99、細剣は斬るんじゃない突くんだ何て誰が決めた
聖樹の根がある場所は亀裂の最終地点。
歪な空間がぽっかりとひろがっている。まるで地底ダンジョンの最終ボスが待ち構えているフロアの様に負の魔力により重苦しい暗闇で辺りの視界も悪い。
そんな中でほんのりと光を放っているのは聖樹の根が負の魔力を浄化しているのだろう。
「リゼはこれ以上進まないでね、狂化しちゃうから。」
右手でリゼルの進行を止め遮る。
「...俺は役に立たないのか?」
ボソリと呟かれた言葉にリゼルを仰ぎ見るとうつむいた顔には悲しそうな、わすがに悔しそうな色が浮かんでいた。
「立たない。ここの負の魔力の濃さは最強先人達も裸足で逃げ出すレベルだよ。...もう影響が出てきてるし。」
リゼルの頬を両手で包み込むと顔を上げたリゼルと目が合い、瞳の奥に濁りが見えた。その中に私が映り、微笑んでいるのを確認するとリゼルの頬がだんだんと朱に染まっていく。
「これから強くなるんでしょ?期待してるよ。」
そしてムニッと掴んで伸ばした。
「いひゃい。」
残念美形の出来上がりだ。
「まさか、ここまで酷く溜まっていたとは...流石に私でも危ういかも知れないな。」
負の魔力の濃さを見てメノウが息をのむ。
「..................。」
(ここまで溜まるのは異常だ。)
ラピスも信じられないものを見るように呟いた。
「....メノウ、ダンジョンのボスを倒した時にこの亀裂を作ったのか?」
ハルルが考える様に顎に手を当ててメノウに聞く。
「まあ、そうだな。あの時は共和国の冒険者ギルドの老害達が煩くて、憂さ晴らしに新ダンジョンが出来たから研究がてら、多少強い魔物と戦えるかと期待して行ったら的外れだったんで、首を切り落とす時につい思いっきり上から下へと振り切ったら地面がぱっくりと切れたんだ。」
こういう風にと、上を指した指を下へと振り下ろす。最下層にいたダンジョンのボスをメノウの全力の剣で振り切った結果、上層から最下層どころか更に奥まで剣圧で切ったのだ。
「..................。」
(お前の剣はエルノラの試作品だろ。)
ラピスが呆れた様にため息を吐く。私の愛剣の試作品であるメノウの剣は細剣バージョンなのだが威力はゲーム時の中でも一番攻撃力が高くあり得ない仕様になった。一番のあり得ないのは剣に付与されたスキルだ。
[地裂き]細剣は突くだけの武器じゃない、地面が切れてもいいじゃない。
と説明には書かれていた。今なら分かる、前神様が私の愚痴を聞いたんだと。
(折れた細剣に当たり散らしたからな~。)
今までメノウは細剣を振り切る何て事はしなかった。余程、冒険者ギルドの老害とやらが酷かったのだろう。
「エルの試作品って事は、エルの剣はもっと凄いってことか?」
負の魔力を押し退けるくらいリゼルの目がキラキラしてます。
ちらりと腰の剣に目を落とす...まあ全力の使用は作成して試し斬り後すぐに禁止されていましたよ。ふふふ..。
「我が思うに、その時に根が傷ついたのだから数年前になるだろう?その間、メノウが魔物の首をもって血濡れにした共和国の事件とか負の魔力が異常に溜まる原因をあちこちで作っていたなら...」
「..........。............。」
(非常に有り得るな。聖樹も弱っていたし。)
ラピスが頷き、ハルルがジト目でメノウに視線をやると気まずそうに目線を泳がせた。
阿鼻叫喚した共和国ではかなりの恐怖を撒き散らしたし、その後の今は一年間定期的にモンスターを送り込んでいる。負の感情が溜まりやすく、そしてモンスターに放つ魔法で負の魔力となり傷ついた聖樹の根では浄化しきれずにここまで濃くなったのだろう。
「まあ、ともかく早く浄化しよう。気分が悪くなってくる《緊急!マスター!!》?」
黒からの緊急心話が繋がる。
《どうしたの?黒。》
《魔王がナハトに掴みかかりました!!》
《?何で?私の名前に反応しなかったの?》
《いえ、名前どころか近付いた瞬間に首を捕まれて....あ!?おい!!マスター!ナハトが強制転移させられます!》
黒の焦った声が響く。
《どこに転移させるつもりなの!?》
魔王は私の名前を聞く前にナハトに反応したってことは知り合い?首を掴んで強制転移!?一体どこに飛ばすつもりなのか....。
《マスターの元に転移させるつもりの様です!....アイテムがどうとか言っています!》
私の元に転移させるなら間違いなく魔王は赤い竜巻と呼ばれ私のサポート迷惑キャラの一人、脳筋鬼人のカインズだ。
《今は私がいる場所は負の魔力溜まりなの!転移を阻止して!》
ここに直接転移させられたら間違いなく負の魔力を大量に取り込むことになる。
《間に合いません!》
捕まれた時点で強制転移の準備が整ってしまったようだ。なら、こちらがどうにかするしかない。
「[浄化]!」
ナハト達が転移させられるこの数秒の間にできるだけ浄化をするしかない。
ありったけの魔力を込めてこの場所の負の魔力を浄化する。
「エル!負の魔力が一瞬で消えたぞ!凄いな!」
リゼルの嬉しそうな声に辺りを見ると確かにあれだけ濃かった負の魔力が消えて聖樹の根が見えている。根には大きな傷が有り、その傷の先には倒れた男と本体とは違い弱々しく光を持つ根の先があった。
「..........................。」
(あの倒れた男から凄まじい負の魔力を感じる。)
ラピスがゴクリと唾を飲み込みじっと倒れた男を見つめていた。
ハルルやメノウも同じように動けずに男を見つめている。
(....間に合わなかった。私のミスだ。)
倒れた男は強制転移させられたナハトだろう。近付こうと動き出そうとした時、誰よりも早く男に近付いたのはリゼルだった。
「!?リゼ!!」
止める間も無くリゼルが倒れた男にかけより抱き起こすとリゼルは男をみて驚き私を見て何か言おうとしたがそれが言葉になることはなかった。
「リゼ!!!」
何故なら抱き起こした男の手にいつの間にか握られた真っ黒な禍々しい長剣により胸を刺し貫かれていたからだった。