56話 賊の狙いはどうやら私のようです。
「賊だぞ!アリア様を守れ!」
ランディの一言で、護衛達は私の馬車の周りに陣形を取った。
「いやー、リンカーヌの皆さんは威勢がいいねぇ。」
賊の先頭にいる男が、クックックッと笑いながら、護衛達を見渡した。
「だけど、その威勢もどこまで持つかな?」
「何だと?馬鹿にするなよ!我がザイーバル騎士団はどこにも負けん!」
ルイス殿下の騎士団の一つであるザイーバル騎士団の団長が怒鳴った。
「はっはっは!!どっからくるの?その自信。ムカつくね君。まあ、いいや。すぐに君達は死ぬことになるし!」
「!?」
この人、賊なのに「君」っていてる。普通はもっと汚い言葉を使わないかしら?丁寧というか、貴族みたいな言葉使いしてる······。
「僕らが用があるのは、その馬車に乗っているリンカーヌ国の皇太子妃なんだよね。君達邪魔だからさ、死んでもらうから。ふふふ。」
えっ!?私?
この人達、賊ではないの?
「アリア様は渡さない!貴様らには負けん!皆!行くぞ!」
「「「「「「オォォォォッ!!」」」」」」
ザイーバル騎士団長の掛け声で、一斉に護衛達が動きだして、馬車の周りが戦場となった。
カキーンッ!
ガッッ!!
ドスッ!
ザッシュッ!
「うわぁぁ!」
人の斬られる音。
「うぉぉ!」
色んな所から、色んな叫び声や怒鳴り声が聞こえる。
どらかと言えば互角·····いや、こちらの方が圧されている感じがした。
どうしょう!!
このままでは、犠牲者が増える。
賊の目的は私。私が出て行けば·······
「アリア様!変なことを考えおりませんよね?」
ドキッ!
「ね、ネネってば、何を言ってるの?」
「私が出て行けば収まるとか思ってませんよね?」
ドキッ!!!
流石はネネね!長年の付き合いだけはあるわ!私の思考が丸わかり!!
「そんなことをしても状況は変わりませんよ。アリア様があちらへ行かれても、殺されるでしょう。それに頑張って守ってくれている護衛達に失礼ですわ。」
「········。」
ネネにキツイ一言を言われているときに、
ドンドンドン!
と、馬車の小窓を激しく叩く音が聞こえた。
小窓を見ると、ランディが覗いていた。すぐにネネが小窓を開ける。
「アリア様!これから騎士団と別れて行動します!」
「え?」
「この馬車と、近衛部隊を三個隊でこの戦闘から脱出します!あとの者は残って賊と戦います!」
そ、そんなこと·······私を逃がす為に?
「そんなのダメ!私も残ります!皆さんが戦っているのに私だけ逃げる訳には行きません!」
死ぬ時は一緒です!
私はその気持ちでいたのに、ランディは私の顔をじっと見つめて言った。
「アリア様、失礼を申しあげます。相手はアリア様目当てと、はっきり申しておりました。そして私たちはアリア様を守る為にいるのです。相手は思ったよりもかなり強いです。こちらの被害もかなり出ております。正直、このままでは全滅の可能性もあります。その中でアリア様がここに留まっていると騎士団も近衛部隊も思うように動けないのです。私達の使命はアリア様を守ること。ですからこの場から一刻も早く離脱すことなのです。」
「·········。」
周りを見ると、相手側にもこちら側にも被害が出ている。
味方が倒れているのを見ると心が締め付けられる。
「ランディ殿!早くアリア様を!」
ザイーバル騎士団長が戦いながらランディに叫んだ。
「分かっております!さあ!アリア様行きましょう!少しスピードを出します!山道は今まで通り荒いですのでかなり馬車は揺れます!舌を噛まないように気をつけてください!」
ランディはそう言うと、ネネに小窓を閉めてカーテンも閉めるように言った。
そして馬車が急発進をし、もの凄いスピードでその場から脱出をしたのだった。
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今、何時ごろだろう········。
賊との混戦から離脱してかなりの時間が経ったと思う。
離脱するも、すぐに賊は数人追ってきたようだが、阻止するべく数人が抜け、または魔物のゴブリンなどが出たりしてまた数人が抜けるということを繰り返し、徐々に人数が減りながらも馬車は一度も停まることもなくずっと走らせていた。
かなり馬車は揺れたが、馬車酔いすることはなかった。酔う所ではなかった。
私とネネはお互いに手を握りながら(ダンちゃん人形とシャベちゃん人形はお膝の上に置いている。)、お互いに言葉も発することもなく、ただただこのまま、早く近くの街へ行き応援要請をしたかった。早く皆を助けたい!
皆、生き残って!
私は馬車の中で祈ることしかできなかった。
私って無力だわ······。こんなことなら剣術でも自己防衛の為に習っておけば良かったと今更ながら思う。
しばらくすると徐々に馬車のスピードが落ちたのが分かる。
そして馬車は停止した。
「アリア様」
外からランディの声がした。
私はカーテンと小窓を開けた。
「ランディ!!!」
「アリア様!もう少しでヤーマンドの街に到着します。もう少しのご辛抱下さい。」
「私のことはいいのよ!騎士団の人は?近衛の人はどうなの?」
ランディは私から目線を逸らして、一回ぎゅっと目を閉じた。
「先ほどの戦闘で残っている者はヤーマンドの街で落ち合うつもりです······生き残った者は来てくれるはずです·····。」
ランディは悲痛の面持ちをしている。
ランディも分かっているのだ。生き残りがほぼ見込めないことを。
私は今、残っている者を確認する為馬車のドアを開けて外に出ることにした。
そして驚いた。
リンカーヌ国を出発した時には80人はいた護衛の者が、今は20人位しか残っていなかったのだ。
私は自分のふがいなさにプルプルと身体が震える。
そこにネネがストールをそっと掛けてくれた。
「アリア様、あと少しで街をだそうですから頑張りましょう。さあ、馬車にお乗りください。」
「········。」
私はコクリと頷き馬車に乗った。
そして30分位でヤーマンドの街へ到着したのだ。
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それはアリアが出発してからわずか1日が経ってのことだった。
「私はサマヌーン国、宰相のランクスだ。至急ルイス殿下に謁見したい!!」
たった今、リンカーヌ国へ着いたばかりだ。
なんと言うことだ!間に合わなかったか!既にアリア様が出発しているとは!!
私はあれから、またモッコロ帝国に派遣している諜報員が上手くナタリア妃宛の書簡を入手することが出来たのだ。その書簡にはアリア様の誘拐の計画が書かれていのだ。私は事の重大さにギルバート様に報告し、先にキースにそのことを伝える書簡を早馬で送ることにした。。そしてすぐにリンカーヌ国へ向かう準備をし、キースに書簡送ってから二日後にサマヌーン国を出発した。
前回は諜報員に冒険者の振りをさせ書簡をナタリア妃に届けたが、今回は所謂「皇太子妃殺害計画」の証拠となる為そのまま手元に持っている。
無事に届いていると安堵をしていた。いつもちゃんと届いていたから。
旅の途中で、早馬で書簡を届いるはずの者が森で馬と共に遺体となっていたのだ。
多分魔物に襲われたのだろう。頭は勿論なく、身体のほぼ喰われている状態であった。かろうじて、その者と分かったのは近くに私が渡した書簡があったからだ。
それからかなり急いできたつもりだが、途中オークなどの魔物に襲われ、なかなか思うように進めなかったのだ。
そしてやっと着いたのだが········遅かった。
しばらくして、ルイス殿下の側近であるイーサ殿が部屋をノックし、ドアを開けて声をかけてきた。
「ランクス宰相殿、お待たせいたしました。」
イーサ殿は丁寧にお辞儀をして、ドアを広く開く。
そしてルイス殿下が部屋へと入ってきた。
「ランクス宰相殿、急な訪問だな。急ぎの用と聞いているがどうした。」
ルイス殿下は愛想笑いを浮かべながら話しかけてくる。
「ルイス殿下、一大事でございます。アリア様が狙われています。」
「何!?」
「実はアリア様の誘拐が計画されています。」
「!?」
ルイス殿下はいきなりの展開についていけないのか、言葉が出ないようだ。そしてゆっくりと深呼吸をして自分を落ち着かせて、改めて聞いてくる。
「なぜそれが分かった?」
「·····入手については秘密とさせていただきます。それよりも早くアリア様を追いかけないといけません。」
「と、言うは?」
「はい。計画ではヤーマンドの街でアリア様を誘拐すると書かれているのです。」
「何だと!?!どういうことだ!ランクス宰相、詳しく教えて欲しい!」
こうして、私はルイス殿下にアリア様の誘拐計画について詳しく説明をした。
そして一刻も早くアリア様を追いかけないと!!
今の私の頭にはそれしかなかった。
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