126、 四人目の竜巻 カインズ(赤)
魔神の心臓から解放されたカインズは先程までの痛みと脱力感から解放され、元気に飛び起きた。
「ははは!」
突っ込まれた鳩尾辺りを撫でながら両手を握ったり開いたりジャンプしたりと違和感が無いか調べていた。
一通り確かめ終わると腰のアイテムボックスである小さめなバックから自分の装備を取り出した。今まで夜着の薄地のズボンだけだったのが見慣れた姿に変わる、黒地のピッタリした上服とレザーパンツにシルバーの革グローブ、ナイトブーツ、肩当てを揃えたシンプルな装備だが防御、回避が高い。首には革ベルトが巻かれその中心には剣型のネックレストップが揺れた。
「やっぱりこの格好が一番落ち着くな。」
革手袋を馴染ませる様にギュッギュッと握り、赤い髪を軽く後ろに流した。
「その装備、今まで着てなかったの?」
半壊した扉を取り外しながらカインズに問いかけると当たり前だといった。
「この装備だと固すぎて誰も相手にならないんだぞ?対魔王戦用で先人達ならともかく今の魔族達じゃあ肩がぶつかっただけで瀕死だ。」
魔国バルデナで目覚め、私が来るのを待っていたがあまりに暇だったので、偶々通りかかった魔族に遊んで(絡んで)貰おうと声をかけた所、金目の物を出せと襲いかかってきたので(喜んで)返り討ちにしようと両手を広げて待ったが攻撃してきた剣は粉々に砕け襲ってきた相手は吹っ飛んで消えた。
思わずポカーンとしたカインズは魔族の町に行き住人と兵士、冒険者のステータスを調べた。住人はまだいい、戦う必要のある兵士や冒険者のレベルがカインズが眠りにつく前の半分以下になっていた。
レベル差が大きいのと最強装備のせいでこのままでは触れた途端ポックリといってしまうのではと考え、装備を全てはずした。
上半身は裸、下は初期にもらえる半ズボン
状態異常無効のピアスだけは外さなかったが靴も初期のサンダルにした。
次にほぼ全裸の状態で純粋な力加減をみる事にした。比較的強そうな者を選び相手になってもらう(一方的に)。4分の1位の力加減なら大丈夫だと確信した。(尊い犠牲は忘れないが、死んではいない。)
そうして、いつの間にか魔王城のある街で来ていたカインズは声をかけてきた女、アルアネシスに女神の為に魔王になれと言われた。確かにエルノラ姉が女神になるので目覚めるまで皆で眠りにつくと言っていた気がする。だから迎えに来れないので伝言を女に頼んだのだと思ったらしい。
「魔王は俺達が封印したから新しい魔王がいないんだろ?管理する奴がいないから魔国バルデナがヤバイって聞いて、とりあえず一番強い奴に任せるって話になったから暴れ...ゴホン、俺が管理することにしたんだ。正式な魔王が来るまでな。」
カインズもただ預かるつもりがアルアネシスが色々大事にして、世界に散らばった魔族達を集めだし魔王の妻になってやるから聖樹を手にいれよう等と言い出したのだとか。
それを無視していたら面白そうな物を持ってきたので興味を引かれ試したら今に至る。
「...、前に黒いフェアリーフォックスを連れたダークエルフを転移させなかった?」
カインズは少し悩んでみせるとハッとした。
「ああ、確か尋常じゃない強い魔獣がいたから確認しようとしたら飼い主がいたのに驚いて、ついそっちを捕まえたな...、飼い主がいるなら倒してもアイテムがないからエルノラが気に入るかな~と思って試しに駄目元で転移させてみた。」
「その魔獣私の名前を出さなかった?」
「...そういえばそうだったか?何で知ってるんだ?魔獣の飼い主はエルノラ姉であのダークエルフに預けたのか?」
「じゃあ排除するやそのダークエルフが私達が封印したはずの魔王なのは知らなかった訳ね?」
「!?あのダークエルフは魔王だったのか?前の魔王はもっと凶悪な感じの楽しそうな奴だったぞ!?あれが魔王なら魔獣が魔王といわれた方がまだ納得するぞ!?」
「そう、わかった。確かに育てがいのありそうな原石はウェルカムだけど転移先に何があるかわからないんだから必ず確認して。私が神界にいたら送られた生き物は神力に耐えられず爆散するんだから...(確認済み)」
唾をゴクリと飲み込んだカインズは青い顔で頷いた。今回はパーティーの心話が使用できなかったので不可抗力ということでナハトへと謝罪で許すことにした。
「エルノラ姉が来たなら、もう魔王の代わりはしなくても良さそうだな。魔神の心臓も特に役にたたなかったし、あの魔女を排除すれば魔王が戻ってきてもやり易いか?」
「新しい魔王を立てることになると思うから魔女さんには退場してもらうつもりだけど魔女には聞きたいことがあるから私が対処するよ。」
とそのままカインズの暴れて壊した部屋の家具達に目を向けるとため息がでた。
「はぁ、まずこれを何とかしなくちゃね。」
「ならラピス!ラピスに復元魔法使って貰おうぜ!!いるんだろう!なあ!」
興奮しながらラピス、ラピスと連呼するうるさいカインズを床に叩きつけ大人しくさせると寝室と隣の部屋の扉まで復元魔法をつかった。
ごっそりと魔力が持っていかれるのを感じながらそれぞれの元の形に戻っていく。
「おお~、すげぇ~!!エルノラ姉も使えるのか...前は使えなかったよな?」
「私が何になったのか忘れたの?この世界にある魔法なら全て使えるし他の制限もほとんど受けないよ。死者だけは制限を受けるけどね。」
ニヤリとカインズをみればひきつった笑顔になり固まった。そして部屋が元に戻るまで大人しく待つことが出来たようだ。