119、サジェスタの処遇
「レアルお姉さまはアルアネシスお姉さまを裏切るのですか?」
「.......裏切るも何も、私は初めから反対していた筈よ。」
「なら、あのまま笑い者にされ見せ物にされたままでも良かったと!?アルアネシスお姉さまが迎えに来てくださらなければ、また同じ目にあっていたのですよ!」
「そうね、その事に関しては感謝してるわ。でも、闇ギルドや教団のやっている事はあの貴族と変わらないわ!」
「....あれは、欲にまみれた犯罪者でしてよ。私達は違うわ。」
「何が違うの?親のいない孤児だけでなく親の元に幸せに暮らしていた子供の達まで目的の為に拐い、用がなくなれば奴隷に....実験にされた子供は私達以上に辛い目に会うのよ!」
「それは....実験は犯罪者だけにしましたわ。嫌がった子供はちゃんと逃がしましたし、協力してくれた子供達は新しい親元へ送りましたわ。」
「私達がそれをしなければ教団の連中は子供達を処分するつもりでいたし、アルアネシスが奴隷に売っていたのよ。数人行方のわからなかった子もいるわ。最近やっとリストにある子供達を確認して騎士団に頼んだの。一人だけ名前もわからなくて行方不明だけど....。」
「....そんな、お姉さまは子供たちは幸せになれるから大丈夫だと。お姉さまが女神になればみんな幸せになれるって....。」
「最後の子供を探して無事を確認したら艷の魔女は二度と現れることはないわ。私の今のこの姿を捨てるつもりよ。」
「........」
レアルとサジェスタ、隣の部屋にいる二人の会話を風魔法で拾い皆で聞いている。
「最後の子供ってナトのことじゃない?」
「そうですね。付けられた経緯はあまり覚えていませんがエルと出会った時は奴隷の首輪をつけられていましたから恐らく僕ですね。」
ナハトとの最初の出会いは、盗賊の荷物に拐われた奴隷の首輪をしたナハトを見つけた時だ。あの時はナハトは全て忘れていて衰弱していた。
「サジェスタさんはやはり魔女なのですね...本当は優しく心の美しい人なのに。」
悲しそうな顔でラナージがサジェスタを美化しまくっている。頭の中がやられてしまっているようだ。恐るべし欲の魔女。
「ふむ、恋と呼ばれる現象か....」
ラナージの背後でメノウが実験材料を確保するべく捕獲アイテムを構えている。それをハルルが押さえていた。
「さて、そろそろ隣の部屋に行こうか。」
私が席を立つとラナージが立ち塞がった。
「あの、行く前にサジェスタさんをどうするつもりか教えてください!」
不安な瞳を隠せず焦りを滲ませこちらをじっと見つめてくる。軽くため息が出るのを押さえられなかった。
「どうも、こうもないでしょ。ラナージさんがどうするかでしょ?受け止めるのか、忘れるのか、どんな結果でも決めるのはサジェスタであり、貴方でしょ?」
心意を図る私の視線を受け、怯えるように足が一歩下がったが目を逸らすことはなかった。
「...僕は」
ラナージが何か言う前に彼を避けると扉を開けて隣の部屋へと移動した。
サジェスタとレアルのいる部屋の扉を開くと二人がこちらを注目した。サジェスタだけが目を見開き驚いている。
「なっ、な、な、何で!?ここに!!」
私をみて驚いたサジェスタが指を指しながら後ずさりした。
「お久しぶり~。今日は露出してないんだね~あの時は(ピーーーーー)「いやーーーー!!?」」
凄い勢いで距離を詰められ、口をおさえられた。顔を真っ赤にしてワタワタと慌てている。
「ち、ちょっ、お待ちになって!!?な、何で、あ、貴女が、ここにいるんです!?!?」
私とレアルを交互に見ながら驚き、更に最後部屋に入ってきたラナージをみるとサジェスタの目に悲しい感情が映された。
互いに目が合い時間が止まる....のを私が遮った。
「はいはい、二人っきりの世界にはいらないでねーー。」
ハッとして二人とも気まずそうに視線を外すと何とも言えない空気が部屋にながれた。
「ラナージさんはこっち。レアルはそこに座って、サジェスタはここね。」
ラナージを左手にサジェスタを右手に掴み部屋のソファに座らせる。机を挟んで向かい側にレアルと私が座った。他のメンバーは隣の部屋でお留守番だ。
グイグイと押され、逆らう余裕もないのか促されるまま全員が席に着いた。互いに隣が気になるのかチラチラと相手を意識しながらも気まずげな雰囲気はそのまま。
そんな二人を反対側のソファで呆れたようにジトメを向けるレアル。その隣に腰掛けた私。
「私はエルノラ。賢者様は名乗ったけど私はまだだったよね?....今日はベビードールじゃないんだね?」
向かいに座るサジェスタが目をそらし赤くなる。その隣のラナージも想像したのか真っ赤になって鼻を押さえた。
「あっ、あれはお姉さまに着ろと言われて仕方なく....普段は今の様な格好です!」
清楚なお嬢様風の格好を見ると確かに同種族では浮きそうだ。
「それよりも何故あなたがここにいるんですの?レアルお姉さまを唆したのですか!?」
「いや、唆してないし。....こんな短期間でそれなりにデカイ組織潰せないし。サジェスタはもうわかってるんでしょ?」
「な、何をいってますの?」
私の言葉に戸惑うように瞳が揺れた。
「前に会ったダンジョンの奥には魔石はないわ。私達があそこにいた本当の目的は聖樹の根を治す為だった。傷付いた聖樹には負の魔力が満ちていたの。濃い負の魔力はあの場でも感じられていた筈よ。もしあのまま中に入ってたら.........。」
「恐ろしい化け物になるか、死ぬじゃないか!?」
サジェスタが答える前にラナージが答えた。
「えっ?!」
驚きラナージを見るサジェスタに気まずそうに教えだした。
「魔王様の研究をしていて気づいたのですが....負の魔力はモンスターを新たに作りだしたり、魔力を持っている生き物を狂わせて恐ろしい化け物に変異させるんです。それに耐えられず死に至ることもあるんです。奥にその負の魔力を浄化する聖樹様が傷付いていたならかなりの負の魔力を溜め込んでいたはずです!」
「ならサジェスタが中に入っていたら....」
レアルが最悪の状況を思う浮かべたのか顔が青くなった。
「でも、アルアネシスお姉さまが力を手にいれる為にって....おねえさま....。」
「サジェスタ、このまま使い捨てられるか、完全に決別するか決めてくれる?一度目は逃がしてあげたけど今度は逃がさない。私達に付くなら条件付で何とかしてあげる。」
ゴクリと息を飲んだサジェスタはレアルを見ると目を伏せ暫くうつむいた。