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第七十三話 見つけた、最強の用心棒!

 庭に出て、エルンスト様とケイオスの手合わせが始まった。


 あのエルンスト様の剣を軽々とかわしつつ、ケイオスは「こんなものか?」と余裕の笑みを浮かべている。


 双剣使いなのに、一本しか剣を使っていない。素人目で見ても分かるくらい、スピード、力、身のこなし、どれをとってもケイオスの方が格段に上だった。エルンスト様が子供のようにあしらわれている。


 そういえば作中でも、ある程度HPを削って第二形態に変化しないと二本目の剣を抜かなかったもんな。


 ケイオス、めちゃくちゃ強い!

 そりゃそうか。未来の暗黒大陸のフロアボスだもん。弱いわけがないよね。


「兄上! ケイオス様! 二人とも頑張ってください!」


 そんな二人の勝負を、リヴァイは楽しそうに応援している。


 しかし、二人の勝負は思わぬ事態で幕を閉じる事になった。


 ケイオスがエルンスト様の首筋に寸止めで剣を当てたその時――


「ダメー!」


 女性の叫び声がして、ケイオスの剣が弾かれた。


「ケイオス! どうしてこんな酷い事をするの! エルンストをいじめないで!」


 エルンスト様を庇うようにして、神秘的な新緑色の長髪をした美しい女性が立っていた。


「いじめていたわけではない。我は頼まれて……」

「貴方はそんな事するはずないって、信じていたのに……酷いわ! ケイオスなんて大嫌い!」


 女性のその言葉で、ケイオスは膝から地面に崩れ落ちた。あの女性が実体バージョンのシルフィーだと、そこで初めて気付いた。


「違うんだ、シルフィー。俺が頼みこんで、ケイオス様に手合わせをしてもらってたんだよ」

「本当に?」

「ああ、本当だ」

「じゃあそもそもどうして貴方がここに居るの? ケイオス」

「そ、それは……」


 貴方をストーカーしていたからなんて、言えないよね。


 さぁ、どうするんだろうと眺めていたら、立ち上がったケイオスは何故かずんずんとこちらに歩いてきた。近くに来ると、背が高くて威圧感が半端ない。


「今はここで、リオーネ様の守護精霊にしてもらうべくお守りしているからだ」


 話を合わせろと言わんばかりの眼差しが上から飛んでくる。


「そうなのですか?」


 シルフィーが疑心暗鬼といった表情でこちらを見ている。


「は、はい……?」


 じーっとこちらを観察してシルフィーは言った。


「祝福もお与えしてないようだけど……まさかケイオス、幼気な少女を脅して無理やり誓約を迫ろうと……?」

「そ、そんな事はない。リオーネ様は恥ずかしがりやで、中々祝福を与えさせてもらえないのだ。な、そうだよな!?」

「は、はい……」


 私は一体、何に巻き込まれているのだろうか。


「そうだったのね。リオーネ様、私は樹木の精霊シルフィーと申します。ケイオスは今、わけあって精霊の隠れ里に帰ることが出来ません。このままでは何れ体を休めることが出来ず、維持する事も難しくなっていくでしょう。魔術師と誓約を結べば、それを阻止する事が出来ます。よかったら彼と、誓約を結んで頂けないでしょうか?」


 誓約って何だろう。

 誓約とか契約とか、軽々しく判子押しちゃダメなやつだよね。響き的に。


 作中にはドラゴンを召喚して戦う召喚士は居たけど、それと同じ感じなんだろうか?


「よ、余計なことは言わなくていい!」

「だってお爺様に出された課題をクリアしないと、里に帰って来れないじゃない」

「それはそうだが……」

「私は貴方が里の皆にあんなに酷い悪戯をしていたなんて思ってないわ。何か理由があったのでしょう?」

「…………ムカついてやったことだ。お前には関係ない」


 違うでしょ!

 シルフィーを守るためにやった事でしょ!

 何で素直に言えないよの、ケイオス!


 保守的な精霊族の中で、シルフィーは外の世界に興味を持つ変わった精霊だった。だから里の中では彼女を悪く言う精霊もいて、そんな精霊達にケイオスは悪戯をしていた。


 褒められた行為じゃないけど、戦闘が禁じられている里の中ではそれが最大限に相手を懲らしめる行為だった。


 どうして、素直に言わないのよ!


『そんな格好悪いこと、言えるわけないだろ! お前は黙ってろ!』


 確かに私は部外者で関係ない。でも誤解されたままなんて、悲しすぎるよ。


「リオーネ様、お願いします。ケイオスは無愛想だけど、本当は優しい心を持った精霊なんです。旧知の仲として、彼がこのまま消えてしまうのはとても悲しいのです。貴方は精霊と誓約を交わせる強い魔力をお持ちです。どうか彼と誓約を交わして頂けないでしょうか」


 シルフィーに懇願され、私はどうしていいか分からなかった。


「シルフィー、そもそも誓約って何だ?」


 エルンスト様が、ナイスな質問をしてくれた。


「誓約を交わした人間と精霊は、言わば一心同体のようなもの。精霊は傍にお仕えし主のあらゆる危険を察知して、お守りする事が出来るようになるわ。ただし条件があって、誓約を交わすと精霊は主を依り代にするから、定期的にマナを供給してあげられる魔力の高い人間しか誓約を交わす事が出来ないの」

「リオーネ嬢は、その誓約を結ぶ相手として適しているという事なんだな?」

「そうなの! 最近では中々精霊と誓約を結べる人間は少ないんだけど、彼女ならきっと出来るわ! それにケイオスは剣の精霊だから、戦闘面での相性も良いと思うし、きっと役に立つと思うわ!」

「誓約を結べば、共に戦ってくれるって事ですか?」

「ええ、勿論です! リオーネ様の盾となり剣となり、戦って守ってくれますよ」


 もしかして、かなり優秀な護衛として使えるんじゃ……見つけた、私の用心棒!


「リオーネ、安全のためにもケイオス様と誓約を交わした方が良いのではないか? 俺もその方が安心できる」

「ここまで強い方はそう見かけない。リオーネ嬢、俺も悪い話ではないと思うよ」


 周りから綺麗に外堀を埋められ、『イエス』としか言えない状況になった。


 ど、どうするの、ケイオス!


『……仕方ない。誓約を結んでやろう』


 中身は本当に物凄く上から目線だな。


 でも本当にこのまま誓約を結んでしまって良いのだろうか。


 ケイオス、貴方は本当にこれでいいの?


『お前の傍に居れば、楽にマナを補充できる。お前も強い護衛が欲しいのだろう? 互いの利点は一致している。何を悩む必要がある?』


 将来の暗黒大陸のフロアボスがどうなるのか心配しているなんて空気読めない思いは、読まれないように深い深い場所にしまっておこう。


 今は未来の心配より、目先の安全の方が大事だ。


「分かりました。私と誓約を結んでくれますか?」

「ありがとうございます、リオーネ様」


 さっきまで五色人間としか呼んでなかったくせに。中身と外面のギャップが非常にむず痒い。


「良かったわね、ケイオス!」

「ああ、シルフィーのおかげだ。ありがとう」

「古い付き合いじゃない。気にしなくていいのよ。リオーネ様の気が変わらないうちに、はやく誓約を結んでもらった方がいいわ」

「そうしよう」


 私の前に跪いたケイオスは呪文を唱え始めた。


「我、剣の精霊ケイオスは汝に誓う。何時如何なる時も傍に仕え、汝の剣となり盾となる事を約束しよう」


 私とケイオスの下に大きな魔方陣が現れて輝きを放っている。


「主よ、承諾して頂けるなら我に汝の血をお与え下さい」

「血……!?」


 血をくれなんて言われても、どうしたらいいの。


『じっとしてろ。今この剣で切ってやるから』


 背中の剣を抜いてそんな事を言うケイオスに、恐怖を感じた。

 ちょっと待ってよ、そんな剣で切られたら私死んじゃう!


「少し切るだけです、すぐに終わりますからご安心下さい」


 無理! 少し切る構えじゃないって!

 明らかにとどめさしにきてる構えじゃん、それ!

 こういうの、せめて短剣とかで指先をちょこっと切る程度じゃないの!?


『手首をスパッと切って血を魔方陣に行き渡らせるだけだ』


 ねぇそれ、やっぱ死ぬよね。

 八歳児からそんな大量の血をもらおうとしないでよ!

 他に、何か他に方法はないの!?


「ケイオス、主を怖がらせちゃだめよ! 剣を収めて!」

「だが、血をもらわねば誓約は結べぬ」

「あるじゃない、もう一つ。平和的に誓約を結ぶ方法が」

「あれをやれと?」

「むしろ最初からそっちをしなさいよ」

「くっ、やればいいんだろ……」


 不貞腐れた様子でケイオスがそう呟いた。


「汝を我が主とする許可を頂きたく、存じます」

「えっと、何をすれば……」

「血は結構です。我が額に、聖なる印を施し下さい」


 目の前にはそう言って前髪を手で持ち上げるケイオスの姿がある。


 聖なる印って何だろう。額にぽんと手を置いたら、凄い恐い顔で『馬鹿者!』と睨まれた。


 ごめん、痛かった?

 そんなに強くは押してないんだけど……


「リオーネ様、聖なる印とは口付けの事です。ケイオスの額の紋章に印を付けてあげてください」

「え……口付け?」


 手から神々しく魔力を送り込むのだと思ってた。

 其方を我が眷属とする! みたいな感じで、漫画やアニメとかでよくそんなシーンあるじゃん……


『はやくしろ。いつまで俺をこの屈辱的なポーズのまま、待たせる気だ!』


 ケイオスは、私に跪き額をさらしながら凄んでくる。確かにこの上なく屈辱そうだ。外面と内面のギャップの激しさが強いな……


 ていうか、皆に見守られてそんな事するのすごい恥ずかしいんだけど!


 やっぱりさっきの血の方が良かったかもしれない……なんて思っていたら、リヴァイに声をかけられた。


「リオーネ、こうすれば良いんだよ」


 そう言って私の前髪をかきわけた後、リヴァイは顔を近付けてくる。額に感じる柔らかな感触に、フリーズする思考。


「参考になった、だろうか?」


 目の前には照れ臭そうにはにかむリヴァイの姿がある。そこで初めて、額にキスされたのだと分かった。


 どうやらやり方がわからず戸惑っていると思われたようで、親切に教えてくれたらしい。


「は、はい……! とても!」


 心臓がめちゃくちゃバクバクしてる!

 なんかすごく幸せ……


 しかしその幸せなときめきも『いつまで待たせる気だ!』とご立腹のケイオスの恐ろしい顔を見た瞬間、消しとんでしまった。


 一体これは何の罰ゲームなんだろうと思いながら、ケイオスの額に印をつけて誓約は完了した。


 最強の用心棒を手に入れたのはいいけど、食費がめちゃめちゃかかる事に後から気付いた。


 作中でも護衛雇うのはお金かかったし、それは覚悟してお金貯めてたよ。でもその予想を遥かに越える無尽蔵の胃袋をお持ちだった。


 いざという時に、お腹が減って力が出ないとか言われても困る。ケイオス用に、もっと高い回復効果のあるMP回復アイテムを開発しないといけないな。出来れば材料費が安くすむ料理で。マジックグミじゃ追い付かない……

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