118、壊滅完了
興奮冷めやらぬ会場で霧状になった眠り薬をたくさん吸ってくれたお陰で皆さん仲良く夢の中だ。
「上手くいったわね。私一人では途中で気付かれる可能性もあったから助かったわ。風の魔法で補助してくれたでしょ?」
霧状に部屋の隅々まで行き渡らせるには風で散らせるのが一番だが水の魔法を使用しているレアルでは出来なかった。
「こちらの方が早いですからね、早く縛って騎士団に預けましょう。」
「....ええ。エルノラ、もし良ければ敬語ではなく普通に話してくれない?....その友達になってくれると....嬉しいわ。」
ほんのりと頬を染めたレアルに友達になってと言われたらそりゃあ勿論なりますとも。
「もちろん!やっぱりテディさんがいないところではレアルって呼ぶね。改めてよろしくね、レアル。」
「ええ!エルノラ、よろしくね。」
ガッチリと握手するととても素敵な笑顔をレアルは見せてくれた。どこか諦めたような悲しい瞳の色は無くただ純粋に綺麗な心からの笑顔だった。
二人で協力し蓑虫を大量生産していくとあらかじめレアルに案内されていた騎士団詰所前を思いだし蓑虫を転移させていく。蓑虫は転移後偶々整列していた騎士達によって牢屋へ運ばれる仕組みだ。
やっと最後の蓑虫を転移させると施設のなかを確認に行っていたレアルが戻ってきた。
「中は誰もいないわ。あらかじめ闇ギルドの全勢力で魔国を乗っ取る戦争だと言って集めたからかしら?」
「その理由で集めたんだ....レアルはマーメイド種とセイレーン種の特性両方持ってるから意識して呼び掛けたら自然に従っちゃうんだよ。」
「えっ?私がマーメイド種なのはこの体でわかるけど、セイレーン種も入ってるの?」
「入ってるよ。マーメイド種だけなら小さい頃から陸には上がれないよ。成人しないと人型をとれないからね。」
まあ、ステータスを見るとすぐわかることなんだけど。ハーフではない、マーメイド種もセイレーン種も女性しかいないからだ。ただ子供は親の種族を受け継ぐので、もしマーメイド種族とヒューマン種が結ばれると女の子ならマーメイド種に男の子ならヒューマン種になる。男の子がマーメイド種の血を引いているのは間違いないので男の子が大人になりセイレーン種と結ばれると女の子が生まれる場合マーメイド種とセイレーン種の特性を持った者が生まれる。
余談だが親の特性を受け継ぐなかでレアなのが覚醒遺伝で数億分の一の確率で祖先の種族に産まれることだ。
マーメイド種なのに子供の頃から陸に上がれるとすればその子はマーメイド種と別種族のハーフと言うことになる。
「そうだったのね、何も聞いてなかったから....家族以外とは誰とも会わずに、一人になってから知ったの。私と見た目が同じ人がいないんだって。....テディもこんな私をみたら怯えるかしら?」
寂しそうに口許を綻ばせながらポツリと呟いた。
「諦めるんですか?」
ハッと顔を上げ不安そうな顔をしたが一度目を瞑り開くとニヤリと笑った。
「まさか、私から逃げるなら縛り上げて私がいないと何もできないほど溺れさせてぐずぐずにしてやるわ。」
(わぉ....まあ、テディさんはすでにぐずぐずだったけどね。)
「じゃあ早く終わらせて帰らないとね。」
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その日、魔国バルデナの王都で不可解な爆発事故が起きた。騎士団が派遣され調査を行った所、一部爆破を逃れ無事だった部屋から大量の闇ギルドと今まで決して表に出なかった謎の教団の犯罪の証拠が次々と発見された。
犯人たちは全て騎士団が捕らえ、教団も目も当てられぬ程に壊滅(物、人含む)した。
その解決に尽力したのはずっと潜伏調査をしていたある女性だがその情報は伏せられた。
魔国の人々は騎士団と勇気ある女性に感謝した。
「....これは、いったい...。」
急に連絡の取れなくなった後ろ楯や仲間たちの確認をするべく数日ぶりにアジトを訪れてみれば瓦礫の山しかなく、通りがかりの人に尋ねれば一枚の号外を渡された。
信じられない内容に怒りを通り越し笑みが漏れてくる。
「よくも....わた...くしの顔に....泥をぬってくれて....御礼を申し上げなくてはねぇ。」
号外をグシャグシャと丸め火の魔法で燃やすと大事な姉妹達を探すことにした。簡単にやられる姉妹達ではないのでどこかに隠れているか私を探していることだろう。
「....魔王様の城にいると知っている筈、私の所に来なかったということは捕まっている可能性も高いですわね。....なら先にやはり魔王様を堕とす事にいたしましょう。フフフッ。」
(もし私しかいないなら、それはそれでいいわ。面倒なお爺様達の相手より女神に近付くための準備を優先させるべきだもの。女神になれば死んだ同胞も捕まったかもしれない姉妹たちも簡単に救い出せるわ。)
瓦礫の山を一瞥するともう興味を失ったかのように魔王城へと優雅に踵をかえした。
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魔術研究所内。
「というわけなんです。....本当に申し訳ありませんでした。」
椅子に座ったサジェスタの足元に綺麗な土下座を披露しているのはラナージだ。どんな理由だろうと騙している事実に耐えられずサジェスタに理由を告白した。
「...........。」
サジェスタは綺麗な土下座を眺めながらポヤーっとしていた。
「騙した事については本当に申し訳なく思います。ですが闇ギルドと教団の壊滅させたのは謝りません。貴女の様な優しい女性にこれ以上罪を犯してほしくありません。」
頭を上げたラナージは真剣な瞳でサジェスタを見つめるとサジェスタの手を取り懇願した。
「寂しいなら僕が家族になります。ここに来るまでの間の出会いしかありませんが、ぶつかった子供に優しい眼差しの笑顔で許し、困った老人をいつものことの様に自然に助ける様子をみてとても心の綺麗な方だと確信しました。僕には勿体ないのも分かってます。」
「...........。」
必死に語っているラナージは手を取りながらも視線が手元に落ちているので段々とサジェスタの顔が真っ赤に染まっているのに気づいていない。
「他に紹介することもできるのですが、僕が紹介したくないんです。貴女にふさわしくなれるようになります。どうか僕の恋人になってください!」
そしてラナージが意を決して顔を上げ、サジェスタを見た時には顔を真っ赤にして気絶していた。