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エピローグ

『エピローグ』

 私は胸が昂ぶり、本当に縁が切れた人ともう一度会う。母親が私に気づいた。私は目を一瞬そらしそうになったけど、「元気そうで何よりだね」と呟いた。

「ああ」

私は殻になった瓶を机の上に置いて、席に座った。

「痩せたね。ちひろ」

「お蔭様で」

席に座り、水を飲んだ。酔いが解けて、一度捨てられたんだという事実が、私の心を遮光する。注文は一番高い肉だった。しばらく高校を中退したことに驚いたようだ。もっと強いイメージが私にはあったのだろう。私自身は、

「母さんの優しさが私を弱くさせたんだよ」と言わずに、

「勉強が元々嫌いだったからね」とひねくれて答えた。

私は泣かなかった。ただ目の前にいる人が元気そうだったからだ。母親としてではなく、女として生きていく人だ。その母親をすぐに許せる程、大人じゃない。でも、話しているうちに、憎むのも馬鹿らしくなった。また二人で暮らせる。

「単なる酔っ払いの親父だね」

母親はいつになく饒舌ににやりと笑って見せた。その方がいい。私はくだらなくて

「母さんに仕込まれたんだよ」

と言って、周りを見渡した。席は10席で、カウンターも一文字に10席ある。窓は曇っていて、若い女性のウェートレスが肉を持ってきてくれた。暖房が強くて、私はコートを脱いだ。母親は黒いスーツを着ている。よく見ると喪服に見えた。

「誰かの葬儀に行ってきたの?」

母親はポーカーフェイスで答えた。

「昔からの友人でね」

それ以上は言わないことにした。母親が帰ってきた理由がなんとなくわかる気がした。

「この特性ソースはいつになってもたまらないね」

「いつからそんなキャラになったの?」

「ん?産まれた時からだよ」

いつも肉ばかりでライスを頼まないのが、わが親子の注文の中身だ。こんなに話す母親を私は見た事がない。それが悲しみを飛ばす優良の方法なのかもしれない。私は、もう一度高校に入り、母親はまた新しい男をつくるのだろう。

今度は絶対ない。お互いの必要性がまだある事を分かったからだ。でも、もし今度、母親が再び私を裏切っても、半アル中にならない気がした。もう一度経験したことを繰り返すほど幼くはない。その時は、私に合う男と結婚しようかと想像した。私と血の繋がった関係はもう終わりにして、私の代で遺伝子を断ち切る事を密かに考えている。また私と同じ境遇するかもしれない子供は作りたくない。

恋愛感情は、今はまだなくなっていたが、酒をやめて「全う」な生活をすれば、いずれまた中学校まではいかなくても、高校生ぐらいの恋愛感情は戻るかもしれないと思いながら、肉を噛んだ。

『エピローグ』

 私は胸が昂ぶり、本当に縁が切れた人ともう一度会う。母親が私に気づいた。私は目を一瞬そらしそうになったけど、「元気そうで何よりだね」と呟いた。

「ああ」

私は殻になった瓶を机の上に置いて、席に座った。

「痩せたね。ちひろ」

「お蔭様で」

席に座り、水を飲んだ。酔いが解けて、一度捨てられたんだという事実が、私の心を遮光する。注文は一番高い肉だった。しばらく高校を中退したことに驚いたようだ。もっと強いイメージが私にはあったのだろう。私自身は、

「母さんの優しさが私を弱くさせたんだよ」と言わずに、

「勉強が元々嫌いだったからね」とひねくれて答えた。

私は泣かなかった。ただ目の前にいる人が元気そうだったからだ。母親としてではなく、女として生きていく人だ。その母親をすぐに許せる程、大人じゃない。でも、話しているうちに、憎むのも馬鹿らしくなった。また二人で暮らせる。

「単なる酔っ払いの親父だね」

母親はいつになく饒舌ににやりと笑って見せた。その方がいい。私はくだらなくて

「母さんに仕込まれたんだよ」

と言って、周りを見渡した。席は10席で、カウンターも一文字に10席ある。窓は曇っていて、若い女性のウェートレスが肉を持ってきてくれた。暖房が強くて、私はコートを脱いだ。母親は黒いスーツを着ている。よく見ると喪服に見えた。

「誰かの葬儀に行ってきたの?」

母親はポーカーフェイスで答えた。

「昔からの友人でね」

それ以上は言わないことにした。母親が帰ってきた理由がなんとなくわかる気がした。

「この特性ソースはいつになってもたまらないね」

「いつからそんなキャラになったの?」

「ん?産まれた時からだよ」

いつも肉ばかりでライスを頼まないのが、わが親子の注文の中身だ。こんなに話す母親を私は見た事がない。それが悲しみを飛ばす優良の方法なのかもしれない。私は、もう一度高校に入り、母親はまた新しい男をつくるのだろう。

今度は絶対ない。お互いの必要性がまだある事を分かったからだ。でも、もし今度、母親が再び私を裏切っても、半アル中にならない気がした。もう一度経験したことを繰り返すほど幼くはない。その時は、私に合う男と結婚しようかと想像した。私と血の繋がった関係はもう終わりにして、私の代で遺伝子を断ち切る事を密かに考えている。また私と同じ境遇するかもしれない子供は作りたくない。

恋愛感情は、今はまだなくなっていたが、酒をやめて「全う」な生活をすれば、いずれまた中学校まではいかなくても、高校生ぐらいの恋愛感情は戻るかもしれないと思いながら、肉を噛んだ。

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