第8話 上木のドキドキ
そこは、ゆるやかに浅くて広い川が広がる。
対岸には花火大会の実行委員会の席が並んでいる。
その後ろから打ち上げられるのだ。
「ほら、ここならすげー見えるぞ~!」
「あ!ホントだぁ~!」
佐川は空咳をしてかしこまりながら
「説明致します。」
突然の説明に、女子たちは「なんの?」と聞く。
「この場所から、出店のある神社まではちょっと遠い。そして、花火開始ともなると大混雑になる。なので、場所取り留守番2人、買い出し2人、2人の3チームに編成して行動しよう。」
「いいね。」
「賛成!」
と男子二人が相槌を打った。
「男子だけじゃん。賛成してんの…。まぁいいけど。どうやって決めんの?」
佐川は、ポケットから何かを取り出した。
「すでに決めてある。この六枚のトランプがあるじゃん?見ての通り、Aが2枚、2が2枚、3が2枚。同じ数の人達がチームになります。Aと2が買い出し。3が留守番。」
「いいね。」
「賛成!」
と男子二人が二度目の相槌を打った。
「コピペか。」
「男子だけのチーム、女子だけのチームもありえるわけだ。」
と、恵美が冷静に分析をする。
「その通り。結果は神のみぞ知る。」
佐川がそう答えると、恵美は
「あたしは、焼きそば買いに行きたい。一人で3パック食べるから。」
と言うと、上木が
「マジで??はは!」
と笑った。
いよいよくじ引きの始まり。
佐川が6枚のカードをよく切り、恵美の前にズイッと出した。
「ハイ。杉沢から。」
「あたしから?いいの?」
散々迷いながら選んで引いた1枚のカード。
「ジャーン!お!これはいい。ハートのA。買い出しだぁ。買い出しだぁ。」
テンション高く腰を横にクイクイと振った。
「じゃ、男女交互に行きましょう。次、上木。」
「あ~、オレ?じゃぁ…これかな…?」
実はこれ…、トリックがあった。
佐川の目がサインとなっている。上木は選んでいるふりをして、指を左端から順繰りにあて、真剣に佐川の目を見る。
佐川の目が閉じられた!これだ!
「お!スペードのエース。じゃ、オレと杉沢が買い出し第一陣だな。」
そう…最初から決められていた出来レース。
買い出しもう1チームは富沢とミナミ。
留守番の佐川とミズキ。
カップルになるために事前に取り決めておいたのだった。
買い出しの四人は露店の並ぶ、神社への土手の道に並んだ。
恵美が富沢の方を見て
「じゃ、トミー行きますか!」
「オウ!」
上木は慌てて
「え?いや!オレとだろ!杉沢!」
「ふふ。ま、神社まで一緒にいけばいいじゃん。」
女子の下駄の音がカポカポいう。
男子二人、肩を組みながら歩く…。
神社の前は大縁日。M市の夏祭りは大変な賑わいになる。
15:30。神社前の露店にはすでに行列の店もあった。
恵美は楽しそうに
「あ!リンゴ飴!クレープもあるし…大阪焼きもあるんだぁ~。たこ焼きもいいよね!ね?上木??」
「焼きそば…は?」
「そーだ!焼きそばだよぉー!あ!串焼き!」
「ふふ…はしゃいじゃって…。」
「だって、去年と一昨年はこなかったもん。前は親に連れてきてもらってたんだけどね~。」
「今日みたいに?」
「そう。家族みんなでね~。最近親も歳で、来てくれなくなっちゃった。」
「え?そー言えばパパさん、若かったよね?いくつなの?」
「ハハ…。もうジジイですよ。42歳。カッコウはいいけどねぇ~。」
「そうだよね~。パパがあんなんじゃぁ、男に興味ないんじゃない??」
「そーだね~…。」
「やっぱり…。」
恵美は、小高い山を指さした。
「上木ぃ。神社。のぼってく??」
「おー。いいよ。」
少しだけ長い神社の階段を上る二人。
上木はドキドキ。
二人っきりだ…。それにこの神社って…。
「お祈りしよっか!」
「う、うん…。」
二人で、お賽銭を投げて鐘を鳴らす。
真剣な顔の上木…。
「ね。ね。いつまでお祈りしてんの?いこ!」
「お、おう。」
「あ~、久々。この神社も…。ここってなんの神様?」
「え?…あ~…縁結び…。」
「あ!…そーなんだ。ゴメン知らなくて…家内安全お祈りしちゃった!はは…。」
「………。」
「……いこっか…。」
「……あの…杉沢??」
「ん??」
「あの…オレ…。」
その時、手をつないで階段を上がってくる小さいカップルがいた。
「あ!!メグちゃん!」
「あ、メグミさん、どもっす。」
「あ、アイとコースケ!」
「あ…えと…誰?」
「妹とその彼氏。近所の子なの。幼馴染み。幼稚園から付き合ってんの。」
「え?そーなの?」
和と、その彼氏ははしゃぎながら
「あ!この神社に来たってことはぁ~!すごい!メグちゃんもとうとう…。」
「メグミさん、スミにおけないっすね~。」
「チガウチガウチガウ。お友達!小学生なのにそんなこと言ってダメだろ!ませすぎ!」
そう言われて、二人は改めて
「あ、チガウの?…スイマセン。こんにちわ。」
「すいません。先輩。こんにちわ。」
「あ、こ、こんにちわ。」
上木に挨拶を済ませた二人に
「コースケと二人なの?」
「あ~、コースケの家族と一緒だよ~。ね…メグちゃん…。」
「なーに甘えた声出してんの??」
「あたし、財布忘れちゃってさぁ~。お金貸してくれない??」
孝輔は「でた。」といつものように言った。
和はお金にがめついのだ。
「も~…いくら??」
「千円…いや、二千円。クレープ食べたいのぉ。」
「カズちゃんからもらったおこずかいなくなっちゃうよぉ~。」
「え?おとーさんからいくらもらったの??」
「え…一万…。」
「じゃ、いいじゃん。ちょうだい??あたしなんてお母さんから三千円だよ??忘れちゃったけど…」
「わかった。もう…じゃ、二千円ね!」
「ありがと!じゃ、楽しいお祭りを!先輩、さよーなら!」
「さようなら!」
そういいながら、二人は神社の方に向かって行った。
和の浴衣に合わせた下駄がカパカパと楽し気な音を鳴らしていた。
「かっこいい人だね。」
「そだね」
「コースケもカッコイイよ。」
「ありがと」
といいながら…。
恵美はそれを見て呆れながら
「小学生のくせに…。上木。いこ!」
「お、おう。」
すっかり毒気を抜かれてしまった上木。次の告白のチャンスを狙う。
神社の階段を降りた時、恵美のスマホに着信があった。
「あ…ミナミからラインだ…今、たこ焼き買ったって。え~。もう、一品買ってるよ。こっちチームどうする?上木ィ??」
「なに?なんのゲーム?」
「向こうより先にミッションをクリアして、陣地に戻るのよ!」
「え?なんで?まだまだ時間あるじゃん。」
「だめだよぉ~。そういう感じじゃァ。人間にハリがでないじゃん。人生は勝負!勝負!」
「あ…そうなの??」
「フランクと、焼きそばと、串焼きを買おう!無難でしょ?無難。」
「無難だけども…。」
「幸い、フランクと串焼きの露店は一緒だね。上木、あっちに並んで。あたしは焼きそば買ってくるから。」
「え?あの列に一人で並ぶの?」
「いーから!なんのためのチームなの!?それでもサッカー部主将??先輩泣いてるよ??」
「なんで、先輩でてくんだよ!オーケー分かった!そのかわり、焼きそば買ったらすぐ来てね?寂しいから。」
「ウン。わかった!では、上木の健闘を祈る!」
といって、焼きそばの露店に向かっていった。
ふふっと笑う上木。自分は串焼きの露店の行列に並んだ。




