98、吐いてもらいました。
ダンジョンの奥へと進むと、大きな亀裂が出迎えてくれた。だが天井から続いている筈の亀裂は不自然に塞がれ、逆三角形の入り口ができていた。どれだけの力を込めれば入り口近くからこんな底にまで到達するのか....。
少しづつ上から亀裂を塞いでいき、ここ最下層に到達した。最後の亀裂を塞げば終わりの筈だったのだが....それだけならわざわざ奥まで行かなくともダンジョンの入り口で修復出来る。土魔法を使い亀裂を埋めるだけの話だ。
だがそうしなかった。そもそもメノウはダンジョンの修復に来たのではない。誰かが落ちても気にしなかっただろう。
そう、本来の目的は聖樹の根だった。
それがなければ今も亀裂はそのままだっただろう。
かつて、このダンジョンでボスモンスターを倒し共和国へと首を持って行き、煩わしい者達を黙らせたまでは良かった。が、やり過ぎてダンジョンを傷つけ大きな亀裂を作ってしまった。それを気にも止めず忘れていた数年後、共和国から新人を教育する為にダンジョンの使用する許可を求められ快諾した。勿論ただではない。
暫くするとモンスターの狂化や冒険者の狂化が見られるようになったと冒険者ギルドで騒がれた。その頃、メノウは大帝国アルネストで賢者として遊びに来ていた。狂化によるモンスターが各地で増えているとの事を冒険者ギルドから連絡が受け、原因を探ることにした。
最初の狂化冒険者は亀裂に落ちた獣人だった。獣王国へと向かい話を聞くと他にも落ちた者がいるらしいが負の魔力に当てられ覚えていない。覚えていたのは、共に落ちたのが新人女冒険者だったのは間違いないが、風魔法で何とか助けたがその後からの記憶がなく、暴れて隔離されメノウが[浄化]を使用するまで対処できず閉じ込められていた。
数人の新人冒険者が狂化したようだが、どれも獣人が多く、他の種族より感情的で負の魔力に当てられやすいようだ。獣人達を隔離しようかと考えた。
その途中にハルルを見つけたのは偶然だった。呑気に寝ているので起こし、バルバドスの元に行くとモンスターの様子を調べるついでにハルルを預ける。次に狂化の原因を調べていると狂化の原因となる負の魔力を浄化する聖樹の様子が気になり見に行くことにした。
メノウはハルルを狂化モンスター対策に同種族のバルバドスにそのまま預け置き、その内迎えに来ると伝え、一人転移して直接聖樹へと向かった。
聖樹を詳しく調べていると寄り添う様に聖樹と横に眠りに付くラピスを見付けた。どうやら私が目覚めるまで聖樹に問題がないように繋がっているようだと、万が一知らない者がラピスを害さない様にと護衛君3号を忍ばせておいた。
聖樹に同調して調べると張り巡らされた根に違和感を感じた。メノウは、違和感の感じる先に自分が大きな亀裂を作り、気に止めなかったダンジョンがあることに気づいた。
亀裂が出来た際に根が傷付きそこから取り込めなくなった負の魔力が溜まり、その影響で狂化モンスターが増えて人にまで影響が出始めて
いたのだと知ったメノウは思った。
間も無く私の目覚めの時が近いというのにこんなことがバレたらヤバイ!と、メノウは慌てた。
直ぐにダンジョンへと飛んだがそこは初心者冒険者で溢れており、奥の根まで行くには目撃者が多すぎる。考えたメノウはダンジョンから冒険者を追い出すことにした。
まず冒険者に紛れ最下層まで降りる、幸運なことに負の魔力が溜まっていた為にモンスターが大発生していた。
まず初心者冒険者には相手にならないモンスターを攻撃力と命中率を下げる魔法を使い放つ。そのモンスターがダンジョン内にいる冒険者達を外へと追い出してくれるだろう。
定期的にモンスターを送り込み、冒険者達が退散した所で討伐に上級冒険者が送り込まれないように発生したモンスター達の強さを調節しつつ送り込む。これでダンジョンから溢れたモンスター退治にしか手が回らなくなる。
獣王国でもモンスターが溢れたようだがハルルがいるので問題はないだろう。
ダンジョンの深い亀裂は大きく深い。一気に修復すると根のある場所まで塞いでしまうので慎重に少しずつ上から塞いでいく。
思ったよりも時間が掛かったのは誤算だったがやっと根のある亀裂まで来ることが出来た。だが誰もいない筈の場所に声をかけてくるものがいた。
そこからは先ほどの展開である。洗いざらい吐いて貰ったが賢者らしからぬ行動ばかりだ。
私に聖樹の根を傷つけた事、それにより狂化する者達を出した事、モンスターを操り多大な迷惑をかけた事、世界を傷つけ危機を産み出した事をを土下座で謝った。
「はぁ、私にではなく、被害者(多数)に謝罪してくださいね、メノウ....師匠。」
まずメノウに共和国への謝罪と助力を約束させ、各地を回り他に被害がないか確認する旅をハルル(監視)と共に行くことを命じた。
「折角エルノラが寝ている内に世界各国を牛耳って好きに使えるようにプレゼントしようと思っていたんだがな....。」
そんなプレゼントはいらん!禍根しか残らんわ!と思ったのは私だけではないと思う。
何にせよ聖樹の根を癒しに行こう。