125、基本悪い子ではありません
ドゴォォァォン
ドガァァァァン
バキバキバキ
ガラガラガラッ
結界のお陰か崩壊してもおかしくない音が扉の向こう側から聞こえてくる。
「結界を解いた途端に崩れるかもしれませんね...。ハァ...」
チェルナスが扉の前で固まりため息を吐いた。
「チェルナスさん、私が何とかしますからナハト達と一緒に待っていてください。」
「ですが...、(ニコッ)わかりました!お願いします!」
任せてくれというつもりで笑いかけたのだが目も合わせず一目散に来た道を戻っていった。
「まあ、何にせよこれで気にしないですむね。」
チェルナスの結界に干渉して扉の部分だけ一時的に解除すると素早く入り結界をもとに戻した。部屋の中に侵入すると家具等が半壊してあちこち散らばっていた。
「あ~あ、派手にやってるね~。」
部屋の奥に寝室に続くであろう扉が上半分を残し破られていた。下から見えるのは真っ暗な暗闇だけでそこから呻き声が聞こえてくる。
私の侵入に気づいているのか先程から暴れていた音が消えた。ただただ呻き声が聞こえる。
瓦礫とかした家具を避けながら寝室に続く半壊した扉を開いた。
上半身が裸の男がぐったりと力尽きベットへすがり付く様に倒れこんでいるのが見える。
顔は伏せられているのでよく見えないが乱れた赤い髪が汗でしっとりとしていた。暗い部屋のなかでほんのりと光るように目立つ赤い髪は透明感がある。
そっと近付くとぐったりとした体が少し身じろいだ。
「う、ぐぅぅぅ...。」
言葉にならない呻き声が聞こえた。更に触れられる距離まで近付くと顔にかかる髪を退けようと指を伸ばしたが手ごとガシッと捕まれ引き寄せられた。
体制を崩され背中にベットが当たる。いつの間にか両腕を捕まれ頭の横で押さえられているのをゆっくり確認すると私を押さえている痛みを必死に堪える様な表情をしたピンクサファイアの瞳と目があった。
「...グッ、...エル...ノラ姉?」
剣呑な雰囲気が一転、表情は変わらないが空気が少し緩んだ。だが手の拘束が解かれることがない。
「魔神の心臓を取り込んだみたいだね...過剰接取してどうするの?」
呆れた目を赤髪の男に向けたら情けなく眉尻を下げた男は黙ったまま視線を反らした。
「力を手に入れれば...エルノラ姉が...見つ...けやすいと思ったんだよ。」
ぶっきらぼうに汗を滲ませながら呟く男に後先考えないのは相変わらずかとジト目を向けた。
「はぁ、とりあえずその状態何とかしないとね。このままだと破裂するよ?」
「...それは嫌だな。」
どさりと拘束を解き隣にドサリと倒れこんだ男はやはり私の仲間のカインズだ。
赤い髪の鬼人族の青年で特徴そのままの好戦的な性格だ。後先考えないで拳がでるので常に見張りがいる。これでも大分マシにはなったのだが...。カインズは大剣使いのはずだがモンクでもある。
〔名前] カインズ [性別] 男
[種族] 鬼人(神使)(《new》鬼神)
[年齢]218
[職種] モンク、大剣使い
[レベル]250 [状態]魔神融合エラー
HP 9800000/9800000 MP2500/2500
[加護] 女神 武神
[称号] 歩く災害 脳筋族 赤い竜巻
四色のハリケーン(1/4) <new> 自称魔王
「ステータスがおかしな事になってる...とうとうメイン職種がモンクに変わっちゃってるし、魔王に自称ついてる(笑)。」
「うっ...ぐっ...しょうがないだろ、魔国の崩壊が始まりかけてたんだからよ...一時的にも負の魔力を受け止める奴がいるじゃねぇか...っ...。」
全身に広がる激痛を我慢しながらニヤリとカインズが笑った。
「...珍しくまともな行動だったんだね、噂じゃあ魔女の誘惑に乗った脳筋バカの印象しかなかったんだけど。」
「........。」
黙った。
「誘いに乗ったのはわざとだ。まあ、他の国より能力的に強い奴が集まるから全部は否定しないぞ。」
正直なカインズは素直に認めた。
「つぅ...とりあえず何とかしてくれねぇ?」
脂汗をかきながら我慢の限界なのか目尻に涙がみえた。
「後先考えないからいけないのよ?反省しなさいよ。あとついでに仲間達に絡まないでね、問答無用で新たな力をお見舞いするからね。」
なかなか無いカインズの弱体にここぞとばかりに約束を取り付けた。
「...う~、わかった。わかった。新たな力がすげえ気になるけど冗談抜きで死にそうだから約束する。ラピスとハルルとメノウに絡まない。」
約束は守る男なので助けてあげることにした。
綺麗な腹筋をなぞり鳩尾から心臓へ手を滑らせると自分の手に魔力と神力を纏わせズプリとカインズの中へと埋め込んだ。
「グアッァァァァ...ヒィィ...アガガッ...。」
魔神の心臓が侵食するのを拒絶する痛みと外部からの無理な干渉でバチバチっと魔力反発が起きるが気にせず探す。
「はいはい、我慢我慢。あ~、あった。」
私の手に魔神の心臓が握られる。宿主から離れまいと抵抗するので反発が感じられるが無視して握り込み一気に引き抜いた。
「ガァァァァァァァァァ!!!」
引き抜いた瞬間のけぞったカインズは力尽きたようにパタリと気を失ったようだ。引き抜いた後の痕跡は無く綺麗な逞しい腹筋が傷ひとつ無く呼吸で胸筋と共に上限していた。
私の右手にある魔神の心臓は宿主を失い、沈黙した。そのまま握り潰すとバリィィンと砕け散り小さな欠片だけが残った。
「やれやれ、魔神の心臓は他の魔神シリーズの取り込む順番とレベルが足りないと寄生して乗っ取られちゃうんだよね~。アルアネシスが自分や他の人で試してたら面倒な事になってたよ。」
カインズだから抵抗でき、乗っ取られることもなかったが、それ以外に与えられていたら周辺全て滅亡していただろう。
制御不能になった魔神に勝てるのは私達以外なら共和国ハイクタのズィーロ、ジェネラル、アーバンが三人で立ち向かったら何とかなるだろう。
「あとはナトの事を聞かなきゃね。」
気を失い、汗で顔に張り付いたカインズの髪を避けてやるとピクリと瞼が反応しゆっくりと開いた。