120、真の伝記
元の部屋に戻るとハルル達が戦利品を机に並べていた。男四人が使うに余裕がある大きな机に隙間無く置かれた紙の束や古そうな本。これは教団を壊滅する時にハイエルフに関わりがありそうな物を持ってくる様に頼んでいたのだ。
「先に確認していましたよ。こちらにどうぞ。」
ナハトに促され席に着くと、私の前に厚みがあまりない古い本が置かれた。
「ある程度目を通したら前に魔女の女が喋っていた記述があった....ここだ。」
メノウが置かれた本をパラパラと捲りあるページで止める。
その本の内容を読むとサジェスタから聞いた言葉が記されていた。
「......................。」
（やはり書き換えられているな。）
私の後ろからラピスが覗き込むと瞳を開き[神眼]を発動させ本の内容を読み出した。
「........................................................................................................................................................................................................................................................................。」
(神より神託を受けた。神の遣いとして種族を率いるものを種族王とする。その中の魔種族、魔王は聖樹から溢れでた負の魔力により狂う。魔王は魔神となり勇者により封印される。神は嘆き、力尽き、永久の眠りに付いた。他の遣い達も共に次世の種族に王を託し眠りにつく。魔族の王だけは託されず魔族種は混迷する。安定無き世界がやがて破滅へと向かうだろう。他の次世の遣い達が協力し魔神を封印する場を禁地とし見張るよう伝える為にこれを記す。遠い世に異界の神の協力により、魔神を浄化し世界に安定をもたらす者が遣わされるだろう。遣わされる者は世界の神の後継者。新たな神が継承され目覚めし時まで伝えが継ぐよう望む。)
パラパラと最後のページを開くと著者に魔王の第一補佐の名前と王印が記されていた。
他のページには魔王の出生から他の王との初対面等、狂化する前までの教育や生活が難しい文面で書かれていた。恐らく次代の補佐への育児書の様なものかも知れない。
「....ローゲル」
ナハトがポツリと呟いた。本を見つめて複雑な心境が顔にでているのか懐かしさ悲しさ恥ずかしさが感じ取れた。自分の育児書の様なものを見れば複雑にもなるだろう。
「それが本当に書かれていた内容なら随分と書き換えたようだな。受け継がれた他の協力者達がこれを読んで協力していたので書き換えられた方があまり拡がらずにすんだのだろう。」
メノウが本を手に取りパラパラと内容を目で追っていく。
「ローゲルは僕の兄のように接してくれた人です。僕が狂う最後までずっと側にいてくれました。完全に狂う前に離したので危害を加えずに済んだのですが最後に見た悲しい顔を思い出してしまいました。」
「ああ、置いていかれてかなり怒っていたようだな。最後まで共にいられなかった文句が三ページに渡り書かれているぞ。」
そのページを開き本を渡すとナハトがそれを読んでいく。
「...........はは、ひどいことかくな～。」
立ち上がりナハトの後ろにまわるとゆっくりと頭を撫でた。後ろにいるので顔は見えないが小刻みに肩が震えているのが見えた。
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ナハトが落ち着いたのを見計らい、今後の方針を決める為にレアルたちと再び集う。ラナージと手を繋ぎ促されるまま戸惑うように席に着いたサジェスタも一緒だ。
「あとはアルアネシスの行動を止めるだけね。新しい魔王が誘惑されてアルアネシスの手に落ちる前に捕まえないといけないわ。」
レアル、サジェスタ、ラナージが頷く中、私達はキョトンとしていた。
「......................。」
（あれが、ただの女に堕ちる訳がない。）
「....？ラピスさん今何か言いましたか？」
「新しい魔王様は知り合いっぽいんだけど、もしその知り合いで合ってるならアルアネシスには落ちないって。」
私が声を拾えないレアル達の代わりに伝える。
「よく聞こえるわね、もう少し大きな声で喋れないの？」
ラピスが普通に喋ったら廃人になる説明をすると三人とも青ざめた顔色になった。風魔法で声を拾う様に伝えだが得意ではない属性の為無理だそうだ。
「まあ、ラピスの言葉は私達の誰かが伝えるとして、まずは新しい魔王に会いに行きましょうか。アルアネシスはサジェスタとレアルが呼び出して、その間に私達が新しい魔王に会いにいくわ。」
「わかったわ。」
「僕もサジェスタさん達についていってもいいですか？」
「駄目よ！危険すぎるわ！」
ついていくというラナージにサジェスタが猛反対すると握っていた両手を包み込み真剣な表情になった。
「僕は力はないので頭でサポートします。サジェスタさんの側にいさせてください。」
「ラナージさん....。」
危険が伴うので心配だが言葉が嬉しかったのだろうサジェスタの声色が上がっている。
「はぁ、この二人と行くの疲れそうよ。」
二人の世界に入ってしまったのを見て、テディの事を思い出したのかどこか羨ましそうで寂しそうな顔になった。
完全なラブラブ夫婦だったレアルにはあまり言われなくないと思う。
「では、三人でアルアネシスをお願いね。私達は直接魔王城に潜入してカイ....に会いましょ‼️」
