111、魔国バルデナ
魔国バルデナ
昼夜逆転した広域に居を構え、夜に活動を多くする種族が多い。冒険者になりバルデナより外に出る者はまず他国との生活逆転を克服することが初めの戦いとなる。
その後、スキルである[順応]を取得することができ体が慣れると同時にフィールドによる暑さや寒さ等での戦いにも役立つ一石二鳥のスキルだ。
日の光がどうしても駄目な種族は[夜の護り]と呼ばれるアクセサリーを身に着けることで日中でも出歩くことが出来るのでこちらを用いる者が多く商人や貴族達は重用している。
魔族種は血の気が多い、ごく稀に戦いの苦手な者は馬鹿にされた。馬鹿にされた者はやはり血の気が多いので力ではなく知力などの他方面を伸ばし悔しさをバネに研究者になる。
魔国魔術研究所はそんな者達の集まりで、そんな彼等をまとめるラナージも間違いなく仲間だろう。
「あんたたち、本当にあの場所に行くのかい?」
バルデナに入ってすぐ道を歩いていた山羊の角のおばあさんに道を尋ねた。別にラナージから教えてもらった王都の外れにある目立つ外観をした建物が見付からなかった訳ではない。
魔国バルデナに入る門前からやたら派手派手しい虹色の建物があるのが見えていた。魔国は夜の国のイメージがあり街の景観は賑わいつつも青くほんのりと光る街灯が照らし落ち着いた幻想的な美しい街並みだ。
その中に金やら銀やら蛍光色も加えた虹色のやたらと目立つ建物があれば二度見してしまっても仕方ない。見事に景観を損ねている。だからそこが私達の目的地とは思いたくなかったのでおばあさんに道を尋ねたのだ。
「やっぱり間違いなくあの建物みたいですね。」
横を見ればド派手な屋根が落ち着いた民家からひょっこり顔を出しているのが見える。あれ以外は目立つ建物がないのだから、あれしかないよねやはり。
「あんた達はエルフ種族かい?....大きな声ではいえないが魔王様には気を付けなよ、何でもエルフ種族を妹君の婿に宛がう為に婚姻している者も平気で王城に連れていき、二度と戻って来ないらしい。」
ナハトとメノウ、ラピスを見たおばあさんは小さく声を落として忠告してくれた。
「ありがとうございます。気を付けます。」
おばあさんにお礼を言ってその場を離れると人気のない場所まで移動していく。周りに誰もいないことを確認して結界、認識阻害、防音魔法をかける。これで近くに誰か来ても気づかれないし声も拾えない。
「アレに妹?聞いたことがない、エルノラ知ってた?」
「いや~、ナイナイ。まだよく状況はわからないけど妹がいないこと確かだよ。」
ハルルの問いに私は手を横に振りながら断言した。カインズは家族に捨てられた鬼人族だ。その家族はカインズを捨てたあと事故に会い亡くなられている。
何故知っているか、その場にいたからだ。
父親らしき鬼人と母親らしき鬼人が私の前を凄いスピードで馬車を走らせ去っていった。
森の入り口に置き去りにされた小さな鬼人の男の子を残して。男の子は立ち上がり馬車を追いかけたが小さくなっていく馬車は崖の近くを通ると車輪を道の石に取られて傾きスピードのついた馬車はその勢いのまま横転し、片側が崖だった方へ落ちてしまった。
よろよろとそれを見ていた少年は馬車が落ちた崖まで行くとその場でしゃがみこみそこでずっと呼び掛けていた。お父さん、お母さんと。
私は少年を抱え浮遊魔法で崖の下まで降りると亡骸と対面することになった。少年は父と母であった顔が判別できない亡骸に血で汚れるのも厭わずしがみつき泣いていた。
他に御者の亡骸を見つけたので少年の父母と共に浄化魔法をかけ埋葬した。そこでポツリポツリと聞いたのだ。カインズは一人っ子で大事に育てられていたが力を使うと段々と見境なくその場にいる者を襲ってしまうのでとうとう父母に恐れられ捨てられたのだと。
「......................。」
(エルフ種族が狙われているなら幻覚、いや幻惑魔法で変装するか。)
幻覚魔法は視覚的にごまかすだけなので付き合いの浅い相手や魔力の低い者向きだが、幻惑魔法はこの人はこうだったと意識事変えることが出きるのでカインズ相手なら後者の方がいいだろう。
「ラピスとメノウは幻惑魔法でヒューマン族に姿を変えて、ナトは....黒がお願いね。」
いまだにナハトの頭に乗っかっている黒が頷くと魔法が発動しナハトは色黒なヒューマンになった。
ラピスとメノウも自らの魔法で姿を変えてヒューマン族の姿に変える。
これでカインズに会っても元々ヒューマン種族だと認識されるはずだ。
ちなみにその場で見ていた者や魔力がこの場にいる者達より高くないと幻惑は見破れない。
「これで準備はいいかな?では、あのヤバイ感じの建物に向かいますか。」
変装したとはいえ魔国バルデナに入り込んだ美形集団が目立っていたのは言うまでもない。
目立つ外装を目印に近付く程に住人がいなくなっていく。民家を抜け、森林公園を抜けると隔離された様な一角が現れた。高い外壁に立派な門はまるでお化け屋敷の様にボロボロで壁には国立魔術研究所と彫られている。
「建物は遠くから見ると派手で立派そうに見えましたが、近くで見ると奇抜ですね。」
「奇抜なお化け屋敷か、楽しみだな。」
「......................。」
(中も色々な意味で奇抜そうだぞ。)
「行きたくない。入りたくない。怖い。」
ナハトは苦笑いし、メノウは楽しそうに口角を上げ、ラピスは[神眼]で何かを見て、ハルルは人見知りで怯えていた。
「はは。じゃあ行きますか!」
ハルルの手をつかみ引っ張ると私達は魔窟へと足を踏み入れたのだった。