第4話 両親に乱入
そのうちに、和から下の弟妹は就寝すると言って自室に戻っていった。
兄の恵斗は風呂に行き、和斗と恵子は恵美をはばからずに楽しそうに話し始めた。
「どう?ケイちゃん。ダイエットは。」
「あ~ん。53.4。昨日から300g落ちたって感じ?」
「お!すごいじゃん!」
「そのくらいは普通に変動するよ。あ~。日中仕事しようかなぁ~。」
「ダイエットのために仕事するってすごい話し。ジムとかは?」
「ジムでもいいけど…お金かかるし…。」
「いーよ。いーよ。そのくらい…お金なら…別に困ってないんだし…。」
「あら…でも、カズちゃんが明日どうなるかわからないんだし?子供五人かかえたまま、あたしどーしたらいいの??」
「やだなぁ…。ちゃんとみんな暮らせるくらいの生命保険だって入ってるよ…。」
「フフ…。でもさ。カズちゃん、今日早かったんだから、ジョギングしない?」
「え?二人で?」
「ウン。二人で。」
「いいね!いいね!」
そう約束すると言うが早いか、恵子は洗い物にキッチンに戻り和斗は、酒をやめて夕食を食べ始める。
恵美はいつものことだが自分をないものとされムカついたのでちょっと意地悪をすることにした。
トクトクトクトク…。
「ハイ。ビールがまだ残ってましたよ~。」
「え?なんで注いだ??」
「だって、捨てるようになっちゃうじゃん。ささ、どうぞ。14歳の美人に注がれるビールはさぞかし美味しいでしょうから。」
「オレみたいな顔してるくせに…。」
「そーだね。あたしは父親似の美人なんです~。」
「自分でいうなよ…。まったく…。」
「自他ともに認めると言うやつです。」
「お母さんはそういうの鼻にかけなかったぞ?」
そういって、しかたなしに和斗はビールを飲み干した。
「じゃぁ、父に似たのかな?フフフ。」
「腹立つ。こいつ…。昔はケイちゃん似の美人だったのに顔変わったよなぁ…。」
そういいながら和斗は夕食を搔き込んだ。
恵美は空になったビール瓶を持って話し始めた。
「ね…カズちゃん…。」
「なに??」
「あのさ~。男子からさ~、お祭りに誘われてんの。向こう3人、こっち3人。」
「へぇ~!!青春だねぇ~!!行って来いよ。」
全然気にしていない…。
普通、父親なら「まだ早い」とか「どんな連中だ」とか言うことを期待したのだが。
「ん…いや…。」
「ん??」
「ん~…。カズちゃんの…中二のときって…どんなだった…?」
「あ…いや…。」
「え?」
「うーん…。自慢出来るような中二じゃぁなかったからなぁ~…。中三の話しじゃダメ??」
「いいよ。じゃぁ。どーぞ。」
「いいの?その頃の杉沢和斗は勉強に部活に明け暮れておりました!」
「へー。なんの部活?」
「剣道。剣道。」
「あ~、杉沢のおじーちゃんもやってたもんね。道場。」
「そうそう。だから三年生になってから入ったんだけどレギュラーで県大会で三位だった。…団体戦だったけど…。」
「すごいじゃん。」
「ま、これは内申書をよくするための一時的な入部。あとは勉強ですよ!ガンガン勉強して…。春にはM高に合格したのであります!」
「かっこいい…。やっぱカッコいいわ。」
「だろ??んだろ??」
「で、中二の頃は?」
「あ…いや…。」
洗い物がすんだ恵子がこちらに急ぎ足でやって来た。
和斗のフォローに回るためだ。
「ダメだよ。お父さんのカッコいいのは中三だけ。あと…高二から高三の真ん中まで。」
「ちょっと!ケイちゃん!」
「そうなの?その空いてるところはなんなの?」
「不良ですよ。不良。」
「あー…。でもそうだと思った。身体見れば…。」
和斗の身体には数点のタトゥが入っているのだ。
恥じて、あまり家族にも見せないのだが…。
「ちょっと、ケイちゃん、なんで言うのぉ~…。」
「お?また泣くのかな?」
「泣きません!」
「カズちゃんが不良だったことぐらい、カズネまでみんな知ってるよ?ヘタに隠したほうがカッコ悪いよ?」
「そ、そう?なんでわかんの?」
「タトゥみりゃわかるでしょ…。」
「あー…。そうです…ワタクシ…不良でした…。」
「M市のヤクザ屋さんにも顔効くから…もしもそういう人に囲まれたら「杉沢和斗の娘です!」って言ってみな。水戸黄門みたいになるから。」
「あー…、もうオレが築き上げたイメージがどんどん崩れてくぅ~…。」
「まぁまぁ、ホラ。食べ終わったんだったら着替えてジョギング行こう!?」
「あ!そうだ!行こう行こう!」
二人は着替えのために二階に駆けあがって行った。
恵美は、リビングで自分と風呂上がりの兄のために紅茶を入れていた。
ガチャリとリビングの扉が開く。
「じゃ、行ってくるから。なんかあったらケータイへ。」
といって、笑いながら出て行った。
それを見計らって恵美は立ち上がる。
「ん?どした?どこ行くの?」
立ち上がった恵美に兄の恵斗が聞いてきた。
「ケイくん…あたしも走ってくるから。」
「あそ…オレも行く??」
「お風呂入ったんでしょ?いいよ。カズちゃん達に追いつくから。」
「オーケー。んじゃ行ってらっしゃい。」
すぐさま靴を履いて飛び出した。
まだまだ二人は見える範囲にいた。
「あ~、もう~疲れたぁ~。」
「どーした!どーした!さっきの意気込みは!ささ!足上げて!」
「もう、1km走ったかなぁ~…。」
「…まだ…100mくらいだよ…。」
そこに軽々と追いつく恵美。
「よ!」
「わ!なんだよ…。」
明らかに邪魔者扱いの和斗の顔…。
「現役の女子中学生も一緒に走りまーす!」
「ハァ、ハァ、ハァ、いいよ。メグ。一緒に。行こう…。」
と恵子が言ったので、三人で走り出した。
1kmくらい走ったところで…
「あ~、ダメ…。休憩…。」
「え?もう??」
息荒く、立ち止まる恵子。
膝に手を当て、下を向きハァハァと喘いだ。
「うわぁ…顔真っ赤…髪の毛も貼付いてるし…。ブッサイクですね~。」
「そう?色っぽいと思ったけど…。」
という和斗を恵美は睨みつけ
ダメだコイツ…。色っぽいとか言ってるわ。
恋は盲目っていうけど…アンタいくつだよ…。
「ハァ、ハァ、ハァ…うるさいなぁ~…。」
「ケイちゃん、ウォーキングにする?最初から辛いと持たないよ?継続しないと…。」
「そーだね。じゃ、そーしよう。こう…さ…めぐみの丘をグルッと回る感じで…。」
「じゃ、そっしよっか!」
恵美はそんな能天気な会話にガックリ来ていた。何時間かかると思っているのか…。
ダメな夫婦め。といった感じだ。
「それ、めちゃめちゃ遠いよ?あたしがちょうどいいコースを先導しますから。ついてきて。」
「ハァハァ。オーケー。」
ちょっと、早足めのウォーキングスタート。
和斗はスイスイ余裕についてくるのだが、恵子は片腹押さえてハァハァいいながらだ。
まぁー。痩せるんじゃない?その方が…。と思いながらキビキビ全身を使って先導した。
「あ~、もう足が限界…。」
「じゃ、オンブしようか?ケイちゃん!」
と、和斗が鼻息荒く言う。
アンタの狙いはそれかよ…。
「ハァ…ハァ…大丈夫…まだやれる…。」
「大丈夫?無理しないでね?」
そう言って、恵子はスタスタと歩き始めた。
恵美は和斗に話しかけた。
「ね。だからさ、お祭り…会場まで送って行ってよ。」
「あー、ウン。いいよ。」
「なに?なんの話し。」
「今度のお祭りに、会場まで送ってってて話し。ケイちゃん、浴衣着付けして。」
「あ、いいよ。誰と行くの~?」
「フフ…男子とだって。」
「へー!メグもとうとう…。フフ。」
「いやいや…3対3だし。友だちだし。」
「へ~。あやしいあやしい。」
「いいなぁ~。青春…。」