第16話 父の原動力
フラフラになりながら家に帰ると、恵斗が弟妹のランドセルを抱えてよろついていた。
「あ、お父さん。オレ、チビ達の学校用具だけ置いてくるから。」
「あ…スマン…。車出すか?」
「いや。今、お父さんは動かない方がいいでしょう。」
「そか…そうだよな…。オマエは…お母さんのとこに…いかないのか…?」
「うーん…。まぁ正直…。お父さんには心を入れ替えて頑張って欲しいけど…。オレは家にいるよ。じゃ!」
渡良瀬の家に向けて走り去る恵斗。哀しい面持ちでそれを見送る。
また、リビングのソファーに体を投げ出して突っ伏してしまったところに、恵美がやって来た。
「ちょっと!カズちゃん、浮気してるってホント?…軽蔑…。」
しかし、それに対してなにも話さず、思い出したように肩を震わせた。
「だまってちゃ分からない!」
「“きゃん”のことがバレてた…。」
「え?なんで??」
「喫茶店行ったとこも見られてたし…。多分、話し聞かれてた。」
「そーなんだ…それで浮気って…。じゃ、いいじゃん!あたしが“きゃん”だって言えば話しは簡単でしょ?」
「そーだよ!言いたかったんだけど、メグがヒミツだって言うから言えなかったの!」
「バッカみたい!それで大ごとになってちゃ世話ないよ! …電話してみれば?」
「う…ウン…。」
スマホを取り出したが、なかなかボタンが押せない。
おそらく、恵子になんと言うか考えをまとめているのであろう。
意を決して、「電話をかける」のボタンを押す…。
コール音がなるが…
…でない…。
また、ソファーのクッションに突っ伏してしまう。
「なんだよぉ~情けないなぁ~。こんなカズちゃん初めて見た。」
見ると、肩を震わせて泣いている…。
「え?そんなに?泣く程?? 子供かよ…。」
そこに、恵斗が渡良瀬の家から帰って来た。
「だめだ、お父さん。お母さんはもう…、ちょっとやそっとじゃダメだわ。なんかおじーちゃんとおばーちゃんに泣きながら訴えてたよ。」
顔を上げて、恵斗を一度見て、またクッションに顔をうずめる和斗。
「こっちも重症か…。でも浮気してちゃぁダメでしょ…。」
「そのことなんだけど…。」
恵美は恵斗に経緯を話した。それを聞いてあきれた様子…。
「は?じゃぁ、話しは簡単じゃん?なんでこんな大事になってんの??」
「あたしがヒミツっていったら律儀にそれを守ったみたい…。明日の朝、おじいちゃんとこに行ってこれば?もう今日は遅いし…。」
しかし、話を聞いているのか聞いていないの分からない。和斗はソファーに顔をうずめたまま…。
次の日の朝…。恵子がいないので、恵美が早く起きて三人の朝食を作りにキッチンに降りてきた。
「さてと…わぁ!ビックリした!!」
ソファーには、昨日の体勢のままの和斗。
「ちょっと…昨日からそのままで、お風呂にも入ってないの?」
何も答えず、大きなオナラをブオンと一発…。
「…やだ…。なんなの…ケイちゃんの前だとしないくせに…ちょっと!ホラ!起きて会社行く準備しなよ!」
「もういい…どうでも…ケイちゃんに嫌われた…カッコつけてもしょうがない…。」
「何言ってんの?ホラ!起きろよぉ!」
「いいよ!放っといてくれ!会社も休む!有給たまってるし…一週間くらい休むぅ~~!」
わぁわぁと泣き叫ぶ和斗を見て、恵美はフゥとため息をついた。
なんなの?この男…こんなにカッコ悪いとこ初めてみたわ…。
顔もなんか急に老けた感じ…。
あ~お風呂入ってないから、髪の毛もベタベタだし…。あ…結構薄いんじゃん…。
和斗の服を掴んで、無理やりソファーから引きずり下ろした。
ドサッと床にそのまま落ちる…。
「ホォラ!せめて、シャワーでも浴びてきて!臭いよ!」
ヨタヨタと起きて、脱衣所に向かって行ったのを見送り、その間に朝食を作る。
恵斗が起きて来て、恵美にお世辞を言いながら朝食を食べ始めた。
その時、キッチンと廊下が繋がるドアがカラカラと開く。
全身素っ裸の和斗がタオル一枚もかけずに入って来た。
「キャ!ちょっとぉ!パンツくらいはいてよぉ!」
しかし、それも無視しリビングのソファにまたも同じ体勢で倒れ込む和斗。
二人して心配そうに和斗のそばに駆け寄ってゆく。
「あたしにハダカ見られるの恥ずかしいんじゃなかったっけ??」
「もーいいよ…どうでも…。」
ダメだ。完全に無気力になっちゃったコイツ。
ケイちゃんがいることが…カズちゃんの原動力なんだろうなぁ…。
もう… しょうがない!あたしが一肌脱ぎますか!
学校も部活も終わり、家に帰る恵美。
リビングにくると、朝と同じ状態。ハダカのまんまの和斗。
その隣に恵斗が座り、話しかけたり揺すったりしている。
「ぜんぜん動かねぇの。お父さん、飯は食ってたんですか!?」
と聞いてみるが返答一つない。
「な?」
恵美も恵斗の横に座って
「カズちゃん。一緒におじいちゃんのとこ行こう。ケイちゃん迎えに行こう!」
と言うと…、ムクっ!と起き出し、いそいそと二階にのぼり、高級なスーツを着て降りてきた。
ヒゲも完璧にそり、髪もいつものように整えた。
「決まってるぅ!」
「だろ??これならケイちゃん惚れ直すだろ??」
「じゃ、行こうか!」
意気揚々と足並みを揃えて三人で渡良瀬宅へ。
だが玄関の前に立つものの、なかなか呼び鈴が押せないでいる和斗に代わってに恵斗が押す。
「あ、あ、あ、」
自分のタイミングでやろうと思ったものの不意打ち的に呼び鈴を押され、少しパニックになり後ろを向いて足早に去ろうとしてしまう。
「ダメだよ!カズちゃん!帰っちゃぁ~…。」
恵美はその腕を掴んで止めた。




