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第六十八話 錬金術の価値

 コンコンとノックをしてお父様の執務室へ入る。


「もう来てくれたのかい? ゆっくり食べててよかったんだよ」

「しっかり食べてきたので、大丈夫です! それよりも机の上にあるその大量の手紙は……」

「全部、ウォーターガンの注文依頼だよ。ポストに入りきれない程投函されていたらしい。夜中のうちに、直接投函しに来たのだろうね……」


 そう言って、お父様が遠い目をしていた。

 飛脚便を使わず直接投函しに来たって、どれだけ急いでたんだろう。届けに来た従者の方々の苦労が目に浮かぶ。


「少し内容を確認させて頂いてもよろしいですか?」

「かまわないよ」


 色んな貴族の家門からウォーターガンを売ってくれと手紙が届いている。書いてある個数も希望金額もバラバラだった。


「私は錬金術について詳しくないからね。リオーネの作ったアイテムの価値を、正当に判断出来なくて困っていたんだ。これほど素晴らしいアイテムは、普通なら最低大金貨1枚はするだろう」


 大金貨1枚で1000万リル。えっ、原価は2万リルあれば材料費は揃うのに、そんな高額で売るの!?


 ちなみにこの世界での通貨の単位はリル。硬貨1枚当たりの価格としては


黄銅貨10リル

青銅貨100リル

白銅貨1000リル

小銀貨10000リル

大銀貨100000リル

小金貨1000000リル

大金貨10000000リル


 紙の紙幣はなくて、銅貨、銀貨、金貨の硬貨での支払いとなる。じゃらじゃらかさばって地味に荷物になるんだよね。


「お父様。ウォーターガンの原価は、雑貨屋で材料を買っても小銀貨2枚あれば事足ります。それをそんなに高額で売るのですか!?」

「リオーネ、この国には同じように材料と設備を用意したとして、君のようにウォーターガンを作り出せる者は居ない。それだけ特別な技術を、君は持っているのだよ。しかもこれは魔力燃料がなくても使えるアイテムだ。普通の魔道具よりも価値があるものだ」


 チェストの中に、先生にプレゼント用に作った時の普通品質のウォーターガンがいっぱいある。あれ1個、1000万リルで売ったら……お金持ち!


 遠いと思っていたフライングボードも買えるのでは……? って、目先の欲にとらわれてちゃだめだ。


「でもお父様、私はあのアイテムは貴族用に作ったのではありません。水やり作業や高所の掃除が楽になるようにと、実際に作業をする平民のために作ったアイテムです。その金額では本当に使って欲しい方の元には、届かないと思うのです」


 先生に武器を買いに連れていってもらった時、酒場で食べたパンケーキとミックスジュースは青銅貨でお釣りがきた。青銅貨は1枚100リルだから、普通の一回の食事にかかる金額はせいぜい黄銅貨5枚から8枚、50~80リルくらいということだ。


 ウォーターガンが1個で1000万リルなんて、普通の平民ではとてもじゃないが買えるわけがない……だからあの時、トム爺は家宝にしますって泣いて喜んでくれたんだろうか。


 そう考えると2万リルで売れるダークマターも、平民からするとかなり高額な石の塊なのかもしれない。錬金術の素材が高いのも、冒険者達が命がけでとってきてくれた素材だからなんだろう。


「確かにそうだね」

「お父様。今日はお昼からセシル先生がお見えになる日なので、金額の事は先生に相談してみてもいいですか?」

「是非そうしてもらえると助かるよ」


 私はもう少し、物価の価値を学んだ方がいいのかもしれない。このままでは、本当に使って欲しい人の元に私のアイテムは届かない。





「こんにちは! セシル先生……?」


 あれ、今日の先生はいつもの冒険者スタイルじゃない。


 髪を結わずにおろして、社交場に出るような、とてもキッチリとした格好をされている。


 先生の皇子様ルック初めて見た。これは男性でも思わず振り返ってしまうんじゃなかろうかってくらい、美しい……


「やぁ、リオーネ。元気にしていましたか?」

「はい! 先生はお変わりありませんか?」

「ええ、元気ですよ。少しメロディー城に寄っていたので、遅くなって申し訳ありません」


 メロディー城って、王城の事だよね。だから装いが違うのか。


「いえいえ! 先生が来てくださるだけで嬉しいです!」

「エルンスト君に聞きました。昨日は色々大変だったみたいですね」

「はい。まさかワイバーンが現れるなんて、思いもしませんでした」

「勇敢に戦ってくれたと、エルンスト君が誉めていましたよ」

「本当ですか?! それは嬉しいです!」

「でもそのせいで、結果的に楽器を弾けない事実を露見させてしまったと……聞きました」


 心配そうに眉間に皺を寄せて、先生が仰った。


「はい。でも私、後悔はしてません。だから大丈夫ですよ」


 余計な心配をかけたくなくて、笑顔で明るく言いきった。そんな私の姿を空元気だと思われたのか、よしよしと頭を撫でられてしまった。


「ご安心ください、リオーネ。エルンスト君に頼まれて、ジーク国王とエルレイン王妃には私から錬金術について詳しく説明をしてきました。君がどれほど類いまれなる才能を持っているかも共にね」

「え!? じゃあメロディー城に寄ってこられたのは……」

「君の素晴らしさと錬金術を理解してもらうためですよ」


 まさかの展開に頭がついていかない。エルンスト様が、セシル先生にそんな事を頼んでいたなんて。


「ウィルハーモニー王国では、高価な錬金アイテムを代々王家の家宝として大切にしています。将来的にリオーネはそれらのアイテムを作れるようになりますよと言ったら、とても驚いておられました」

「先生、あまり過大に伝えすぎるのは……」

「過大なんてとんでもない! それらのアイテムを作れるようになるのは、錬金術士の中でもほんの一握りにすぎません。最初に申し上げたでしょう? 君は金の卵だと」


 確かに、水見式で魔力の特性を調べた時に先生はそう仰った。


「もしウィルハーモニー王国でその価値を理解されず無下に踏み潰されようものなら、この国は君に相応しくないと私は思っています」

「せ、先生……?」


 熱く力説される先生に、私は戸惑いを感じていた。


「残念ながらきちんと理解してもらえたので、君を連れ去る作戦は失敗してしまいましたが」

「連れ去る……!?」

「昨夜、ロナルド卿に相談されました。もしこの国で過ごす事で、将来的にリオーネが辛い目に遭い自分達の力で守りきれなくなったその時は、君の価値をきちんと理解してくれる国で過ごさせてあげたいと」


 お父様、そこまで私の事を考えて先生に相談してくれていたんだ。


 音楽を重んじる国で、やっぱり何も演奏できない私は異端な存在なんだろうな。


「先生、私のために色々していただいてありがとうございます」

「私がやりたくてやったことですから、気にしなくて良いのですよ。もし何か困った事があったら、気軽に相談してくださいね」

「はい、ありがとうございます。先生、早速相談があるのですが……」


 立ち話もなんだし、先生用に作った特等席に案内して座ってもらった。


「これは気持ちの良いクッションですね。ほっと安らぐ感じがします」

「リラクゼーションクッションです!」

「リオーネが作ったのですか?」

「はい! 先生の疲れを少しでも癒せればと思いまして、現在色々改良中です」

「そうなのですね、ありがとうございます」


 お休み中に来てくださるんだから、少しでも疲れが取れるように努めてもバチは当たんないよね。


 レシピ『至福の一時辞典』に載ってたフローラルティーとマジカルクッキーをお出しして、私は今朝のお父様とのやり取りを先生に話した。


「そうですね。作成時に推奨錬金術レベルが50を越える錬金アイテムに関しては、市場へ売り出す際に適正取引価格を設定してもらう必要があります」

「え、そうなのですか!?」

「錬金術は誰でも行える秘術ではありません。その希少性を利用して極端に高価格で売り出したり、極端に低価格で売り出して品位を損ねる事がないよう、錬金術ギルドが適正価格の設定をしています。リオーネのウォーターガンは、推奨錬金術レベルが55ありましたので一度査定をしてもらいに行きましょう」



 善は急げということで、先生がリューネブルク王国にある錬金術ギルドに連れていってくれた。


「世界の神秘を解き明かせ! ようこそ錬金術ギルドへ。本日のご用件は何でしょうか?」


 錬金術ギルド。作中では最終盤に各属性の最高難易度アイテムの依頼を出してくる場所ってイメージしかなかった。賢者の石だけ納品出来なかったんだよね、悔しい!


「このアイテムの査定をお願いします」

「かしこまりました。こちらに必要事項の記入をお願いします」


 必要事項を書いて渡すと、「こちらを持って少々お待ちください」と番号札をもらった。


 ゲームの中だと値段は勝手に決まっていたけど、裏でそう言うやり取りが行われていたのか。私のウォーターガンの適正価格って、いくらなんだろう?


 わくわくしながら結果を待つこと数十分。


「お待たせしました。リオーネ様の『ウォーターガン』の適正価格は粗悪品で1000万リル。高級品で2000万リル。付与された特性効果次第では最高3000万リルとなります。こちらが鑑定証になりますので、大事に保管されておいてくださいね」


 お父様の予想が当たってた事に驚いた。


「そんなにするんですか!?」

「錬金アイテムは、魔道具のように魔力燃料を使うことなく誰でも使用できます。その分、便利道具に分類されるアイテムの価格は高くなるんですよ。よかったらこちらのガイドブックをお渡ししておきますので読まれてくださいね」

「はい、ありがとうございます!」


 錬金アイテムの価格ガイドブックなる本をもらった。


「リオーネ様、よろしければ少しギルド長とお話を……」

「急いでますので結構です。リオーネ、行きますよ」


 有無を言わせぬように、先生が断った。どうされたのだろう?


「はい、先生」

「またのお越しをお待ちしております」


 錬金術ギルドを出てから先生がほっと一息ついた。


「いいですか、リオーネ。悪い大人に付いていってはいけませんからね?」


 何故、突然そんな事を仰られるのか……


「錬金術ギルドのギルド長って、悪い方なんですか?」

「少々お金にがめつい方なので、君のような将来有望な若者を見つけると囲い込もうとする悪い癖があるのです」

「もしかして、昔何かあったのですか?」

「学生時代にそうして囲い込まれた知人達が、何人か潰されました」


 潰された!?


「誰のために、何のためにそのアイテムを作りたいのか。それがお金のためになった瞬間、お金しか想像出来なくなって、錬金術自体が成功しなくなってしまうのです。結局彼等は卒業することなく、途中で学園を去りました」

「そんなことが……」


 やはり欲にとらわれすぎると、ろくな事にならないんだな。


「リオーネが自らその道に行く事はないと思いますが、君はまだ幼い。本人の意思とは関係なく、悪い大人に拐われそのような環境に閉じ込められでもしたら……と、ロナルド卿はその事をとても危惧しておられます」


 確かに安い原価でそれだけ高額に売れるアイテムが作れると知られれば、それだけ危険が伴う。


 ゲームだと主人公達は道中現れた悪党を当たり前のように返り討ちにして、素材が手に入ったラッキーで終わってた。でも現実だと常に命の危機と隣り合わせなわけで、怖い。


 お父様や先生が過保護になる理由がよく分かった気がした。

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[一言] 作品の雰囲気にあってないことを書きますが2tの水を楽々運べたら軍事的には凄い革新に……
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