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第六十一話 最高のティータイム

「リィ、リヴァイ! ここに居たんだね。何でこんな隅っこに居るの?」


 王妃様から物理的に距離を取ったからだなんて、言えない。


「ルイス、抽選何番だったんだ?」

「えっとね、15番」

「終盤だな」

「そうなんだ。しばらく暇だから一緒にお茶しよう」

「うん、もちろん!」

「あっちにスイーツがいっぱいあったから取りに行こう」

「うん、行こう!」


 美しい庭園にずらりと並ぶ美味しそうなスイーツの数々。


 あぁ、久しぶりのパティシエが作った美味しいスイーツ! これまでずっと錬金術で作ったスイーツ食べてたから、これは嬉しい!


 チェリーパイ、マカロン、ティラミスにプリンロール、ザッハトルテにいちごのショートケーキ、フランボワーズのムースにプチシューも美味しそう!


 甘い匂いに誘われて本能のまま乗せていたら、気がつけば皿の上はいっぱいになっていた。


 しまった! こんなに食べられない!


「ちょっと、リィ。何でスイーツでケーキ作ってるの……!」

「それ、一人で全部食べるのか?」


 ルイスには爆笑され、リヴァイには目を丸くして尋ねられた。


「だって、どれも美味しそうだったから……でも流石に全部は食べられないよ。ルイス、助けて……」

「いいよ、食べるの手伝ってあげる。僕、まだ選んでないし」

「俺も手伝おう。二人でもキツイだろ……それ」

「リヴァイもありがとうございます」

「重いだろう? 俺が運ぼう」


 さりげなくそう言って、リヴァイがスイーツてんこもりの大皿を持ってくれた。優しい!


 席に着くと飲み物の希望を聞かれて、私はカモミールティ、ルイスはレモンティ、リヴァイはアールグレイのアイスティーを頼んだ。


「リヴァイ、冷たい飲み物も飲めるようになったのですね」

「ああ、もう水は怖くない」

「そうなの!? あんなに怯えてたのに!?」

「残念だったな、ルイスよ。俺は大人になったのだ」

「へーどうやって克服したの?」

「知りたいか?」

「うん、知りたい!」

「それはだな……」


 え、まさかリヴァイ、バルト海岸での事を話しちゃうの!? 恥ずかしいからやめてって心の中で念じていたら、後ろから声をかけられた。


「あの、良かったら同席してもいいですか?」


 振り返ると、赤髪の令嬢が立っていた。


「私も! 一緒にいいですか?」


 横から現れた緑髪の令嬢にも尋ねられた。その際、ふわっと優しい花の良い香りがした。


 この子達、リヴァイの誕生日パーティーでルイスのフリしている時に囲まれて腕を掴まれた子達だ。そしてゲーム中でリオーネの取り巻きをしていた子達でもある。


 この二人と仲良くなれば、ルイスが追いかけ回される事もなくなるかもしれない。


「ええ、是非ご一緒しましょう。リヴァイ、良いですか?」

「ああ、リオーネの好きなようにするといい」


 何で了承するんだよーって、横からルイスの恨めしそうな視線が……ごめんなさい、お兄様。腕を両方から引っ張られる恐怖を無くすためだよ!


「ありがとうございます、リオーネ様!」

「ご一緒出来て光栄です!」


 嬉しそうに二人は席に着いた。


「実は私、リオーネ様と一度お話したかったんです! フレイア・ルーチェ・エルブロッサムと申します。是非フレイアとお呼びください」

「私は、リーファ・ロア・グリラバーツと申します。私の事はリーファとお呼びくださいね」


 赤髪の子がエルブロッサム伯爵家のフレイアさん、緑髪の子がグリラバーツ伯爵家のリーファさんね、よし覚えた!


「リオーネ・ルシフェン・レイフォードです。フレイア様、リーファ様、お会いできて光栄です」


 授業で習ったことを思い出せ。初対面の人と仲良くなる秘訣はまず誉めること。


「私も是非お話したいと思っていたんです。フレイア様のお付けになっている髪飾り、とても可愛いくて毎回素敵だなと思っていたんです。それにリーファ様のお付けになっている香水も、とても良い香りがしてどこでお求めになったのか是非教えて欲しいなって思っていたんです」

「嬉しいです! 実はこの髪飾り、私がデザインしたものを作ってもらったもので……」

「え、フレイア様がデザインされたのですか!? とても素敵です! 皆さんもそう思いませんか?」

「そうだな。独創的なデザインだが、赤い髪に生えてよく似合っている」

「お店に並んでても目を引くくらい、良くできているね」

「あ、ありがとうございます……!」


 リヴァイとルイスに誉められて、フレイア様はとても嬉しそう!


「実は私も、フレイア様の髪飾り……いつも素敵だなって思ってました」

「え、リーファ様まで!?」


 ああ、そっか。この二人、別々の令嬢の取り巻きを引き連れて対立していたわね。そういえば。


「そ、それを言うなら私だって、リーファ様の香水、毎回とても良い香りがするなって思ってたんですのよ!」


 フレイア様が照れ臭そうに吐露した。


「実は私、調香が趣味で自分で調合してるんです」

「え、ではその香水は、リーファ様の手作りなのですか!?」


 驚いた顔でフレイア様が聞き返した。


「はい。お花やハーブから抽出された精油をブレンドして、自分好みにブレンドしているんです」


 これは驚いた。てっきり皆音楽の事にしか興味ないんだと思ってたけど、話してみるとそれぞれ違った趣味を持っていたんだね。しかも、そのレベルも高い!


「すごいです、リーファ様!」


 私の口から思わず漏れた言葉だった。


「グリラバーツ伯爵令嬢は、優れた感性をお持ちのようだな」

「確かに、とても素晴らしい才能だね」


 リヴァイとルイスも、純粋に誉めている。


「ありがとうございます……! いつかは自分で、精油から作ってみたいと思っていて……」


 話してみるとフレイア様もリーファ様もとても良い子で、ルイスの苦手意識も若干薄らいだように見える。フレイア様とリーファ様の間にあった溝もなくなり、趣味の話で盛り上がり、皆で楽しい時間を過ごした。

 素敵な音楽と美味しいお茶とスイーツに囲まれて楽しくお喋り、最高の一時だった。




「そろそろ僕の番みたいだ。準備してくるね」


 演奏のためにルイスが席を外した。


「次の演奏者は、レイフォード公爵子息のルイス・ローフェン・レイフォード様です。今回は何と特別に! 王妃陛下のご要望により、レイフォード公爵令嬢のリオーネ・ルシフェン・レイフォード様とヴァイオリン二重奏を披露してもらえるそうです! 奇跡の双子の演奏を、どうぞお楽しみ下さい」


 そんなアナウンスが流れて、会場にどよめきが起こる。


「あのババア……やってくれたな」


 今、ババアって言った!?

 リヴァイから普段聞いたこともないような言葉が飛び出して、少し驚いた。


「さぁ、リオーネ様も壇上へお上がりください。ヴァイオリンはこちらで用意させて頂いております」


 もうこうなってしまったら、逃げられない。席を立ち上がって壇上へ行こうとしたら、リヴァイに手を掴まれた。


「行く必要はない。俺に任せておけ」


 席に座るよう促され、私の代わりにリヴァイが壇上に立った。


「リオーネ嬢は今、完璧なコンディションではありません。ヴァイオリンはとても繊細な楽器です。使いなれない楽器に突然の舞台では、皆さんの期待する最高の演奏は難しいでしょう。こんな形で私は、大切な婚約者を衆目にさらしたくはありません。なので今日は代わりに私が、レイフォード公爵子息との二重奏をご覧にいれてみせましょう」


 しんと静まりかえった会場に再びどよめきが起こる。


「まぁ、リヴァイド殿下の演奏がお聞きできるなんて!」

「次代を担う若き二人の逸材の二重奏か、これはこれで楽しみだ!」


 会場は肯定的な拍手に包まれた。有無を言わせず会場を沸かせてリードした後、リヴァイは壇上から王妃様へ向かって声をかけた。


「よろしいですよね? 母上」

「ええ、仕方ありませんわね」


 そう答えつつも、遠目に見た王妃様は悔しそうに壇上を睨んでいた。


「ルイス、俺が渡した新譜弾けるか?」

「もちろん、任せて」

「出だしはフォルティッシモ」

「奇遇だね。僕も今、そんな気分だったよ」

「ふっ、頼もしいな。観客の心を一気に掴むぞ」


 二人が定位置につき、目配せをして演奏が始まった。


 凛とした力強いルイスのヴァイオリンの音色に、リヴァイがまるで喧嘩をしかけるように伴奏をつける。型破りな伴奏だけど、逆にそれが主役であるルイスのヴァイオリンの音色をより引き立てるメリハリとなって、上手く調和した二人の演奏に一気に引き込まれた。


 お互いの事を知り尽くしている二人にしか出来ない、奇跡の演奏だった。懐かしい旋律に思わず心が震える。ん、懐かしい……?


 え、ちょっと待って!

 何でこの曲を二人が弾けるの!?


 この世に存在するはずがない音楽――だってこれ、前世で私が好きだった曲「ラ・カンパネラ」じゃないの!

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