124、笑顔なのに...
文官は部屋に入ると私達を期待に満ちた目で見つめたが目線が私の後ろにいくと目を見開き固まってしまった。
「あ、貴方は...!?」
ゆらり、ゆらりとゆっくり文官が近付いたのはナハトだった。
「魔王様...。」
信じられないものを見るように震える手を伸ばした。確信に満ちた言葉にナハトがニコリと笑うと縦に首を振った。
「君はローゲルの血縁者だね。」
「はい。私はチェルナスと申します。ローゲルは私の叔父になります。小さい頃からずっと魔王様の事を聞かされていました...種族が変わっておられますがお姿がはそのままですね。」
上から下まで確認したあと、最後に頭上で視線が止まった。
「ああ、角ならありますよ。黒。」
ナハトが黒に呼び掛けると魔法が解除されいつものダークエルフの魔王が現れた。その瞬間ザッとチェルナスが勢いよく膝を付き頭を下げた。
「御帰還、誠におめでとうございます!魔王様のお帰りを信じお待ちしておりました!」
笑顔を綻ばせながら心から歓迎しているチェルナスにナハトは複雑な心境を表すかの様に苦笑いした。
「チェルナス、ローゲルはまだ健在かい?」
ナハトの言葉にチェルナスの表情が曇った。
「負の魔力の影響かはわかりませんが魔王様がお隠れになった頃から種族の寿命が縮んでおりましたが...魔王様に説教するまではと頑張っておりました。ですが20年ほど前に他界いたしました。」
「そうか...ローゲルは長生きしたな。」
「そうですね。寿命約200年程で150年に縮まった中、魔王様の時代から考えますと300歳は長生きですね。日記を書かなくなってから魔国を一生懸命支えていましたから。」
「本当に頭が上がらないよ。」
ナハトは瞳を閉じローゲルを偲んだ。当時120才を迎えた青年だ。チェルナスに似てるなら真面目そうだ。
落ち着いた所でチェルナスに今の状況を聞くと魔女アルアネシスから赤い球体を貰った元魔王(?)はそれを取り込み力を制御出来ないでいいるようだ。
「結界に閉じ込めてあります。ですが衝撃が完全に防げず、振動で壁が崩壊している状況です。結界もいつまで持つか分からないです。」
ハァ、とため息を吐きながら部屋の惨状をみるのが恐ろしいとチェルナスが頭を抱えているのでナハトが見かねて私に視線を向けた。
「じゃあ、皆ここにいてくれる?私が行って回収してくるから。」
ある程度大人しくさせなければラピスやメノウは近付きたがらないだろうし、ナハトを見て襲いかかるかもしれない。躾は飼い主の仕事なので仕方ない。
「そんな!?魔女ならともかく貴女のような美しい女性に脳筋で、強そうなら誰でも襲いかかる変態魔王の相手などさせれませんよ!」
とんでもないとチェルナスが私の前に立ちふさがった。
「エルノラならば大丈夫だ。その魔王は知り合いでお前の前にいるのはその飼い主だからな。」
メノウが簡単すぎる説明をするがもちろんチェルナスは何の事かわからずナハトに助けを求める目線を向けた。
「チェルナス、僕達は女神に認められた勇者一行なんだ。エルノラは勇者。彼はメノウで賢者の称号をもってる。こちらはハルル、獣王国では英雄だ。そちらの彼はラピス、煌国の神聖騎士で天使族だよ。」
ナハトが次々と紹介していくなか、チェルナスは目を見開きながら口がポカーンと開きっぱなしだ。
「...勇者はや英雄は何とか理解できますが彼は天使族なのですか?200年前にハイエルフと共に姿を消した...?」
信じられないようなのでラピスに背中を見せる様に合図するとクルリと背を向け翼を広げて見せた。
急に大きく美しい白い翼が現れ驚いたが、直ぐに感動したかの様にキラキラとした目になった。直接見て信じたようなのでラピスが翼をしまうと残念そうに眉を下げていたが、ほぅと息をつくと頭を下げた。
「美しい証を見せて頂きありがとうございました。すごい方達なのはわかりましたが、やはり危険です...カインズ様は力を示し魔王になった方ですから。中身はともかくそのお力だけは本物です。」
「ご心配ありがとう。伝えたでしょう?知り合いだって。案内してもらえるかな?」
心配顔のチェルナスににっこりと笑いながら案内を頼むと何故かひきつった顔になった。
「は、はい!!ご案内させいただきます!!」
「......................。」
(笑顔で威圧する癖は相変わらずだ。)
「エルノラ本人は優しく促しているつもりみたいだから気づいてないがな。」
「威圧を受けるのは視線を真正面で受け止めるからだ。笑顔に魅せられると目が合う。視線を外せ。」
「勉強になりますね。」
ラピス、メノウ、ハルル、ナハトが何やらこそこそ話し合っているのにも気づかずチェルナスに案内されるままカインズがいる魔王の私室へと案内さるのだった。
《威圧は視線を外す位では防げないけど...ただマスターの場合は威圧じゃなくて畏怖なのだがな。》