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第七十四話 お兄様はご立腹

 銀蝶花採取大作戦の今後の方針は、精霊便を使ってやり取りする事になった。


 エルンスト様やリヴァイからの手紙はシルフィーがこちらに届けてくれ、こちらからの手紙はケイオスが運んでくれる事に。


 合法的にシルフィーに会いに行けるため、ケイオスは上機嫌だった。


 空間の狭間をすり抜けて自由にどこでも行き来できる精霊って、便利だな。



 その日の晩、一応家族にもきちんと紹介しておいた。精霊と誓約を交わしたと言ったら、お父様もお母様も大変驚いていた。


「初めまして、剣の精霊ケイオスと申します。これからリオーネ様の剣となり盾となり、お守りする事を約束致します」

「精霊様と誓約を結べるのは限られた魔術師だけだ。リオーネには精霊士としての素質もあったのだね、本当にすごいことだ!」

「ケイオス様。どうかリオーネの事、よろしくお願い致します」


 外面だけは良いケイオスは、そう言って両親の信頼を勝ち取った。


「本当にリィを守れるのか、その強さを証明してください」


 しかし、ルイスだけはケイオスに鋭い視線を向けていた。


「勿論です。納得していただけるまで相手になりましょう」

「リチャード、彼と手合わせしてみてくれる?」

「かしこまりました。お坊っちゃまの仰せのままに」


 訓練所に移動してリチャードとケイオスの模擬戦が始まった。


 初めてリチャードの戦ってる姿を見たけど、何だろうこの既視感は。細い刀剣を両手で握り隙のない素早い動きで相手を撹乱する。


 残像だけが残って見え、まるで舞を見ているかのような……あれ、リチャードの剣よく見ると片刃だ。まるで日本刀のような……あ、謎がとけた。


 既視感の正体は、侍だ!

 リチャードが昔居たとある島国って、きっと日本を模した国の事なんだろう。


 名前がリチャードだから全然想像付かなかったけど、異国の旅人で日本っぽい国出身のキャラが居たし、きっとそうだ。


 変わった動きをするリチャードに、ケイオスは最初こそ様子見をしていたけど、すぐに見切ったようで軽々と一本取った。


「参りました。お坊っちゃま、私の全力を持ってしてもケイオス様に敵いません」

「そう、なんだ……」


 ルイスは残念そうだったけど、お父様とお母様は大変嬉しそうだった。

 人外の強さを持つ心強い護衛が私を守ってくれる。それがお父様とお母様の安心に繋がったのか、街へのお出かけの許可が出た。やったね!


 料理系の素材は近場で新鮮なものを手に入れた方が高品質のものが作れる。


 今までは料理長に頼んで少し多めに材料を仕入れてもらって、それをもらっていた。


 勿論、お父様には了承をもらった上で。勝手にそんな事をして、料理長が悪く言われても申し訳ないから。


 しかしケイオスに満足してもらえるご飯を作るためには、今までのように少し多めでは到底足りない。


 主がマナをくれないから精霊が餓死して(マナが切れて)消滅したなんて事になったら、目覚めが悪すぎる。


 新しいレシピに挑戦するためにも、素材は自分の目で直接見てから仕入れたい。


 というわけで翌日、早速食材の買い出しに出掛けた。


「リィ、僕も一緒に行く」


 と言ってきかないお兄様も連れて。馬車に揺られて繁華街へと向かう。


 昨日の夜にケイオスを紹介してから、ルイスの機嫌がすこぶる悪い。口には出さないけど、空気で伝わってくるんだよね不機嫌なのが。双子のテレパシーというやつだろうか。


「ルイス、怒ってる?」

「…………べつに、怒ってないけど?」


 めちゃめちゃ怒ってるよ、これ。ジーッと睨むようにケイオスの方見てる。


 普段温厚なお兄様が、ここまで敵意むき出しで嫌悪感を露にするのは正直かなり珍しい。よほど気に入らないのかもしれない。


「黒を纏う精霊は邪悪な存在が多いって本で見たけど、彼は本当に安全なの? エルンスト様もリヴァイも傍に居たらしいけど、何で誰も止めなかったの?」


 ケイオスが危険な精霊だと疑ってるって事か。


「ケイオスは(まだ)悪い精霊じゃないよ」

「主をマナ回復の宿り木として利用し、精神的に主を操って悪いことをする精霊も居るって、本に書いてあった。彼がそうならないと言いきれるの?」


 ルイスの目元にはうっすらクマがある。もしかすると、睡眠時間を削って精霊について調べてくれたのかもしれない。


「正直、今の私にはそこまで分からない。でもね、ルイス。私はケイオスの未来を少なからず前世の記憶で知っているの。確かに彼は誰も手を差しのべなかったら、将来暗黒大陸のフロアボスとして君臨する恐ろしい存在になる」

「暗黒大陸のボス!? そんな危険な存在を傍に置いているっていうの!?」

「そんな強い精霊が味方についてくれたら、とても心強いって思わない?」

「味方で居てくれるなら、ね。裏切らない保証にはならないよ」


 そりゃそうだ。うーん、ルイスは手強いな。それだけ私の事を心配してくれてるって事だし、それで喧嘩はしたくない。


 私が逆の立場でも、ルイスがいきなり得体の知れない存在と誓約を交わしたって連れてきたら、心配するだろうし。


 生憎今の私には、ルイスを説得できるほどケイオスと信頼関係も築けていない。


『お前と同じ顔のガキを説得すればいいのか?』


 同じ顔のガキじゃない!

 私の大切なお兄様!


 もしルイスに認めてもらえないなら、最悪誓約解除を検討しないといけないかもしれない。


 強い護衛は確かに欲しかった。でもそのせいで大切な家族を不安にさせたくはない。


『俺を捨てるのか……!?』


 捨てるって、元々誓約を交わすのはあまり乗り気では無かったんじゃないの?


 誓約を結んであげてほしいって懇願していたのはシルフィーで、彼女の手前断り辛かったのもあるんじゃないかなーと、少し思っていた。


 ケイオスは私の質問に答えることなく、ルイスに声をかけた。


「おい、坊主。お前、死にそうなくらい腹が減ってひもじい思いしたことあるか?」

「……ないけど」


 警戒しながらルイスは答えた。


「だろうな。そんな良い身なりして、どん底の生活なんてした事ないだろう?」

「何が、言いたいの?」

「じゃあもし、お前の大切な妹がひもじくて死にそうになっている。他人の物を奪うしか生きていく術が無かったとして、お前はどうする? 助けるために奪うか? それとも無力な自分を悔いながら、そのまま妹が死ぬのを見守るか?」

「…………リィがそれで助かるなら、僕は奪うよ」

「端から見たら、そんなお前はただの泥棒だ。一度貼られたレッテルは消えない」

「それでも、僕は後悔しない」

「我もお前と一緒だ。他人にとやかく言われようと、大切な者を守るためならやった事に後悔はない」


 ケイオスの言葉に、ルイスは悔しそうに唇を噛んだ。


「リオーネは、我に腹一杯マナをくれた。久しぶりだった、あんなにも満腹感を味わえたのは。与えてくれた分だけ、必ず恩は返す。我は戦う事しか出来ないが、お前の大切な妹が怪我をしないよう最善を尽くすつもりだ。それだけは必ず約束する」


 ケイオスのその言葉を聞いて、軽々しく誓約を解除なんて言った事を少し後悔した。


 彼は彼なりに、この誓約を前向きに捉えてくれていたらしい。シルフィーに流されてるって思い込んでてごめん……その代わりに、お腹いっぱい食べさせてあげよう。彼が邪気を含んだマナを食べずに済むように。


「じゃないと我は、またひもじい思いをして放り出されるであろう?」

「そうだね。あーあ、なんか毒気抜かれちゃった。最初からそう言ってくれれば良かったのに、胡散臭い演技してるから紛らわしいんだよ」


 ルイスは、ケイオスの外面を見抜いていたのね。流石だわ!


 ねぇ、ケイオス。貴方、兄弟なんて居たの?


『居るわけないだろう』


 作り話かよ!

 ちょっとうるっときたのに。私の涙返して!


『まぁ、弟分は居たけどな。精霊の隠れ里に入れてもらえるのは、ほんの一握りのエリート精霊だけだ。多くの精霊は、生まれてはすぐに消えていく運命だしな』


 テレパシーでそう語りかけてきたケイオスの横顔は、哀愁を帯びていた。


 あながち全てが作り話ではなかったのかもしれない。私が知っているのは、あくまでも作られたゲームの中の一部でしかないわけだし。


 ケイオス、拾い食いは駄目だよ? 貴方のご飯は私が作ってあげるから、外で変なの食べちゃ駄目だよ? これは約束ね。


『…………俺を犬扱いするな!』


 その瞬間、ケイオスが番犬に見えたのは不可抗力だよね……もう少し懐いてくれたら可愛いんだけど。


「リィの事、しっかり守ってあげてね」

「ああ、勿論だ」


 とりあえず和解出来たって事で、いいのかな?


「ルイス、認めてくれてありがとう」

「まだ完全に認めたわけじゃないからね! 怪しいことしないか、僕はずっと見てるからね!」


 そう言いつつも、ルイスから怒気は完全に抜けているのは感じ取れた。


「ルイス、買い物に付き合ってくれるからには手伝ってね?」

「何を?」

「真実の指輪持ってる?」

「うん、あるよ」

「今から食材店を見て回るから一つずつ分析して、MP回復効果のある食材や役立つ特性効果のついた食材見つけたら教えて!」

「一つ一つやるの?」

「うん、そうだよ。ルイス来てくれて助かったよ! 私一人じゃ一日で終わる気がしなかったから」

「二人でやっても終わらないんじゃ?」

「三人でやれば終わるはず!」


 ジーッとケイオスに視線をやると、うげって顔してこっちを見てる。失礼な!


「我もか?!」

「ケイオスは食べたいの選んでくれたらいいよ。その材料使って新たなレシピ開発するから」


 そうしてたどり着いた食品を取り扱う商店街。果物、野菜、お肉に魚と新鮮な食材達が売られた屋台がずらっと並んでいる。手前から順に見ていこう。


 まず始めは果物を売ってる屋台から。見た感じ、一つの屋台で数種類ずつ売ってるみたいだ。


「いらっしゃいませ……あ、貴方は!」


 店番をしていた女の子がこちらを見て、何故か嬉しそうに顔を綻ばせている。


 栗色のツインテールの女の子……いつぞやの主人公ちゃんだ!

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