第四十六話 転送装置が便利すぎる
リヴァイが帰った後、もらった大量の風のコアをありがたく倉庫に収納した。
一度モンスターに戻してしまえば、鮮度が落ちたり劣化する事はないから、買ったアイテムは倉庫でモンスター化した方が良い品質を保てる。
「リオーネ、転送装置はここで大丈夫ですか?」
「あ、設置してくださったんですね! ありがとうございます!」
「元の大きさに戻すと、結構重たいですからね。それに、リオーネが誤って入って転送されても困りますからね」
「え、人間も転送出来るんですか!?」
「このサークル内におさまるなら、理論的には可能かと思います。ただ、試した事はないので入ってはいけませんよ?」
目の前にドーンとそびえ立つ円柱形の転送装置。サイズ的には、直径1メートル、高さ1.5メートルくらい。大きめのパカッと開ける取出口があって、そこからアイテムの出し入れが出来る。
「はい、気を付けます。それにしてもこんなに大きな物も簡単に運べるなんて、ミニマムリングって本当に便利ですよね」
ゲームの中では存在薄かったけど、現実だと大活躍だ。鞄に何個か仕込んでおかないと落ち着かないくらい、私の中では持ち運び必須アイテムになってる。
「冒険の必需品と言っても過言ではありませんからね」
外出時でも小さい鞄で事足りるのは、間違いなくミニマムリング様のおかげだ。それを今日私は55個もダークマターにしてしまった……まぁ、高額で売れたからよしとしよう。
「先生、この転送装置はどうやって使うのですか?」
先生が時計を確認する。
「まだ営業してますね、試しに使ってみましょうか。ここにボタンがあるでしょう?」
側面に六個のボタンがある。
購入、売却、入金、出金、残高確認、依頼。
「え、お金預けたりも出来るんですか!?」
「ええ、そうです。基本的に依頼報酬や売却したアイテムの代金は、お店の方で管理されています。購入したアイテムの代金は自動で差し引かれ、足りない分は現金を転送して支払いします。逆に手元にお金を残しておきたい場合は、送られてくる専用の紙に、希望出金額を記入して転送すると、転送されてきますよ」
「この装置に、そんなにたくさん機能があったんですか!」
ATM機能までついているだと!?
確かに作中でも、お金を預けておく機能はあった。預けたお金からアイテムを買うと、一割引で買えたから地味にお得だったんだよね。
でもそれをこうして遠距離で出来るっていうのすごい便利! 最初にリース料を払うだけの価値は大いにある。
「ええ。使い方は覚えれば簡単です。まず始めに、この側面から魔力燃料を補充します。直接魔力を込めても良いですし、魔石でも、ダークマターでも構いません」
「ここにダークマター使えるんですか?」
「ダークマターは魔力の塊ですからね。魔道具の使用にはとても役立つのです。リオーネが作ったものは五属性全ての魔力が込められていますから、何の魔道具にも使えますし重宝されますよ」
ダークマターが高値で買い取ってもらえるのは、そういう理由があったんだ。
「魔力の補充が済んだら、この赤いボタンを押して起動します」
いかにもな電源ボタンがある。押してみると、ランプが五つ点灯した。
「そのランプは魔力燃料の残量を示しています。残り一個になったら補充するようにしましょう」
「はい、分かりました!」
その時、シュンっと何かが転送されてきた。
「販売アイテムのカタログですね。現在販売可能な物が載っています。マジックブックとなっているので、在庫の変動と同時に随時更新されますよ」
「在庫の変動まで分かるんですか!?」
「ええ、ご覧ください」
パラパラとページをめくると、載っている素材の種類やアイテムも多い。在庫数まで細かに載ってる、すごい技術だ。
あ、フライングボードがある!
値段は……5000万
高くて買えない。
転送バッグもある!
値段は……3000万
高くて買えない。
いやでも、ダークマターが一個二万で売れたから、コツコツ貯めれば買えるのでは? 買うのと、自分で作るの、はたしてどっちが早いだろうか。
でも現状は、外に自由に行けないから急いで用意する必要もない。あせる必要はないよね。
「先生、このカードは何でしょう?」
カタログの最後に黒いカードが挟まっていた。
「それはリオーネの会員証です。マジックカードになっていまして、他人のなりすましを防ぐために、取引の同意の可否はその会員証を通して行われます。登録した魔力にしか反応しないので、本人以外は扱えません」
「そうなんですね」
「何か購入したい時は専用の注文書に記入して、代金と一緒に転送して同意の許可をすれば三十分以内に品物がきます。売却したい時はそのままアイテムを転送すれば、見積り価格を教えてくれます。会員証から同意すればそのまま売却出来ますし、同意しなければ転送したアイテムが返ってきます」
「お店に行かずに売買出来るって、すごく便利ですね」
前世のネット注文より便利かもしれない。
「その他にも、依頼の受付や納品も出来ます。今度は『依頼』ボタンを押してみて下さい」
「分かりました」
先生の指示にしたがって『依頼』ボタンを押す。またもや本が送られてきた。
表紙には『初級依頼本』と書かれており、私の名前も刻んである。中を確認すると様々な依頼が記されていた。
試しにアナライズしてみると「マジックブック(リオーネ専用)」と出てきた。効能は離れた相手と意志疎通を図る事が出来る魔法の本と書かれている。
受けたい依頼にサインをしてそのページが黄色くなれば依頼受付完了。
期限が三日以内に迫ってくるとページが赤くなる。
白紙のページは他の人が既に依頼を受けているため受付出来ないもの。新たな依頼が来たら自動的に書き込まれる。
説明にそう書いてあったけど、すごい本だってのは良く分かった。マジックブックか、後でレシピを調べてみよう。
遠くの人と簡単に意志疎通出来るなら、リヴァイとルイスにプレゼントしたら喜んでくれるかもしれない。遠距離版交換ノート!
「それはリオーネ専用の依頼本です。君専用に、依頼の確認と受付がしやすいように設計してあります。その中から、達成できそうな依頼はありますか?」
ページをめくって確認していくと、『求:りんごのケーキ5個 報酬:2500リル』という依頼を見つけた。
「先生、このりんごのケーキなら倉庫にまだたくさんあります」
「では、試しにそれを受けてみましょう。ページの右下にサイン欄があります。記入してそのページが黄色くなれば受付成功です」
言われた通りに名前を書いたら、ページが黄色くなった。
「では、今度は実際に納品してみましょう。りんごのケーキを五個、転送装置の中にセットして『依頼』ボタンを押すと完了です」
「分かりました」
倉庫から五個、りんごのケーキを取り出して転送装置に置いた。取出口の扉を閉めて『依頼』ボタンを押す。
シュンとりんごのケーキが転送され、マジックブックに書かれた受けた依頼ページに『Complete!』マークがついた。本を閉じた時に外枠だけ黒くなってるから、一目で完了した依頼だって分かる。
「その依頼本を全部コンプリート出来たら、冒険者としての評判が上がります。それに合わせて、依頼の難易度も上がっていきますよ」
「そうなのですね。ちなみに先生は今、どれくらいの難易度の依頼を?」
「私は今、『超級』ですね」
ですよね。流石だ。
「こまめに依頼をこなしながら、貯まったお金で素材を購入していけば、アトリエから出なくても錬金術に励めます。古属性のレベル上げのように数をこなしたい場合は、そこまで品質にこだわる必要はありませんからね」
「確かにそうですね。そう考えると、この転送装置便利すぎませんか?」
いやむしろ、この財力チートなアトリエに設置された事でその便利さが際立っている。
だって戦闘訓練積みたい時は、素材をモンスターにすればいい。錬金術レベルを上げたい時は、必要な素材を購入して作りまくればいい。作ったアイテムは依頼で納品すればお金も稼げるから、稼いだお金でまた素材を買うことが出来る。
レベルを上げるだけなら、このアトリエ内で全てが完結してしまう。
「ただ高品質のアイテムを作りたい場合は、やはり自分で集めてくる必要はあります。雑貨屋においてある素材は普通の素材ばかりですからね。たまに掘り出し物でレア素材が売りに出されたりもしますが、数も少ないしすぐに売りきれてしまいます」
「ですよね。お父様に外出許可をもらえるくらい強くなったら、私も頑張って集めに行きたいです」
そのためにも今は、子供のうちにコツコツとレベル上げしながら、頑張って冒険資金を貯めよう。
エトワールの閉店時間ギリギリまで依頼をこなしながら、作りすぎて倉庫を圧迫していたアイテムを整理した。
その結果、依頼報酬で1万5000リル稼げた。ダークマターの売却費の残り100万リルも入金して、所持金額が101万5000リルになった。
明日、この資金でウォーターガンに使う素材を買い足して、またオリジナル錬金術に挑戦しよう。