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第5話 父の思春期

「カズちゃん、ウチのエルグランドじゃなくて、レクサスね。レクサス。」


「え?なんで?駐車場ジャリあるからなぁ…。会社の車だし…。石飛びされて傷でもついたら…。」


「そうだよ…。あんたがよく見られたいからって…。」


「まーいいじゃんいいじゃん。カズちゃんのカッコいいとこ見せたいの!男子達に!」


そういわれて、和斗も悪い気はしない。


「そうだな。ま、いっか。商工会にもご祝儀置いてこなきゃ行けないし。ケイちゃんも行く?」


「そーだな~。でもいいかな?カズネちゃんケイゴと…あと両親呼んで二階のベランダで花火見てる。」


「あ…そうなんだ…。」


「あ、そーだ…。行く前にカズちゃんコンロに火つけてってよ。スペアリブ焼くから。ふふ…。」


「えーーー!!!」


「ちょっちょっと!ケイちゃん!なんでそういうこというの?カズちゃん行ってくれないじゃん…。」


「やめようかな…。」


「いいから、行ってきてあげてよ。早めに行けば渋滞に巻き込まれないし、花火のスタートには間に合うでしょ?ちゃんと、カズちゃん帰ってきてから焼くから。」


「やったー!」


そうこうしている間に、家に到着…。だいたい40分。

恵美が、まぁこんなもんでろう。と思っていると和斗はすっとキッチンに入って缶ビールをあけた。


カシュ…。


「ちょっと!なんで開けんの?」


恵子に咎められ、和斗は驚いてそちらを見た。


「え?熱いから…。」


「あたしも飲みたくなっちゃうじゃん!」


「あー…っと…飲む?」


「もう…ダイエット中なのに!…一口だけ…。」


と、和斗のビールに手を伸ばす。

仲のいい二人が憎らして仕方がない恵美は


「あ~、そういう意志の弱い人は100年立ってもやせれませんな!」


と言うと、恵子はスッと手を引っ込めた。


「腹立つ…。やっぱいいや。ガマンする…!」


「ゴメンね…ケイちゃん。」


「ハイハイ。あたしが見てない間に飲んじゃって!」


そう言って、和斗に背中を向ける。

早くその顔を見たい和斗は背中を眺めながら


「じゃ…失礼して。ングングング…。」


恵子はその呑む音を聞きながら、ちいさくため息をついた。


「いいな~…カズちゃんは…太らない体質で…。」


「いや、太るよ?体重だって…結婚してから5kgは増えてるし…。でも一回激ヤセしたか…。」


その言葉を聞くと恵子はすごいスピードで回転し和斗の顔を見た。


「あ…禁句を言いましたね…。」


「あ…ウソ…。太らない体質でした…。」



 なんだそりゃ。

 ふーん…激ヤセしたことがあったのか…。

 なんでそれが禁句なのやら…。



恵美はまだ知らなかった。

二人は一度離婚していたことがあったのだ。

そのために和斗は心痛で激やせしていたのだ。


これは恵子が記憶障害で起こったための離婚だったので、二人はノーカウントとして離婚の話しは禁句としたのだ。さらに、子供たちに「パパ」「ママ」と呼ばせていたのだが、和斗が「ママ」という言葉を嫌がったのでそれも禁句とした。

今では「お父さん」「お母さん」と呼ばせている。



「じゃ、お風呂入って、体重計ろう~っと…。」


と、キッチンの扉を開けて恵子は風呂場へ向かおうとした。


「あ、オレもオレも!」


「んもう…しょうがないなぁ~…。」


ビールを飲み干し、二人で風呂場に向かう…。

あまりにも仲良過ぎるので、恵美はやっぱり邪魔することにする。


風呂場に耳を近づけると、キャッキャウフフと楽し気な声が聞こえる。


「お邪魔しまーす!」


「わ!なに?なに?」


驚いて、和斗は前を隠しながら湯船に入り込んだ。


女子かよ…。と思いながら和斗の入る湯船に足を入れた。

和斗のこだわりで大きくした湯船だ。

和斗の体が大きいと言っても、うまく足を折り曲げれば二人などゆうに入ることができた。


恵子が


「どうしたの?珍しい…。一緒に入ったら狭いじゃん。」


「時間短縮させてくださ~い。あたし、先に洗っていい??」


「どうぞ…。あんまり待たせないでね?のぼせるから…。」


「ハイハイ。ちゃっちゃっとやるから。」


一度湯船からでて、本当にチャッチャと身体を洗い、恵子と交換。

恵美はもう一度和斗と湯船に入った。


「カズちゃんとお風呂入るの、チョー久しぶり!」


「んだね。仕事遅いからなぁ…。」


目をそらしながら和斗は答えた。


「休みの日だってケイちゃんと入っちゃうしね。もっとあたしをかまってよぉ~。」


「ああそう?年頃の娘って難しいって聞いたことあるからさ~。一緒にお風呂入ろう?なんて言っていいの?」


「普通はダメかなぁ?」


「なんだそりゃ。」


「あたしはいいけど、アイもカズネもいるから、ウチの場合はカズちゃん争奪戦になるだろうしね。」


「あ~…そうなの?じゃ、遅く帰ってメグが起きてまだ風呂に入ってなかったら誘えばいいのね…。遠いわ!そのシチュエーション…。」


と、和斗が突っ込むと、シャワーを浴びている恵子から「ふふ…。」と笑い声が聞こえた。


「あ…笑ってる…。」


「なに話してんのかと思ったら、バカ話しじゃん…。ふふふ…。」


恵美は和斗の身体を見ながら聞きたいことを聞いてみた。


「ホントに、すごくいっぱいあるね~。タトゥ…。なんでそんなに入れたの?」


「いや~…ははは…。」


洗い終わった恵子。和斗を上がらせて代わりに自分が湯船に入った。

質問に答えず和斗は身体を洗い始める。


「顔、指、腕、胸、背中、お尻、足までくまなく入れてるもんね。お陰で温泉旅行は入れるところ探さないと行けないもんね。家族で行ったの何回?3回行ったっけ?」


「ウン。また行きたいね。」


「お父さんは、若い頃、辛いことがたくさんありすぎて自分をいじめることで辛さを忘れていたんだ。」


「そーなんだ…。どんなこと??」


「……ま…いずれ話す時もくるでしょ…。」



 そうなんだ…。へぇ…。

 根アカなカズちゃんにもいろいろと人生があったんだねぇ…。



恵美は湯船から上がり、着替えて髪を乾かしていると恵子も少し遅れて脱衣所に出てきた。


「メグ、お父さん、メグにハダカ見られたくないんだって。だから、リビングで髪かわかしな。あたしも行くから。」


「そーなの?親子なのに…あっちが思春期みたいだね。」


「ホントだ。フフ。」


二人は、リビングに向かった。


フラフラになって出てくる和斗…。


「うぇ…。運動したし…ビール飲んだし…長湯で体アチーアチー…のぼせるっつーの…。メグのやつ…。今日に限って…はぁ~~~…。」


杉沢一家の日常はこうしてその日は終わった。


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