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第六十九話 遠回りして掴んだ真実

 アトリエに戻ってからようやく一息つけた。ウォーターガンの適正価格が分かったのはよかったけど、理想と現実のギャップにもやもやしていた。


「先生。こんなに高価だと、本当に使って欲しい人の手元には届きません。どうしたら良いのでしょうか?」

「そうですね。推奨錬金術レベルが49以下なら、レベルに応じて最高取引価格が決まっているので、査定してもらう必要はありません。ちなみに金額は先ほどもらったガイドブックに載っていますので参考にしてください」


 ガイドブックをパラパラめくると、アイテムの種類と必要錬金術レベルごとに細かく適正価格が載っていた。


 種類は便利アイテムで、錬金術レベル10で1万リル、20で5万リル、30で10万リル、40で100万リル。


「レベル30から40の価格の上がり幅が大きいですね」

「そうですね。錬金術レベルが40を越えると、レベルも中々上がりづらくなります。それにボスクラスのモンスターを倒して手に入れる素材を使う調合も増えますからね。中々その壁を越える事が出来ずに終わる方が多いのです」

「え、そうなのですか!?」


 リラクゼーションクッションを作ったりしてたら、私の錬金術レベル45まで上がってる。


「普通は、ですね。リオーネの場合は古属性なので、様々な属性のアイテムを作ることが出来ます。コツコツやれば、レベルは自然と上がっていきますよ」


 そっか、一属性の魔力しかなかったら自分の属性以外のアイテムは作りにくい。でも古属性なら全ての属性のアイテム作っていけるから、作るアイテムには困らずに済む。


 レベル上げが難しくなるほど、作れるアイテムの品数が多いのはレベル上げにおいては有利だな。


「ちなみに、錬金術レベルが1から19までは初級錬金術士、20~49までが中級錬金術士、50以上が上級錬金術士と呼ばれています」

「後レベルが5上がれば、私も上級錬金術士になれるのですか!?」

「ええ、そうですよ」


 というか、自分が中級錬金術士であることにも驚きだ! ここまで早く成長出来たのは、この財力チートなアトリエを作ってくれたお父様やお母様、そして私を導いてくれた先生のおかげだと、しみじみ思った。


 このまま究極の便利アイテムを追求していっても、限られた一部のお金持ちの人の手にしか届かない。

 私が今やりたい事は、もう少し低価格で皆が買い求めやすい役に立つアイテムを作る事なんだよな。


「先生、どうしたら必要錬金術レベルの低いアイテムを作れますか?」

「多くの機能をつければつけるほど、必要錬金術レベルも上がります。なので機能を減らしてあげれば、その分必要錬金術レベルも下げることが出来ます」

「機能を減らす……」

「そうです。リオーネのウォーターガンは、使い手の事をよく考え、複数の機能を備えた素晴らしいアイテムです。その分、作るのが難しくなってしまいます。なので、もう少しシンプルな機能にすることで、難易度はぐっと落とすことが出来ますよ」


 シンプルな機能……水やりに使うなら、たくさんの水を溜め込めて持ち運べればいい。


 ウォーターガンにある水の出方の調節機能を無くしてシンプルにしたらどうだろうか?


 その分物理的に傾けて水を出すようにしたら、風のコアを使わなくても済む。地味に一番高い素材は、風のコアだったし。


「水をたくさん溜め込めるじょうろ、なんてどうでしょう? ウォーターガンみたいに水の出方の調節をしなくて良い分、とてもシンプルです」

「ええ、とても良い案だと思います。君は本当に面白いですね。普通はそのじょうろを先に作って、試行錯誤してウォーターガンに辿り着きます。真逆に進む方は初めて見ましたよ」


 先生は綺麗な微笑みを浮かべてそう仰った。その眼差しはまるで、珍しい生物を観察するように楽しそうに見える。


「折角なら、色々便利な方が良いと思ったんですよ……でもそのせいで、ここまで高価なアイテムになるとは思いもしなかったんです! 先生。知っていたのなら、最初に教えてくれても良かったじゃないですか……」

「君の熱意に水を浴びせるような無粋なこと、私には出来ませんよ。それに最初に難しいのが作れるようになれば、その後が楽になりますからね」


 つまり私は目の前にあった簡単なゴールに気付かずに、自分から難しいゴールを目指して紆余曲折して走り回っていたようなものなのね。

 しかもそれを、先生は敢えて何も言わずニコニコ眺めていたと。


 でも結果的に良いアイテムは作れたし、錬金術レベルはぐんと伸びた。うん、結論として文句は全くない。


 むしろ私なら出来るって、信じてそのままやらせてくれたって事だよね。そう考えると先生の懐の深さに感動した。先生はやっぱりすごいな!


 そんなすごい先生が側に居てくれるうちに、疑問は全部聞いておこう。


「先生。使う素材はなるべく低コストのものを使用すれば、出来たアイテムも安価で売れますか?」

「ええ、そうですね。ですがあまりにも薄利多売だと、リオーネの身が持ちませんよ」

「確かに、一人で作れる量にも限りがありますね」


 百均みたいに、誰でも気軽に買えるアイテムは工場で同じものを大量生産して作られている。私一人でそれは到底無理な話だ。


「どうしたら、たくさんの人へ届けることが出来るでしょうか……」


 先生は私の前に一冊の本を置かれた。それは錬金術のレシピが書かれた本だった。


「この本のように、リオーネのレシピブックを作れば良いのですよ」

「私のレシピブック、ですか!?」

「多くの人に使って欲しいものは、作り手を増やす事で供給量が増えます。錬金術レベルが低いアイテムばかりを集めたレシピ集は、初級錬金術士達には大人気ですしね」

「さすが先生! オリジナル錬金術で頑張ってマイレシピを増やして、レシピ本を作ります!」


 便利道具の他にも、スイーツや飲み物のレシピ本を作ってもいいかもな。料理系の素材なら手に入れやすいし。


 作中でも初級錬金術士の頃はスイーツやスープ、飲み物ばっかり量産してて、料理ゲームしてる気分になったしな。


 最初は不味いものしか作れなかったのが、自分で調達した材料で量産するうちに、美味しいものが作れるようになっていった。


 錬金術は料理研究から始まるんじゃないかってくらい、錬金術士にとって料理系レシピは大事なものだった。折角なら優れた効果がありつつ、食べても美味しいものが理想だ!


「ええ、是非頑張ってください。君には様々なアイテムを生み出す才能があるので、とても楽しみです」


 よーし、やれる事からコツコツとやってみよう!


 まずはたくさんの水を溜め込めるじょうろを作ろう。出来れば錬金術レベル10以下に抑えたい。


 エトワールのカタログブックを眺めながら、なるべく低価格でボディに使えそうな素材を書き出していく。水を吸わずに、なるべく軽いものがいい。


 名前はそうだな、『快適じょうろ』にしよう。誰でも快適に使えるものになって欲しいから。


 先生の意見も参考にしながら、使う素材の候補が絞り実際に試す。あっさりするほど簡単に出来て、必要錬金レベルも10まで抑えることが出来た。


 ミニマムリングの必要錬金レベルが9なので、それより低くする事は無理らしいから、妥当なアイテムが完成したという事だろう。


『快適じょうろ』

品質:普通

特性:なし

性能:快適にたくさんの水を貯める事ができる

貯水量:300L


 貯水量がウォーターガンに比べるとかなり少ないけど、その分水の補充も特性効果をつけなくても短時間で出来るだろう。


 アイテムが完成した頃には、窓からオレンジ色の光が差し込んできていた。どうやらもう夕方になっていたらしい。


「リオーネ、一つ聞いておきたい事があるのですか……」


 帰り際に、先生が唐突に仰った。


「はい、何でしょう?」

「エルンスト君が探している銀蝶花は、本当に実在するのでしょうか?」


 この世界で銀蝶花は、絵本とかに出てくる幻の花だからな。実際にはないと思っている人がほとんどだ。


 でも実際は、その絵本通りに行動することで手に入れる事が出来る。


「銀蝶花は特定の場所には生えません。ある条件が揃った時に、奇跡的に姿を現す花なので……まさかエルンスト様は、もう旅立たれるのですか!?」

「いや、相談されたのです。どうしても見つけたいのだと。君に聞けば何か分かるかなと思いまして。よかったら銀蝶花について、知っている事を教えて頂けませんか?」


 銀蝶花の採取は正直、とても面倒だった。その条件を満たすのが、最初はすごーく難しいのだ。それさえ乗り越えれば、後はマジック花壇で育てることが出来たけど、育つのにも時間かかったんだよな。採取が満月の夜しか出来ないから。


「作中での銀蝶花は、闇雲に探し回っても見つかる花ではありませんでした。でも逆に条件を全て満たすことが出来れば、どこでも採取可能な花ではあります」

「その条件とは?」

「条件は三つです。一つ目は満月の夜であること。二つ目は、シルバーバタフリーが近くの花に留まっていること。そして三つ目は……」

「三つ目は……?」


 どうしよう、口に出すのが恥ずかしい。でもあの三つの条件が揃ってないと、銀蝶花は生まれない。


「愛し合う男女がそこでキスを交わすこと、です。その光景を見たシルバーバタフリーが、その二人を祝福した時に出る輝く鱗粉のかかった花が、銀蝶花に生まれ変わるんです」

「なるほど。確かにそれは、闇雲に探し回っても見つかりそうにありませんね。でも条件さえ揃えてしまえば、エルンスト君が旅立つ必要もないという事ですね?」

「そうなります」


 ちなみにその採取方法は、三冊の絵本を探すクエストをたらい回しにされてようやく知る事が出来る。

 満月の夜を待って、街中を駆けずり回って花のある場所でいちゃつくカップルを見つけて、シルバーバタフリーを誘導してと、かなり面倒だった。


 タイミングがずれると次の満月まで待たなきゃいけなくて、必ずセーブしてから挑んだな、あの採取クエスト。


「有意義な情報をありがとうございました」

「エルンスト様にお伝えするのですか?」

「そうですね。闇雲に飛び出して行かれるよりは、良いと思いますので。とはいえ、そのまま話すわけにもいきませんね。君に前世の記憶があるのを知っているのは、ルイス君だけでしょうし」


 エルは二十年近くずっと世界を旅して探し回ってたんだよね、銀蝶花を。今ならまだ、精霊族の少女シルフィーは病気にもなっていないだろう。


 というかシルフィーが病気になったのは、冒険中のエルの危険を身代わりで受けたせいでもある。受けた呪いが呪詛となって、彼女の体を少しずつ蝕んでいった。


 あれ、エルンスト様のお手伝いを今出来ればむしろ、誰も傷つかずに皆が幸せになれるのでは……?


 精霊の森は、強い魔法攻撃が出来る先生の力があれば通り抜けれるだろう。


 先生はジルベール様のお墓を作りに、精霊の森には行かれるわけだし。何なら墓参りしに毎年通われていたのかもしれないし。


 エルンスト様がずっと王子としてこの国に残ってくださったら……将来ウィルハーモニー王国があそこまで騎士不足に悩まされる事もないだろう。


 私の知っている未来とかなり変わってしまうけれど、今さらそんなの気にしたって意味がない。私が楽器クラッシャーな時点でおかしいわけだし。


 銀蝶花探しのお手伝い、やってみようかな!


「先生、よかったら私にお手伝いさせて頂けませんか? 銀蝶花の採取方法の記された絵本が、確か書斎にあったと思いますので探しておきます」


 お父様が色んな国の絵本を揃えてくれているからね。


「分かりました。エルンスト君には、リオーネが銀蝶花について詳しいとだけ伝えておいても大丈夫ですか?」

「はい! 絵本を元に説明します!」


 私に出来るのは採取方法を教えて、主人公の代わりにシルバーバタフリーをおびき寄せる『ハピネスパウダー』を作るくらいだけども。

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