107、良薬口に○○
「で?なんで一日もたたずに部屋が壊滅するんだ?」
朝食に呼びに来たズィーロが見たのはテーブルや椅子が半壊し、その散らばった破片に囲まれた中、ラピスの前に護衛君3号がメノウの前に新種護衛君が触手を絡ませ牽制し合っていた。
その周りで更に他に被害がでないよう飛んできた木の欠片等をオロオロしたナハトと馴れた様子のハルルが防いでいる。
「あ~、まだ壊滅まではいってないですね。半壊で済んで良かったですね。」
扉の前に立つズィーロの隙間から覗いた私は部屋の惨状に驚く事はなかった。むしろこれ位で済んだのでハルルとナハトを誉めたい。
「....どういうことだ?」
「いつもなら部屋だけじゃなくこの辺り一体が吹き飛んでます。」
ズィーロがギョットして後ろで覗いている私に向き直ると高い背を屈めて顔を近づける。
「何とかしてくれ。ジェネラルに見つかったら卒倒しちまう。アイツがギルドの金管理してるんだ。」
「はい。保護者責任として勿論お受けしますよ。というか、私がいるのにいい度胸だと誉めたいですね。」
私は今までで一番の、にこやかな笑顔でズィーロに返事をした。それを見たズィーロが一気に顔を青ざめさせブルブルと震えだしていたのだが既に扉へとズィーロを避け入ろうとしていたので気づかなかった。
部屋に足を踏み入れた瞬間に部屋の中の四人はビクッ!!と身体を硬直させ固まった。
「あんた達は私が見張っておかないとダメなのかな?それとも黒や白みたいに制限をかけたお仕置き魔石を身体に宿してあげようか?」
右手に魔力を込めて魔石が出現する前に私の足元に四人が土下座していた。
「「「スミマセンでした!「.....!」」」」
(スミマセンでした!)
「メノウはテーブルと椅子を元に戻して....ああ、確かアイテムボックスにテーブルと椅子があったからそれを出して。その後、ラピスと一緒に部屋の掃除ね。ハルルは二人を見張っててね。ナト..じゃないリゼは私と一緒に来て。」
いそいそと片付け始めた二人を厳しい目で監視するハルルを申し訳なさそうに見るリゼルに化けたナハトを伴いズィーロの元に戻るとズィーロは部屋の中を凝視していた。
「おいおい、俺は止めてくれれば良かっただけなんだが....なぁ、あれは何だ?」
部屋の中へ目線が釘付けのまま話しかけてくるので何がそんなに気になるのかわからない。
「あれって?何かありました?」
「あれだ、あの見るからに高級そうなテーブルセットだ!元々の部屋に置いてあったやつはあんな高級そうなもんじゃないだろ?何だ!?あのヤバイオーラが出て煌めいている黒いテーブルは!!」
メノウがアイテムボックスから出したのはゲームのイベントで家具の素材依頼をこなしたら貰える自室模様替え様アイテムだ。
確か黒竜の鱗の素材集めで貰えた黒曜石竜殺しセットだった気がする。自室にセットすると竜種モンスターにクリティカルが出やすくなり防御が20%アップだったか?
「まだあと三セットありますから他の部屋も揃えますか?」
私の問いに、ズィーロは何言ってんだコイツ!?の顔でブンブン首を振っている。
「そうですか、残念です。」
「はぁ、お前もあの賢者の関係者なのは納得した。....部屋のテーブルはありがたく貰っておく。」
なぜか昨日よりも疲れた顔をしたズィーロの後ろに付いて執務室へと移動した。
執務室の中には沢山の書類を片付けるべく手に持つペンを走らせるジェネラルが、入ってきたズィーロを睨み付けている。
「ズィーロ!ここにいろと言っただろう!!書類を捌いていかないとアーバンがまだまだ沢山あると白目をむいていたぞ!」
執務室は前に来た時より書類の山が二つ程増えている様に思える。違う所は前には無かった二つの机が椅子と共に置かれその上にも書類が山積みになっている。その一方にジェネラルが座ってひたすら書類にサインをしているようだ。
「少し休憩がてらに様子を見に行っただけだ。」
ジェネラルの睨みにも怯むことなく後ろ頭を掻きながら自分の机へと向かいドカリと腰を下ろした。
「おー、おはようさん。よく眠れたか?ふぁ~....。」
後ろから声をかけられ振り向くと目の下に隈を色濃くつくったアーバンがあくびをしながら大量の書類を抱え部屋に入ってきた。
「おはようございますアーバンさん。よく眠れましたよ。私は。」
アーバンはリゼルに見えるナハトに視線をやると何だ?夜這いしに行かなかったのか?とナハトをからかい真っ赤になったナハトがオロオロしている。
「アーバン!無垢な者をからかうな!さっさと席に戻って書類を片付けろ!」
追加された種類と終わらないサイン地獄にジェネラルのイライラが止まらないようだ。
「まあまあ、ジェネラルさん。これどうぞ。」
私が懐から綺麗な小さなガラス瓶を取り出すとジェネラルの元へ行き差し出す。
「これは?」
怪訝な顔をしながらも興味があるのか手に取りガラス瓶をじっと見つめる。しばらく見つめたかと思うと軽く目を見開き私の顔を見た。
「同じものはあと何本ある?」
ジェネラルの言葉に私はニヤリと笑うとこう言った。
「お好きなだけ用意出来ます。」
その言葉にジェネラルはフードから見える口元を同じ様にニヤリとすると指を3本立て差し出して来たのでその手を取り握手に変える。
手をとられたジェネラルはビックリしたが私を見ただけで手を外そうとはしなかった。だが不思議そうな顔になる。
「連れが部屋の家具を破壊しまして、変わりの物で対応したのですが迷惑料で忙しいジェネラルさん達にこれを一日に一本を守って頂けるなら三百本差し上げます。」
その言葉にガタッとジェネラルが立ち上がった。
「いいのか!?部屋を破壊したのはあれだが変わりの物で対応してそれをズィーロが良しとしたのだろう?ならそれはそこで終わりだ。迷惑料といってもこれ一本でこちらが逆に金を払わなければいけないはずだ!それを三百だと!?」
ジェネラルの興奮具合に心配になったのかズィーロが近寄りジェネラルの手からひょいと取り上げた。
「なんだ?そんなに貴重なアイテムなのか?」
ジロジロと眺めるがジェネラルの様に興奮したりせず首をかしげている。
「鑑定をかけたら、このアイテムは疲労回復と覚醒の効果が長時間あり副作用が無い。今まで見たことがない新しいアイテムだ。もし世に出回れば国の国家予算程の値が付く可能性がある。」
ジェネラルの言葉にズィーロがアイテムを見てギョットした。それをすかさずジェネラルが取り返すと両手で包み込む。もう離すつもりは無いようだ。
「その内に世界医術師会?だったかな?ギナマ先生という方が新しいアイテムをどんどん世に出してくれると思いますよ。」
それを聞いて少し落ち着いたのか力が抜けたように椅子に腰を下ろした。
「ああ、ギナマ先生か。有名な方だ。何でも賢者様から神書を頂いたとかで高性能の回復薬を作り増やして流通までこじつけたとか。今までの古い流通に関わっていた者達を雇い新しいアイテムの流通に力を注いでいるとか。」
アーバンがギルドも大量に新しい回復薬になったお陰でここ最近は死者が格段に減ったと教えてくれた。
「賢者からなんて冗談かとも思ったが....これを見たら本当だったんだなと思えるな。」
何気にジェネラルが酷いことをいったがメノウの今までのハイクタでの行動を考えれば仕方ないのかもしれない。
「というわけで、三百本差し上げます。もし出回り始めたら他の人にも進めてください。今はジェネラルさん達に必要でしょ?」
白い木箱に三百本入ったアイテムをジェネラルに渡すと大事に抱えたジェネラルは魔法で鍵をかけ奥の棚にしまった。
「ありがたく貰っておく。エルノラ殿。」
手元には3本のアイテムを残し一本一気に煽ると残りの二本をズィーロとアーバンに渡した。ズィーロとアーバンは受けとるとお互いを見合ってから覚悟を決めた様にゴクリと喉をならしアイテムを煽った。
「「甘!!!」」
喉を押さえ近くにあった水差しの水を何回か煽ると喉に絡み付く様な甘さは消えたようだ。
そう。このアイテムは苦くないしエグミも無い。ただひたすらに甘い。シロップに砂糖と蜂蜜と水飴を混ぜたような絡み付く甘さなのだ。
良薬口に苦し。良薬口に甘し。
このアイテムの改良もギナマ先生に丸投げだ。