110、至高のレシピに隠されたもの
腐った巨体を大きく動かし、今にも千切れそうな尾で腐肉を撒き散らしながら奮闘しているアンデッドドラゴンをニヤニヤしながら観察し逃げているメノウを距離を開けて見学している私達。
逃げないようにラピスが範囲結界魔法を発動させ、たまにハルルが自分に注意が向くよう攻撃してメノウを助けている。通常攻撃は霧になり無効化されるので魔法で凍らせながら削っているのだから慣れたものだ。
ちまちま攻撃する理由は竜種がモンスターでは無いので死体が残るがアンデッドドラゴンはモンスターへと変異しているので残るのは魔石のみ、なので部位破壊をして素材を手にいれる。
「よし!粗方取り終わった。ラピス、楽にしてやってくれ。」
一通り素材を手にいれ満足したのかとても良い笑顔でラピスに後始末を頼んでいる。自分でやれよと思わなくもないが散々な見た目になってしまった可哀想なアンデッドドラゴンを見てラピスが待ってましたとばかりに浄化魔法をいつでも発動できるように構えていたようだ。
アンデッドドラゴンはラピスの浄化によって一片の欠片なく綺麗に浄化されたのだった。
「はは、アンデッドドラゴンを簡単倒しましたね....昔より強くなってますよね。」
私の横で一通り見学していたナハトがひきつった顔で苦笑する。
「まあね、限界まで強くした後に狂化魔王を倒した特典で前女神様に限界突破して貰ったからね。」
通常のレベルは99で止まるがイベントをこなし課金することで最大200まで上がる。そこを更に最終的なボスである狂化魔王を一番に倒した特典で250まで上がった。その後、世界がゲームから解放され上限が失くなったので鍛えればまだまだ強くなるはずだ。
先人達といわれるゲームプレイヤーは~200。
ハルル達は250、私に至ってはハルル達と同じだったが今やレベル表示が無い。
この世界の一般的な兵士達のレベルは10から50程、ギルドマスターをしているアラベスタ等はズィーロ達と同じく150程だった。
強力な敵はゲーム時代に粗方倒したので今の世界の住人達はレベルが上げにくいのかもしれない、ズィーロ達はモンスター達の襲来でレベルが上がってアラベスタ達は脳筋よろしくドラゴン退治等をして上がったのだろう。
(う~ん、程よく中級ボス並みのモンスターを配置するか。やっぱり見回らないと現実は見えてこないよね。早く計画を実行しよう。)
今後の対策等を考えているとメノウが何かを持って近付いてきた。
「エルノラ。探していたレシピの残りを手にいれたので渡しておく。」
意気揚々と達成感のある顔で懐からレシピを取り出し渡されたので受け取る。
「おお、至高のレシピ最後の二枚!これで全部集める事ができた~!」
残りのレシピを取り出しある一定の順番に並べる。と、隠されたレシピが現れる。
「このレシピにかかれた材料は....」
レシピに書かれている材料を目で追っているとメノウが何かを持っている手をズイッと私に差し出した。
「これって、アンデッドドラゴンからとった素材だよね?」
メノウの手には肉片の塊が赤黒く滑っている。あんまり直視したくない。
「そのレシピの材料の一つだ。アンデッドドラゴンの〔ピーーーー〕。」
「...........確かに、材料の一つにある。」
至高のレシピに隠された神のレシピは材料が特殊でおおよそ食べられる物ではなく下手物揃い。
残りの材料も呪われた果実、流星の涙、聖樹の樹液、女神の体液など入手困難な物ばかりである。
「材料になりそうな物はエルノラが眠っている間に集めておいたから後で確認してくれ。」
アンデッドドラゴンの〔ピーーーー〕をアイテムボックスにしまうとハルルと共に樹海を先行していった。
(早く作りたくてウズウズしてるなあれは。)
進行速度が明らかに上がった前を行くメノウ達に歩調を合わせながら先ほど見たレシピの内容を頭に叩きこんだ。
「....そのレシピで何が出来るんです?」
アンデッドドラゴンの〔ピーーーー〕を見たナハトは出来上がる物に不安を感じるようだ。
「これはね、特別な薬のレシピだよ。」
レシピで完成する物は[神の箱庭]。
黄金色の液体が、美しい細工の施されたクリスタル瓶に入れられた形で現れる。それは料理ではなく召還アイテムだ。名前からも分かるように特殊な空間を形成しあるものを呼び出す。
「......................。」
(使用する素材からしてこの世の物ができるとは思えない。)
ラピスは畏怖するようにレシピを持つ私から距離をとるのでレシピをアイテムボックスにしまった。
「....確かにこの世のものではないかもね。ふふっ。」
思わず漏れた笑みにラピスにドン引きされたがそれ以上に私は喜びに満たされていた。
樹海に入って二日後、ようやく出口にたどり着いた。清浄魔法によって清潔にはしてあるが肌に纏わり付く様な不快感はとれた気がしない。
「予定より早く着く。このままで魔国バルデナの主都に向かう?」
「このままバルデナの主都に入る。魔道研究所にいるラナージに会いに行こう。」
ハルルは頷くと樹海にまだ未練があるメノウの首根っこを掴んで引きずって先行していった。
「....、..................。」
(はあ、行きたくない近付きたくない。)
足取りの重いラピスが何か言っているが、進みの遅いラピスを見たハルルが引き返しメノウを引きずる反対の手でラピスを荷物の様に担いで運んでいった。
「ハルルは面倒見が良い、いい子だね。」
「僕達も遅れない様行きましょう。」
《ハルルはマスターに蹴飛ばされるラピスとメノウが哀れなのだろう。》
樹海で何度も足止めされたのを繰り返せば多少のせっつきは我慢してもらいたい、何故なら急いでいるのだから。
二人を両手に抱えながら道に現れる敵を蹴飛ばして前に進むハルルを私と何が違うのかナハトの頭に乗っている私の助手に問いたいが、溜まっているお仕置きリストに書き留めて置くだけにしておこう....今は。