112、王立魔術研究所
奇抜な外観を裏切らず、中も奇抜だ。絵の具を白いキャンパスに見立てバケツでぶちまけた様なエントランスが出迎え、数本の木が建物の中に生えている。それぞれに鳥のお洒落な巣箱が置かれその巣箱には受付と書かれていた。暫し固まっていると....
「あら~、よくいらっしゃいました~。」
オブジェのような小さな受付?の中からアクアブルーのお団子頭をした妖精族の女の子が間延びした挨拶で現れた。
「冒険者の方々~、エルノラ様たちでございますね~。ラナージ所長から話は聞いております~。わたくし王立魔術研究所の受付をしておりますファルファと申します~。」
空中で一回転し、短めのスカートの端を持ち挨拶するとニコリと微笑んだ。
「冒険者のエルノラです。こちらは私の仲間でハルル、ラピス、メノウ、ナハトです。ラナージさんはこちらにおられますか?」
右から順番に簡単に代表して紹介していく。
「申し訳ありません~、所長は只今所要で出かけておりまして~、ですが直ぐに戻られますので客室を御用意させていただいてますのでご案内いたします~。」
パタパタと羽を動かし案内してくれているが目の前を舞うように飛ぶのではなく少しでも休むと落ちるかのように忙しなく動いているので落ち着かない。
そのせいだろうか、メノウがフッと前に出たのを止め遅れてしまった。
ガシッ!!
「ギャッ~、何をするのですか~~!!」
あろうことかメノウがファルファを鷲掴みにした。急なことに驚きファルファはメノウの手を剥がそうとするが非力な妖精には無理なようだ。
「ほぉ、妖精を間近で見たのは初めてだが羽の付け根はこうなっているのか....ここは....」
掴みながら手首を捻り観察しながらファルファの服を掴みだした。
「ヒィーー!?変態です~~~!ビェーーーーン!!!」
とうとう泣き出してしまった。そこでやっと
我に返った私は行動にでた。
「なにをしとるんじゃお前わ!!!!!!」
メノウの身長の更に上まで、天井のギリギリまで飛び上がると渾身の踵落としをお見舞いした。驚いた事で手が緩みファルファは脱出、見事に命中し崩れ落ちた。大きなたんこぶが出来たメノウをハルルにお縄にしてもらうとラピスがファルファに癒し魔法をかけた。
「ごめんなさい、ファルファさん大丈夫ですか?」
「うう~、ひどい目に会いました~。大丈夫みたいです~、癒しをありがとうございますです~。」
「エルノラ、メノウはどこまで縛る?首より下?腹?」
もうすでに首より下は簀巻き状態になっていたので懐から猿ぐつわを取り出しメノウの口を封じる。
「ありがとうハルルこれでいいよ。仕上げにこれを付ければ安全だね。」
「蓑虫みたいになりましたね....。」
ナハトが憐れみの視線をメノウに向けたがそれだけの事をしたのだとため息をついた。
「では、こちらです~。」
案内を再開したファルファの後をついていく、勿論蓑虫メノウはハルルに引き摺られて。
部屋へと通じる路は誰もすれ違わず静かで研究所というよりは奇抜な美術館のようだった。
「ファルファさん、研究所なのに誰もおられないのですか?」
「皆様は御自分の部屋がそれぞれの研究室になっております~、各部屋には研究用の機材や防音、防壁等配慮されており~必要なものがある時場合のみ以外は部屋からお出になられませんです~。」
安全確認のため朝に一度必ず連絡を入れる以外はそれぞれの管理、客人が来る場合も危険がないようにエントランスから受付が付き、研究室のない客人専用通路から部屋へと通されるのだそうだ。
「では~、こちらでお待ちください~。」
案内された部屋は奇抜さとは無縁の落ち着いた部屋で一通りの生活が出きる仕様になっているようだ。
ファルファは空中でペコリと頭をさげると扉の右上にあるもう一つの小さな扉から出ていった。
暫くして部屋にあるお茶を頂いていると部屋の扉が開かれた。
「エルノラさん!!お久しぶりです!」
勢いよく現れたのは道に行き倒れていたときより顔色も良く身なりも整えられたラナージだった。急いできたのか髪が少し乱れ、肩にはファルファがしがみついている。
「ファルファさん...大丈夫ですか?」
しがみついているファルファの足元に手のひらを置くとヨロヨロとしがみついていた手を離し私の手へと倒れこんだ。
「うう~、こんなんばっかり...もっといい職場を探してやります~~~!」
「ゴメンゴメン、ファルファが肩にいるの忘れてた!」
ラナージが謝り倒すがファルファは怒りが収まらないようだ。
「この間もそうやって~綺麗な女性を案内するのに興奮して私を鷲掴みにしたあげくブンブン振り回したの忘れたのですか~!!」
私の手から飛び出したファルファはラナージの頭をまで飛ぶと小さな足でゲシゲシと踏みつけた。
「ゴメン、ゴメン!!イタッ、痛い、悪かったって、この間より大きな蜜瓶をかってあげるから許してくれよ。」
「ふん!三瓶を大瓶で許してやるですよ!」
「あ~、わかったわかった!」
懐の財布を取り出し中身をみてガックリと項垂れるのをみたファルファはラナージに舌を出すと部屋から出て行った。
「ハア~、...すみませんお待たせしました。」
席で成り行きを見ていた私達はラナージが席に付いたので座る私の周りにメノウ以外が集まった。
「先にこれを。本当に助かりました、ありがとうございました。」
机の上にラナージに貸したお金が袋に入って置かれたのでそれをアイテムボックスにしまう。
それを確認したラナージが今の魔国バルデナの状況を説明してくれた。