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第七十二話 悪役精霊との邂逅

「リオーネ嬢、紙とペンを借りてもいいかい?」

「はい、すぐにご準備します」


 何に使うんだろうと思いつつ、戸棚から取ってお渡ししたら、エルンスト様はそこへ文字を書き始めた。どうやら、セシル先生宛に手紙を書いているらしい。


 書き終えた後、「シルフィー、これをセシリウス様まで届けてくれるかい?」と、誰も居ない所へ向かって話しかけられた。


 するとエルンスト様の手から手紙が消えた!


 セシル先生とそうやって連絡とってたんだ……世界中探しても、精霊便なんて贅沢出来るのはきっとエルンスト様だけだろう。


『あの人間! またシルフィーに雑用頼みやがって!』


 ああ、そっか。エルンスト様に精霊の悪戯が発動するのは、シルフィーに片思いしてる精霊の嫉妬からだったわ、そういえば。


 シルフィーの特別な加護を受けている事が気に入らないようで、腹いせに悪戯してる精霊――名前は確かケイオス。


 彼のせいで、エルンスト様が行方不明になりやすいんだろう。加護を受けた人間っていうのは、精霊から見ると分かりやすいみたいだし。


『呼んだか? 人間』


 精霊の姿は普通なら、『精霊のお守り』っていう錬金アイテムを持ってないと姿も見えないし声も聞こえない。でもエルンスト様のように精霊に気に入られると、自分から姿を見せてくる精霊も居る……


『おい、無視すんな人間。さっき俺様の名を呼んだだろう?』


 呼んでません。

 気のせいです。

 お帰りください。

 認めちゃだめだ。

 認めたら負けだ。


 もし『精霊のお守り』を持っていない状態で精霊の呼び掛けに一度でも反応してしまえば、興味を持たれてしまう。


「兄上、手紙はどうされたのですか?」

「セシリウス様に届けてもらった。善は急げと言うだろう?」


 急ぎすぎです、色々と。


「また例の精霊ですか? 本当に居るんですか?」


 居るよ、リヴァイ……頭上に。

 めっちゃ絡まれてる、助けて。


『お前、面白い波長してんなー! 五色人間』


 五色人間言うな!

 あ、やばい。反応してしまった。


 にたーっと口角を持ち上げて笑みを浮かべる精霊ケイオスと目が合った。


 精霊というより悪魔じゃん。リヴァイの楽譜のタイトルに出てきそうな見た目の悪魔じゃん。


『誰が悪魔だ、ゴラァ!』


 興味を持たれるとこうやって、心の中読まれるから嫌なんだよ!


 シルフィーみたいに優しくて思いやりの塊みたいな可愛い精霊さんとなら、喜んで仲良くなりたい。


 でも目の前で話しかけてくるのは、精霊の隠れ里でも一番の問題児。悪戯しずぎて隠れ里から追い出されたはぐれ精霊だった。


 しかも作中では暗黒大陸のとあるフロアのフィールドボスとして出てきた、闇落ちした邪悪な精霊様じゃないか!


 類は友を呼ぶってこと!?

 悪役令嬢には悪役精霊しか寄ってこないの!?


『そんな事言ってていいのかー? お前の秘密、隣の小僧にばらしてやんぞー?』


 ほらー!

 やはり関わるとろくなことない!


 それならこっちだって、考えがある。


 シルフィーに貴方の気持ち言っちゃうよー?


 やってることは同レベル……しかしケイオスには効いたようで


『分かった! 言わない! 言わないから、お前もそういうのなしな!』


 あれ、意外と扱いやすいのかもしれない。ケイオスは目元を赤らめて慌てふためいている。


「リオーネ、どうした? 上になにか居るのか?」


 リヴァイが、不思議そうにこちらを見ている。


「精霊様に声をかけられまして……」


 程度の低い喧嘩をしていたなんて、恥ずかしくて言えない。


「本当に精霊が居るのか!?」

「リオーネ嬢にも見えるのか! きっとシルフィーの友達だろう。良い奴等だから、是非仲良くしてやってくれ」


 エルンスト様、友達ではあるかもしれないけど、多分彼はストーカーですとは口が裂けても言えないな。


「くっ、なんで俺には見えないんだ……」

「精霊は恥ずかしがり屋だからな。中々人前には姿を現さない。いつかリヴァイドにも、見えるさ」

「そうだとよいのですが……なぁ、リオーネ。そこにいらっしゃる精霊様は、どのような姿をしているのだ?」


 意地悪そうな中二病っぽい格好の悪魔……


『おい、人間。言葉は正しく使えよー?』


 痛い痛い、私の頭上でジャンプするのやめて。思わず手でつまんで阻止した。


『おい、はなせ! 俺様をつまむなど、なんて罰当たりなやつだ!』


 あれ、なんでつまめるんだろう。

 精霊の実体は隠れ里にあるんじゃないの?


『俺様は特別なんだ。しばらく反省してこいと、課題を与えられ実体ごと里の外に出る許可をもらったからな!』


 すでに追い出された後じゃないか!


 はやく教えてくれと言わんばかりの、純粋なリヴァイの期待に満ちたキラキラした眼差しが突き刺さる。仕方なく、今はまだかろうじて精霊であるケイオスの姿を教えてあげた。


「エキゾチックな黒い装束を身に纏い、褐色の肌に銀髪が印象的な……自信に満ち溢れた雄々しい精霊様です」


 最大限のオブラートに包んで嘘とばれないよう特徴を述べると、リヴァイの瞳の輝きが増した。


「男の精霊様なのか! しかも黒装束だと!」


 なんかリヴァイの趣味とマッチしそうな格好してるかも。意外と相性良かったりして……


「俺も精霊様と話したい! 姿を見せてくれるよう頼んでくれないか?」

「分かりました、交渉してみます」

「ありがとう、リオーネ!」


『やだ。めんどい』と、交渉の余地なく否定された。


 ケイオス、貴方帰る場所ないんでしょ? だからシルフィーの後を追いかけまわしてるんでしょ?


『俺様の心をグイグイ抉ってくるな! 見守っているだけだ!』


 それをストーカーって言うんだよ……里に帰れないんだったら、実体を保つのも辛いんじゃない?


『何故、分かる……!?』


 少なからず、貴方の未来を知っているからだよ。


『五色人間は、そんな事も分かるのか!?』


 精霊は本来、隠れ里の中でしか生きる事が難しい。聖域で定期的にマナ、人間で言うところのマジックポイントを補充して暮らしているから。外の世界にこうして顔を出していられるのは、本体を聖域においているからだった。


 でもそれが出来ないケイオスは、身体を維持するのに必要なマナを回復出来ず、少しずつ命を削っていっているような状態だ。


 草木から少しずつマナを摂取して何とか生き延びていたケイオスは、シルフィーが呪いに蝕まれて隠れ里を出れなくなった後、彼女の呪いを解く方法を探していた。その時、騙されて邪気に染まったマナを吸い込んでしまう。


 そのせいで暗黒大陸でしか生きられない身体になって闇落ちしてしまった。その結果、暗黒大陸のとあるフロアのフィールドボスに成り果てた。


 あの戦闘は本当に後味悪かった……倒す前に少しずつ、闇落ちする前のケイオスの重たい過去を知っていき、フロアボスの部屋にたどり着く。


 今まで見てきたその辛い過去に抗いながらも騙されて闇落ちしていく記憶が、今から倒さないといけないボスのものだと気付いた時の絶望感の半端なさ。


 倒しますか?

 見逃しますか?


 戦いの終盤に出てくるその選択肢で、何時間悩んだことか!


 倒すと素材は手に入るけど、ボスは死んでしまう。見逃すと素材は手に入らないけど、ボスは改心して生きている。


 各属性の最高位アイテムは、同じ属性のボス素材が必須だったから倒さないと作れない。図鑑を埋めたいがためだけに、そのボスを倒さないといけない罪悪感が半端なかった。


 暗黒大陸の攻略は、そうして闇落ちしたボス達を倒して進まねばならない。戦闘も大変だけどそれ以上に、練られたボスの過去ストーリーが重くて悲しくて心が痛かった。


 次のフロアのボスは、どんな痛みを、どんな苦しみを、どんな絶望を抱えているのか、それを全て受け入れていかないと先に進めない。錬金術を極めるには、そういった命の重みを感じながら選択していかないといけなかった。


 見た感じ、ケイオスはまだ悪に染まってはなさそうだ。それならば……転送バッグからとあるアイテムをたくさん取り出して、ケイオスに話しかける。


 リヴァイとお話してくれるなら、これをあげる。お腹いっぱいマナが補充できるよ。どう?


『…………本当か?』


 ごくんと生唾を飲み込むケイオスの視線は、机の上に大量に置かれたマジックグミに釘付けだった。


 ええ、もちろん。お腹空いたらいつでも用意してあげる。


 精霊の隠れ里に行く時の必需品、それはマジックポイント(MP)の回復薬。精霊の森を抜けるのに敵が魔法攻撃しか効かないからたくさん必要っていうのもあるけど、それらは精霊の好物でもある。


 効率的に精霊の隠れ里の依頼やクエストを達成するには、彼等の好物(特にマジックグミ)をたくさん事前に作っておく事が大事だった。


『分かった! ただし、もっとくれ。お前は魔力が高いから精霊を認識しやすいけど、そうじゃない奴に認識させるにはマナがたくさん必要だ』 


 ありったけのマジックグミをあげたけど足りなくて、別のMP回復アイテムで補ってあげた。


 倉庫のMP回復アイテムがなくなりかけた頃、『よし、これくらい貯まればいいだろう』とようやく満足したらしい。もしかしてケイオスは、かなり衰弱していたのだろうか……


「リヴァイ、交渉成立です。今から姿を見せてくれるそうです」

「ありがとう、リオーネ!」


 わくわくした様子のリヴァイの前に、ケイオスは神々しく姿を現した。


 目の前には背中に二本の双剣を背負い、褐色の肌によく映える美しい長い銀髪を靡かせて佇むたくましい青年の姿があった。


 チビ精霊姿でちょっとお話してくれるだけだと思っていたら、まさかのボス仕様の姿での登場!?


「我が名はケイオス。剣の精霊だ」


 威厳なんて微塵も感じられなかったじゃん、さっきまで。いきなりどうしたの。


「初めましてケイオス様! リヴァイド・ブラーシュ・ウィルハーモニーと申します。お会い出来てとても光栄です! うわー、格好いい! 見てください、兄上!」


 リヴァイのテンションが最高潮に高い。彼の好みにクリーヒットしたのだろうか。


「かなりの剣の使い手のようですね」

「当たり前だ。我に剣で敵う者など居らぬ」

「ケイオス様、是非手合わせ願います!」


 さすがは能筋。強い相手を見つけると戦いたくなるんですね、エルンスト様。


「よかろう。かかってこい」


 やめて。こんな所でやめて。

 私のアトリエ壊すの、絶対やめて。


「ここだと狭い。外でやろう」


 心読んで外に移動してくれた!

 ケイオス、意外といい精霊かも?

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