122、アルアネシスを引き留めよう
レアルとサジェスタは言われた通りにアルアネシスのいる魔王城に行くと城の門番に面会を頼んだ。
「アルアネシス様、姉妹様がお会いしたいと門まで来られていますがどうされますか?とても姉妹とは思われないのですが...。」
とりあえず報告をと思いまして。と兵士が伝えに来た。アルアネシスは兵士が初めて見る、本当に嬉しそうな顔をするとご苦労様と声をかけられ門へと向かってしまった。
「明らかに姉妹ではないと思うのだが...」
兵士は不思議に思いながらも自分の持ち場へと首を捻りながら戻っていった。
カツリカツリとヒールを鳴らしアルアネシスはやって来た。レアルは普通に、サジェスタは嬉しそうにアルアネシスへと手を振る。
「レアル姉様、サジェスタ!良く無事で!研究施設と教団が何者かに襲われたので心配していました!集会に全ての下僕達が集まった所を狙われたようですわね...。姉様とサジェスタは無事で良かったですわ。」
本当に嬉しそうに目尻に涙を溜めながら喜んでいるアルアネシスを見てレアルは痛んだ胸を軽く押さえた。
「何者かはわからないけど襲撃されたわ。いきなり爆発が起きて一緒にいたサジェスタと共に隠し通路を通って何とか逃げたけど他の仲間は......。」
悲しそうに目を伏せたレアルとサジェスタを見てアルアネシスは仕方がなかったのだと二人を慰めた。
「手駒を失ったのは残念ですけれど、わたくし達が無事ならどうでもいいですわ。それに養父様たちも捕まり処刑されたようですし、丁度女神になるには存在が邪魔でしたから片付いて良かったですわ。フフッ。」
取り乱しもせず姉妹を思いやる以外むしろいなくなって良かったと笑うアルアネシスを見て無表情になるレアルとその異常な姉を少し怖いと思い始め、内心怯えが見えたサジェスタを離れた所でラナージが見守っていた。
「ところで、彼はどなたですの?」
建物の影で隠れながらレアル達を見守っていたラナージとアルアネシスの視線が合った。
「...サジェスタの為に私が厳選した婿候補よ。サジェスタが心配で付いてきたのね。」
レアルもラナージがいる方を見るとサジェスタに連れてくるよう指示する。
真っ赤になったサジェスタがラナージを呼びに走って行った。
「サジェスタも乗り気ですのね。」
「私の見る目に狂いはないわ。アルアネシス...女神になる必要は無いじゃない。あんなジジイ共の願いを叶える事もないのよ?」
「女神になればアンバランスなこの世界が元に戻るのです。わたくしは不幸な子供たちを生み出すこの世界を救いたいのですわ。」
「その為に今いる子供達を犠牲にしてもいいの?」
「必要な犠牲ですわ。」
ニコニコとレアルの言葉に返答するアルアネシスは全く戸惑い無く言い切ったのをみてレアルは深いため息を吐いた。
「お姉さま、こちらはラナージです。」
もう話し合いは終わりと、ラナージを連れてきたサジェスタに向き合ったアルアネシスはラナージを見つめる。
「あら、珍しい。鬼人族の青年ですのに細く刺青も少ないのですね。わたくしは、アルアネシスと申します。」
「ラナージです。珍しい鬼人でスミマセン...あまり戦闘は得意ではありませんがサジェスタさんの為なら命を投げ出しても守るつもりです!」
「フフッ、確かにレアル姉さまの目は確かみたいですわね。お姉さま自体もよい旦那様がおられるようですし。安心ですわ。」
ラナージをじっと見つめていたアルアネシスは瞳を閉じ一瞬だけ寂しそうな目をするとすぐに笑顔になった。
「お姉さま...女神にはどうやってなるのですか?魔王様の力は手に入りそうですか?前に私が失敗してしまったので申し訳ないです。」
しょんぼりとするサジェスタの頭を優しく撫でると気にしなくていいといった。
「今は待っているの、魔王様の力を取り込み生まれ出でるのを...フフ、フフフ。」
怪しげに笑うアルアネシスをレアルが警戒する。
「何かしたの?」
「魔神の心臓を差し上げたのですわ。取り込み済みですから魔王様の魔力を食い散らかして完成するまで待てば女神になる為の魔力を手に入れることができますわ。」
「嫁になるんじゃなかったの?」
「あの男は女に興味が無いようで、脳が筋肉に侵されているみたいですわ。口を開けば、強い奴はどこだ?戦え!まとめて相手しろ!と、男女構わず戦いを挑んでいますもの、無理ですわ。」
「...だから無いっていってたのね...」
「何かおっしゃいまして?」
エルノラが新しい魔王はアルアネシスの誘惑に乗らない理由が何となくわかったような気がしたレアルだった。
「いいえ。それよりも魔力を手に入れれば本当に女神になれるのかしら?」
「お爺様達の書にはそう書かれていましたわ。もし駄目なら...またその時考えます。」
全て失ったが前と違い保護のいる子供では無い。力も今まで貯めた資金もある。この場所からは離れなければいけないだろうから次は大帝国アルネストに行けば簡単には捕まえに来れないだろう。
その前に獣王国にいる可愛らしい子猫を捕まえに行ってもいいかもね。と今後の予定を頭の中で組み立てていった。
あの日、アルアネシスを物怖じせず真っ直ぐに見つめ、拐われて売られるかも知れない恐怖を見せず対応する子猫を見て胸の高鳴りを感じた。
あの可愛らしい子猫が欲しいと。
「ああ、早く魔王様が覚醒しないかしら?フフフフ。」
引き留めには成功しているが、不気味に笑うアルアネシスをみてレアルとサジェスタとラナージは早く合図が欲しいと思ったのだった。