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助けてって言えばよかったのよ

作者: のあ









「ねぇ?私の昔話を聞いてくれる?」


とある国の、有名な魔女がそういった。

どんな願いもかなうというその宝は、目の前の魔女が持っている。魔女はその宝を使わずに手の中で転がしながら自分に話しかける。

彼女は、1人で世界を滅ぼしてしまう魔女。

あまりに力を持ちすぎた魔女。

たった1人で相手の国の人間すべてを焼き殺し戦争を終わらせた死の魔女。

そんな魔女が、戦争の引き金になった宝を手の中で転がしながら自分に微笑みかける。

その宝を巡って、戦って、殺して、殺して、死んで、死んで、殺して・・・そんな戦いの果てに、自分は今、死にかけているのだけれども。

口からは吐息が漏れるだけの、屍に魔女は微笑んだ。







昔大好きな友人がいました。

とても優しくて、とても強くて、格好良くて、心も見た目も美しくて、正義感溢れて、私なんかの言葉では表現しきれないほどの友人でした。

そんな強くて優しい彼は、いつもみんなのヒーローでした。

誰かに助けを求めらられれば、嫌な顔せず、笑顔でみんなを助けていました。私は、魔術の才能だけはとびぬけてあったので、彼のお手伝いを少しばかりしていました。

彼にとって、唯一私は守るべき・助けるべき存在ではなかったからでしょう。それを寂しいとは思いません。それこそが、私の誇りで、友人であるという自負だったのだから。

彼の口癖はいつも「みんなが幸せになるのなら」でした。


しかし、私たちの国で戦争がはじまりました。


当然、彼は民衆から、王から、国から助けを乞われました。彼はそれほどまでに強かったから。


「それで、みんなを守れるのなら」


と、彼は承諾しました。彼は賢い人でしたから、戦争に出れば人を殺さなければいけないことは知っています。人を殺すことがどういうことかも知っていました。それでも、彼は守るべき範囲をこの国だけに絞り込み相手の国の人間を殺して、殺して、殺しつくしました。

母親を探す子供も、子供の食料を確保するために戦いに挑んできた父親も、愛した女の為に生きようとする男も、子供を守ろうとする母親も殺して、殺して、殺して、殺してきました。

そんな、彼を私の国は褒め称え、称賛の声を上げ「英雄」と呼びました。

一方で、彼からは日に日に笑顔が消えていきます。微笑むこともなくどこかぼんやりと虚空を眺めている時間が増えました。

兵器開発の為、研究所に閉じ込められていた私は、彼と会った瞬間にとてつもない恐怖に襲われました。

彼がそこに存在しないのではないかと錯覚してしまったのです。

最初に私は言いましたよね?

彼はとても強い人なのですが、とてもとても優しい人なのです。

彼の力はいつだって、人を助けるためにあったもので、殺すためにある物ではないのです。

人を殺し続けた彼の心が、壊れかけているように見えたのです。

だから、私は引き止めました。

もう戦争に行かなくていい。戦争なら私が終わらせよう。君のその力は人を助けるためのものだろう。君が、嫌なら、殺したくないなら、戦争なんてしたくないなら行かなくていいんだ、と。

彼の心が嫌だと叫ぶのなら、彼には彼の心に従ってほしかったのです。

しかし、彼はこう言いました。

「それでみんなが幸せになれるのならいいんだ」と。




そうして、彼は死にました。

戦死したのではありません。

彼は自分の国に殺されたのです。

相手の王の首を携えて帰ってきた彼は、新しい時代に血にまみれた英雄はいらないという理由で、その場で殺されました。私が駆け付けたときには、すでに虫の息でした。

彼は、私に静かな消え入るような声で言いました。




「・・・・・もういやだ」




この言葉を残して彼は死にました。

彼にどういった葛藤があったのか私にはわかりません。ですが、私は彼から学んだことがあるのです。

彼を殺したのは、人ですか?戦争ですか?国ですか?

いいえ、いいえ!!!ちがいます!

彼は、心に殺されたのです。

彼は、戦争を終わらせるために自らの心を殺し続けてきました。すべての葛藤も感情も想いも全て全て「みんなのために」殺してきました。

そうして、生きてきた彼はその「みんな」に殺されるというこの皮肉。彼は、殺された心に殺されたのです。

彼が、心のままに戦争に行かず、人を助けるために生きたのなら、もっと早くに自分の心に気づいていてくれたら、彼が自分の為だけに生きていてくれたら。自分の心のままに生きてくれたのなら・・・きっと違う結末になったのでしょうね。

もっと早く「助けて」と言ってくれたなら。




そうして、私は自分の国の人間すべてを殺しました。

女も子供も王族も平民も関係なく、全員を焼き殺しました。

どうしてかって?

簡単です。憎かったから。

彼の心も、彼と言う存在も、全てを殺した国そのものが憎かったから。私は心の叫ぶままに全員を焼き殺しました。

これが、私が死の魔女と言われるようになったきっかけでしょうか?



さて、昔話を聞いてくれてありがとう、少年。

私もこの宝を探して何百年と生きて来たわ。ずっと叶えたい願いがあったの。

聞くも何も、目の前で語られていれば嫌でも耳に入って来るというものだ。目の前の魔女は薄く薄く微笑んでいる。ずっとほしかった宝を手に入れた者の顔にしては魔女の顔はひどく悲し気にみえた。


私は、望むわ。

全ての人間が、心のままに生きれますように、と。


きっと、そんな世界になれば人間は滅びるのでしょう。

でも、それでもいいわ。

心の失くした人間が、悲惨な最後を迎えるよりずっといいわ。

だって、それは結果だもの。人間の心の結果だもの。

戦いを起こすものもいれば、助けようとするものもいるでしょう。

でも、いいの。

それが、自分の心に従った結果ならば私はなんだっていいのよ。

世界で一番不幸で、悲惨なことは心が自分によって殺されることだから。



「だから・・・・・あなたも、思いのままに生きなさい。話を聞いてくれてありがとう、少年・・・もう声は届いていないでしょうけど。私はね、少年も含めた人間すべてが大嫌いで愛おしいの。だからこそ、心のままに生きてほしいの」



きっと、人間の世界はそう遠くない未来に終焉を迎えることでしょう。

それが、人間の心の決定ならば私は祝福を捧げよう。


「さあ、古き世界との決別を!新しき世界に祝福を!!」


そうして、魔女は心のままに世界を焼き尽くすのでした。








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