第3話 一家団欒
こちらは先ほどの上木。
サッカー部の仲間と部活帰りに「ラーメン十番軒」にてラーメンを食べていた。
買い食いは処罰の対象なのだが、ダメだと言われるスマホを持ってきたりラーメンを食べたりして権威にたてつくのがこの少年たちのステイタスなのだろう。
しかし、決して見つかるようにはやらない。気が小さい反抗者なのだ。
上木の友人の富沢と佐川がラーメンをすすりながら恵美とのことを質問した。
「どうだった?杉沢…行くって?」
「あ…ウン。」
「行くのね。良かったじゃん。で?他のメンバーは?」
「あー…沢口ミナミと、西条ミズキ。」
「おー。やっぱり思った通り。西条くるのね~。」
と佐川は西条瑞希狙い。
「じゃ、オレは沢口と…。とにかく上木と杉沢を二人っきりにすればいいんだな。」
先ほど恵美が面白いと言ったトミーこと富沢は沢口美波狙いだった。
その際に上木に協力するという手筈なのだ。
「あーーー…。」
しかし、上木が悲痛な声を上げる。
「なんだよ…。」
「ダメかも…。」
「ん?」
「どした?」
「なんか、電話中も富沢のことばっかりだし…。」
「お!オレの話し出た??どんな話し?」
「それはいいから…。なんか…好きな人がいるらしい…。」
「…マジ??」
「うん…。」
「え…誰だろ……まさか…オレ??」
思わず富沢の口に笑みが浮かぶ…。
それをみて悔しがる上木。
「そうかも…。あー…なんでだよぉ…。くそぉ…。」
「それとなく…聞いてみるか。な?上木。大丈夫だって!まだまだチャンスはある!」
「そうかなぁ…。」
まんじりともしない上木だが、いつまでもラーメン屋にいるわけにもいかない。
残ったラーメンを三人して音を立ててすすった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
変わって杉沢家。学校のジャージから家用のジャージに着替えた恵美は階段を下りて行った。
「あ~…。お腹すいた。…あれ?ケイちゃん、なに作ってるの?」
「あ、お父さんのおつまみにシシャモ焼いてるだけだけど?」
「あ~、いいな~。カズちゃんは。」
「二匹くらいもらったら?」
恵美は揉み手をしながら
「そうします。そうします。」
その時、玄関のカギがカチリと開く。一番最初に反応したのは妹の和音。
「あ!帰って来た!!早いお帰りだ!」
恵子の顔に笑みが浮かぶ。和音と恵悟は玄関に走って迎えに行った。
「おとーさん、おかえり~!」
「お!ただいま!カズネはまだ起きてたか~。じゃ、今日のお父さんは早かったな!ふっふっふ!」
そんな和斗に二人は抱きついてすがった。
「おとーさん、あそぼー!あそぼー!」
ひょいと、和音を抱っこし、恵悟の手をつないでリビングに入ってくる。
さっそく恵悟は、和斗に自分がやっているゲームを見せたり、和音は学校で習った歌を歌ったりした。
賑やかだ。和斗はこんな雰囲気が大好きだ。
足元に絡みつく恵悟、そして和音を抱っこしながら恵子のいるキッチンに入ってきた。
和音を下に降ろして
「ケイちゃん、ただいま!」
「んふふ…。おかえりぃ。」
といって、見つめあう二人…。
恵美は白目を向いて呆れていた。それでも夫婦は二人の世界だった。
「今日のゴハン…何…?」
「ふふ…熱いから、マグロの山かけだよ~。あとカズちゃんには奴豆腐もあるよ。」
「やった!大好物!」
ハイハイ…。ケイちゃんが作ったのならなんでも大好物なんでしょーよ。
聞かないで、テーブルの上、見りゃーいいのにサ。
と恵美は思い、割って入って行った。
「なんで、カズちゃんだけおトーフあるんですか?ケイちゃん。」
「会社の常務様が3品じゃ足らないでしょ。誰のおかげで生活出来てると思ってんの…。そして、熱いからバテないように…。」
「ハイハイ…。」
和斗はキッチンのテーブルに座った。
リビングにテーブルあるのだが恵子のそばにいたいから、二人掛けの小さいテーブルをキッチンに置いて二人で座って食べるのだ。
恵美は、リビングからイスと自分のゴハンを持ってそこに強引に入り込んだ。
和斗は露骨に嫌な顔をした。
「なに…?ちょっと…狭いんだけど…。」
「あのねぇ。娘との会話を大事にしなきゃダメ。思春期なんだから。普通、娘からここまでこないよ?」
「あ…そうか…。アレ…さっき言ってた、車出し?今週の土曜?」
「そう。練習試合だけど。カズちゃん見に来てよ。」
「ウンウン。ケイちゃんも行くでしょ?」
といって、恵子の顔を見た。
恵子は、和斗のグラスを用意しそこにビールを注ぎながら
「あ、ゴメン。この前、寝る間際だったから憶えてない?カズネちゃん病院に連れてこうかな~と思ってたの。アトピーの薬。」
途端に、和斗はへたり込んだ。
「そーかぁ~…。」
「なんでガッカリ?もう、カズちゃんキライ!」
「はぁ~…。」
恵美に嫌いと言われても細くて長いため息をつき続けた。
そんな和斗に恵子は
「ゴメン。ゴメン。でも午前中だから。」
「じゃ、午後からカズネ連れて行かない?迎えに行くから。」
「いいよ。」
「やった…!!」
さすがに恵美はムッとした。
いつも一緒にいるんだから、たまには自分の試合の観戦ぐらいしてくれてもいいのに…と思ったのだ。
なので、ささやかな攻撃を仕掛けることにした。
「シシャモいただき!」
「あ!コラ!」
そこに、恵悟がポケット式のゲーム機をもってきて母親の恵子の足に寄りかかる。
さらにお風呂から上がってきて、キッチンの扉から入ってくる次女の和。
「あ…。お父さんおかえり。メグちゃんも帰ってたんだ。」
「おー!アイ!ただいま。」
と、和斗は元気に手を上げるが和は恵美と違い大して父には興味がない。
「お母さん、ヨーグルト食べていい?」
「いいよ。」
「アイちゃん、オレも!」
と恵悟に言われ冷蔵庫からヨーグルトを数個取り出す和。
そして、小さいテーブルにそれを置く。
「なんで、ここで食うんだよ!」
「いいじゃん。いいじゃん。子供との会話を大事にしなよ。」
そう言いながら和も恵悟もそこでヨーグルトを食べ始めた。
「メグとおんなじこといって…。ケイちゃん、オレ子供との会話少ない??」
恵美の鋭い視線。和斗を睨みつけている。
「だから、あたしらに聞きなって!ケイちゃんケイちゃんケイちゃんじゃねぇっつの。」
「…くそう…。親に向かってェ…。」
「じゃ、リビングに移ろうか。」
恵子の提案でみんなで広いリビングに移動した。
五人の子供たちのおかげで夫婦二人楽しい毎日だ。