこでドアのノックが鳴った。ガチャリと入ってきたのは先程別れたチェルナスだった。
「!?魔王様....本当に抑えられたんですね。」
「別に無理して魔王と呼ばんでもいいぞ、俺も固執する訳でもないしましてや正統な奴がいるしな。」
顎でナハトを示すとチェルナスが驚いた。
「知っていたのですか?」
「元々、一時的な繋ぎのつもりだったからな。大体魔王は魔王自信が選び、育て、譲り渡して継承の為に女神の承認がいるって誰だったかの記録に書いてあったぞ?」
「文字が読めたのですね....「おい!!」」
ムスリとしながらも当たり前だろうとチェルナスに言うとナハトにこれからどうするのかと尋ねた。
「俺が一時的に魔王になってこれ以上の崩壊を防いだが余り猶予はないぞ?」
「角を持つ子が生まれるのではないのですか?」
「違うよ。僕が選んで、魔王の仕事を教え、死期が近づいたら共に女神様に会い儀式を済ませる。済ませれば魔王の核が新たな魔王に移され次の魔王が誕生すると同時に皆の記憶もそう書き換えられるんだ。」
記憶が残るのは魔王と新魔王だけで、口伝していいのは一部のみ。だから知らないのは当たり前だとナハトはチェルナスに伝えた。
「そうですか....私としてはノックス様、いえ、ナハト様に戻って来ていただきたいです。」
「すまない、狂化した僕はいつまた暴走するかわからないし...永くは持たないと思う。どちらにしても魔王を続けることは出来ないんだ。」
「そう、ですか。だとしたらカインズ様が?」
「俺は一時的っていったろ?エルノラを待つついでに女神の為に預かっただけだ。魔国の奴に任せるのが一番じゃないのか?」
「そんな、お見捨てになられるのですか!?」
つかみかかる勢いでカインズに詰め寄るチェルナスの肩に私はそっと手を置いた。
「落ち着いて、見捨てるわけないでしょ?新しい魔王には心当たりがあるの。」
私を見たチェルナスの顔には期待と不安が混じっている。
「それは、ある程度の力が有り、今の状況を把握できて皆を納得させられる人物なのですか?まさか赤ん坊を一から育てる訳ではありませんよね?」
チェルナスの出す条件を満たす者はちゃんといる皆を納得させるのは正式な魔王になれば嫌でも納得をせざるを得ない。だって魔王の核が強制するから。
心配するなとばかりににっこりと微笑んでまた肩をトントンとするとチェルナスの顔がほんのり赤く染まる。
「本当に....貴女はいったい....。」
ぼんやりと呟く様にこぼれた言葉は更に追加された手達によって続くことはなかった。
カインズとナハトがチェルナスの肩や背中に良い笑顔で手を乗せていく。理解していないのはチェルナスだけだった。
「....へ!??」