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第五十三話 十年後の誘い

 ウォーターガンと一緒に、赤いリボンで結んである巻物がついている。


「先生、この巻物は何ですか?」

「それは世界で初めて作られた、レシピを記した巻物です。オリジナル錬金アイテムを作ると手に入ります。中を開けてみるといいですよ」


 リボンを解いて確認すると、ウォーターガンのイラストと一緒に調合するレシピや属性、付与可能な特性効果など、事細かく書いてあった。そして右下に書いてある文字を見て私は感動した!


【レシピ考案者:リオーネ・ルシフェン・レイフォード】


 レシピに私の名前が刻んである。本当に自分が錬金術士になれたんだって実感して、胸の奥がじんわり温かくなった。


「推奨錬金レベルが55ありますね」


 レシピを見ながら先生が仰った。


「えっ、そんなに!? 30も足りてなかったんですね。どうりで中々完成しなかったわけです」

「きっと今は、リオーネの錬金術レベルも上がっているはずですよ」


 ステータスを確認してみると、いつの間にか錬金術レベルが40まで上がっていた。


「この前まで25だったのに、40になってます!」

「難しいオリジナル錬金術に成功すると、レベルの上がりも大きいですからね。ウォーターガンの試運転は明日やるとして、今日はもう遅いので休みましょう」

「はい!」


 アトリエを出ると、満天の星空が広がっていた。


「もうすっかり夜が更けてしまいましたね」

「先生、こんな時間まですみません。今日もありがとうございました」

「いえいえ。こうしてのんびり過ごせるのも、残りわずかですからね」


 はっ! そうだ、完成したから先生はもうカトレット皇国に帰ってしまわれるんだ。


「君の前世のゲームの世界では約十年後、私は初めて暗黒大陸を制覇した伝説の錬金術師として有名になるのでしたよね?」

「はい、そうです!」

「リオーネ。十年後、私と共に暗黒大陸へ行きませんか?」

「え、私がですか!?」


 十年後、私は十八歳。

 ちょうどローゼンシュトルツ学園を卒業する年で、リヴァイとの賭けの期限だ。


「目標があれば、より頑張れるかなと思ったのです。時間はまだたくさんありますので、よかったら考えておいて下さい」

「はい!」


 自室に戻った後、ベッドにぽすっと寝っ転がった。メアリーに見られたら、お行儀が悪いって怒られてしまうけど少しくらいいいよね。


 十年後に暗黒大陸、以前の私なら多分即答で行きたいって答えてた。


 でも先生に尋ねられて一番に頭に浮かんだのは、リヴァイとの賭けの期限だった。


 そんなギリギリになって、先生と暗黒大陸に行きたいからやっぱり婚約を破棄してくれなんて、言えない。言えるわけない。


 それに最近リヴァイの事を考えると、胸が苦しくなる。バルト海岸の一件以来、どうやら私はリヴァイの事を好きになってしまったようだ。


 早々に賭けに負けるなんて、なんか無性に悔しい。悔しいけど、私を助けに来てくれたリヴァイが本当に格好よかったんだから仕方ない。


 肩を震わせて必死に涙を堪えようとするあの小さな背中が、とても愛おしく感じた。出来ることなら、これからもリヴァイの傍に居たいと思う。


 でもその場合、暗黒大陸なんて絶対行かせてもらえないだろう。危険だし、立場的にも難しい。


 賢者の石を作れる絶好の機会が……!

 それに先生と一緒に暗黒大陸に行けるチャンスなんて、もうないかもしれない。


「うぅ……あぁ! どうしたらいいの!」


 ベッドの上で悶えていると、「リィ、急に奇声をあげてどうしたの? 大丈夫?」とルイスが心配そうに様子を見に来た。


「あ、ごめん。うるさかった……よね?」

「それはいいんだけど、また何か悩んでるみたいだね。どうしたの?」


 そうだ、賢いお兄様の知恵を借りよう。


「相談に乗ってくれる?」

「うん、もちろんだよ」

「座って話そう」


 ベッドでゴロゴロしながら話すのは流石に行儀悪いから、私もソファーに移動した。


「実は先生にね、『十年後、一緒に暗黒大陸に行きませんか?』って誘われたの」

「あの危険な所に!?」


 全てが謎に包まれているから、暗黒大陸って呼ばれてるんだっけ確か。


「前世のゲームの中で先生は十年後、初めてその暗黒大陸を攻略した伝説の錬金術師って有名になるの。暗黒大陸には、賢者の石っていう最高峰の錬金アイテムを作る材料があるんだけど、その賢者の石を使えば、私の楽器クラッシャースキルも治せる可能性があって……」

「リィは賢者の石を作るために、そこへ行きたいんだね?」

「いつかは行きたいと思ってる。でも私はリヴァイと婚約してるでしょ? 十年後、その状態では流石に行けないじゃない?」

「そうだね。その頃にはリヴァイとの結婚も控えているだろうし、難しいだろうね」

「だからどうしたらいいのかなって、悩んでたの」

「リィは、リヴァイの事好き?」

「…………うん」


 恥ずかしくて、声が小さくなった。


「それなら答えは簡単だよ」

「どうしたらいいの?」

「リヴァイに相談したらいいんだよ」


 本人に直接!?


「リヴァイは君の事が大好きだからね。リィが本気で叶えたい夢は、決して止めたりしないと思う。どうすればそれを叶える事が出来るか、きっと一緒に悩んで考えてくれるはずだよ」

「確かに、そうだね。でも……」


 リヴァイはすごくイイ人だ。一緒になって考えてくれるだろう。でもここで問題が発生する。


 リヴァイの付けている真偽の腕輪だ!

 誤魔化しながら話すと、嘘がバレる。


 全てを綺麗にオブラートに包みつつ上手く説明しきる自信はない。


 必然的に正直に話すしかなくなって、抱いている気持ちも、前世の記憶の事も話さざるを得なくなるだろう。


 十七年分の前世の記憶があるなんて知ったら、リヴァイはどう思うだろう。真偽の腕輪をつけてるから、嘘を言ってないと証明は出来る。


 だからこそ、嫌でも重たい現実に突きつけられてしまう。


 恋心を寄せていた八歳のリオーネの中に、自分より倍以上精神年齢が高い異物が混じってるって現実をはたして、受け止めてくれるのだろうか……


「前世の記憶があるなんて言ったら、拒絶されたり、しないかな……」

「何で?」

「だって、自分より倍以上精神年齢の高い異物が混じってるんだよ?!」

「んー、それも含めてリィじゃない。いまさら? それにこうして話してても、別に年の差なんて感じないよ?」

「それは私が子供っぽいって言いたいのかな?」

「嫌なら僕が大人っぽいっていう事にしといて?」

「もう! 冗談言ってないで真面目に考えてよ、お兄様!」

「あはは、ごめんごめん。リィが可愛い事で悩んでるなって思ったから」

「もう、何でも可愛いって言葉じゃ誤魔化されないからね!」


 可愛いって誉めたら何でも誤魔化せると思ってるの、お兄様の悪い癖だわ!

 将来色んな女の子にそんな事言ってたら、夜道で後ろから背中を刺されないか少し心配になってきた。


 そんな私の心配をよそにひとしきり笑った後、ルイスは真面目な顔をして口を開いた。


「だってこれまでリヴァイと絆を紡いできたのは、今のリィでしょ? そんな君をリヴァイは好きになった。それが答えだと僕は思うよ」

「それはそうだけど……」

「まぁもし真実を話してリヴァイが君を拒絶するなら、その時は絶交する!」

「え、絶交!? それはダメだよ!」

「いいや、絶交だ! もう二重奏してあげない! リィを泣かせる奴なんて嫌いだ!」

「ま、まだ泣いてないよ!」


 大人びて見えても、やっぱりルイスもまだ八歳なのねと思った瞬間だった。


「だってステージ上であんな告白してリィの心を弄んでおいて! 正直僕はあの時、気持ち悪くて吐きそうになったよ。必死に堪えてたよ!」

「私のために我慢してくれたんだね。ありがとう、ルイス」


 でもこうして親身になって相談に乗ってくれる優しいお兄様が、私は大好きだなって改めて思った。

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