123、対処方法
銀で装飾された豪華なシャンデリアが等間隔で廊下を照らしているので黒で統一された魔王城内は明るく壁に描かれた金の模様が光を反射して美しい。
何人かとすれ違ったが全く気づかれていない。認識阻害魔法と防音魔法を使用している為だが侵入し放題なのは余りいただけないと思いつつ、世界がこの基準なら仕方ないのかもしれない。
「さて、カインズはどこかな~?」
私の言葉にラピスがビクリとするが今回はむしろあちらから来て貰っても構わないので特に止められる事は無い。
ただ会いたくないのが分かる位、普段の無表情が崩れていた。両隣をハルルとメノウに固めてもらい後ろにナハト、前は私が守っている。
《女神に守られてどうするのだ...》
ナハトに乗っている黒がジト目でラピスを見ていた。
「それも仕方ない。黒もカインズに会ってみれば分かる。」
ちらりとラピスに哀れみの含んだ視線を送ったハルルは白もカインズの被害者となると思っていた。
「ああ、確かに黒も捕まりそうだな。」
特に興味のない目でメノウは白をみた。
「ナハトもその対象になると思ったが...半々だな。」
白を見ていたまま下に視線を移しフムと考えると視線を戻した。
「な、何ですか?ラピスさんがこんなに嫌がるなんてそんなに...カインズさんでしたっけ?危ない人何ですか?」
クルリと振り返り止まると皆も立ち止まった。
「会う前に話しといた方がいいかもね。」
またクルリと振り返り歩きながら簡単に説明することにした。
「ナトは魔王の時に一度会ってるよね?」
「はい、身の丈ほどの大剣を振り回しながら嬉しそうに襲いかかってきましたね。身体が上手く動かず意識がハッキリとはしない中で赤い髪の鬼人族の青年だけは悪寒を覚えました。」
懐かしいですね。とナハトが複雑な表情で答えた。
「カインズは強い奴が好きで、可愛いもの美しいものも好きだ。」
ハルルがラピスの翼や可愛らしかったナハトの姿は危ないと成長して良かったと頷いた。
「だが今の姿だと強い者だから絡まれる可能性がある。まあそれはここにいる全員言えることだが...。いつもの事だからな。」
「................、.........。」
(構われたら無視しろ、それが一番だ。)
逃げれば追いかけ、相手したらしつこいので無視するのが一番の回避方法だ。
「できるなら半殺しにして縛って猿轡をつけるとしばらくおとなしくなるよ。」
私の言葉に皆ドン引きした。
「それができるのはエルノラだけだ。」
メノウの言葉に皆頷いた。その時、ドンッと先の方から大きな音が響いた為そちらに意識が向かった。
音がした方から叫び声や悲鳴が聞こえ、私達は音のした方へ急ぐ。
城の廊下を曲がると奥の方がモウモウと壁が崩れた埃が大量に舞い、メイドさんや騎士、文官等が血を流し倒れていた。
助けを求める声や痛み呻く声、確認しろと兵士に声を張り上げる文官もいる。そっと近付き指示する文官に声をかけた。
「こんにちは~、あれ?今晩はかな?人を探しているのだけど聞いていいかしら?」
キッと睨まれると怒られた。
「見て分からないんですか!!それ所じゃないんですよ!早く医師を呼んできなさい!」
人のことは言えないが初見の相手にいきなり指示を出すとは中々だ。賊の可能性を疑うよりまず人命優先なんて素晴らしいね。
「[全体回復]」
この場にいる者たちに怪我を回復させる魔法をかけた。光と共に深い傷から浅い傷、擦り傷まできれいに回復した。
舞っていた埃が落ち視界が綺麗になると呻き声や助けを呼ぶ声は無くなり自分に起こったことが信じられない様に驚き見回している様子がみれた。
「あ、あなた方は一体....?」
文官も何が起こったのかポカンとした顔で驚いていた。話しかけた時点で魔法は解けるのでいきなり現れることになるのだが騒ぎのお陰で回りも自分のことで一杯、むしろ先程の怪我が幻だったのかとあちこち体を見回し、回りの崩れた壁をみてアレ?と首をかしげている。
「回復魔法が使えるので使用しました。お困りのようだったので...ご迷惑でしたか?」
申し訳なさそうにしながら聞くと文官は首を横に激しく振ると慌てた。
「とんでもありません!とても助かりました。一度に皆を癒す程の回復魔法が使用できる者はいないので驚いてしまいました。先程は不躾な態度をとり申し訳ありませんでした。助けて頂きありがとうございました。」
丁寧に頭をさげると文官は改めて対応してくれた。
「人をお探しのようですが、探し人のお名前をお伺いしても?」
「チェルナスという方を探しているんです。」
「!!?...何故かお伺いしても?」
「人魚が魔女に止めを刺すため。」
あらかじめレアルが仲間と連絡をとるために教えられたおとぎ話の引用した合言葉だ。知っている者はこれで言葉を返してくれる。その言葉は...
「騎士の剣をお貸しします。...人魚のお知り合いでしたか。こちらへどうぞ。」
文官はまだ騒然とする場を駆けつけた騎士に任せ少し離れた場所へと案内された。