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第三十九話 いつかは来ると分かっていても……

 出来れば片手で持てる大きさがいい。

 なおかつ手によく馴染むような形。

 中に水を入れて発射する。

 その時、私の中にあるもの浮かんだ。


 ささっとイラストを書いてみる。

 出来上がったのは、可愛いあひるの水鉄砲。

 下側のお腹から水を入れて、くちばしから発射させるのはどうだろうか。子供に見せたら大興奮間違いなしだ!


 あれ、でも私が作ろうとしてるのは子供向けの玩具じゃない。トム爺がこれで水やりしてたら……可愛い、可愛いんだけど、公爵家としての威厳を損ないそうな気がした。


 タコ、イルカ、恐竜……生き物シリーズから離れたが良いのだろうか。

 それなら、船、車、飛行機……この世界にあるの、船ぐらいだよな。というか、乗り物の形は手にフィットしないから却下だ。


 だめだ、もう少し大人向けの形にしよう。

 そうして試行錯誤して完成したのは、ウォーターガン。結局ぐるっと一回りして、シンプルな水鉄砲の形に落ち着いた。出来れば残りの水の量が見えるように、水を貯めるタンク部分は目盛付きで半透明だといいな。


 何回もトリガーを引くのは大変だから、そこがオンオフスイッチみたいになると理想的。先端に回したら水の出方を変更できるパーツを付けて、トリガーを引くと自動で水が出るように風を使って設計出来ないかな。


 そうして試行錯誤しながら設計図のイメージを描いていると、外で風を切るような音が聞こえた。どうやらセシル先生がお帰りになったようだ。


「リオーネ、まだアトリエに居たのですね」

「おかえりなさい、セシル先生」

「ただいま戻りました。帰りに少し素材も集めて来たので、倉庫に保管しておきますね」

「いつもありがとうございます!」


 私も外に素材集めに行きたいな。倉庫でコツコツ訓練を積んで、戦闘レベルは30まで上がった。しかし現実として、見た目まだ八歳の貴族令嬢が一人でお出掛けを許してもらう事は出来なかった。というか、貴族令嬢である限り一人で外出なんて出来ないんじゃなかろうか。

 世知辛い世の中だ。前世だったら初めてのおつかいくらいは出来たのに!


 そろそろ真面目に、用心棒を探した方がいいのかもしれない。少し聞こえが悪いから、両親の前では護衛と言ったがいいかな、うん。


「帰ってきて『おかえり』って笑顔で迎えてもらえると、本当に幸せですね」


 振り返った先生が、唐突にそんな事を言った。あれ、なんだか先生の様子がおかしい。うまく言えないけど、どことなく寂しそうに見えた。


「何か、あったんですか?」

「そろそろ戻ってこないかと父上に言われてしまいまして。リオーネのオリジナル錬金術の成功を見届けたら、カトレット皇国へ帰国しようと思っています」


 いつかは、そんな日が来るのは分かっていた。でもそれが、こんなに早いなんて思いもしてなかった。

 このアトリエから、セシル先生が居なくなる。想像したら……あれ、おかしいな。目から涙が……


「……リオーネ?」

「す、すみません! 想像したら、何故かとまらなくて!」

「こちらを使って下さい」


 先生がハンカチを差し出してくれた。


「すみませんっ、ありがとうございます」


 ハンカチで涙を必死に拭っていると、先生が口を開いた。


「寂しい、ですか?」

「それはすごく、寂しいです。でもセシル先生はカトレット皇国の皇子様で、いつまでも私の先生をしてるわけにも、いきませんよね。分かってます、分かってるんですが、先生と過ごした日々が本当に楽しかったから……」


 楽器が弾けなくて沈んでた毎日が嘘のように、楽しくなった。先生は私に色んな事を教えてくれた。眠る前に明日は何が出来るようになるかなって想像すると、とてもワクワクした。その日々が、終わってしまう。心が締め付けられるように苦しかった。


「私も楽しかったですよ。君に出会えてよかった。心からそう思っています。君がリヴァイド君と婚約していなかったら、連れて帰りたいくらいでしたよ」


 先生が、私の頭を優しく撫でながら言った。


「…………え?!」


 連れて帰りたい?

 今のは何?

 聞き間違い?


「すみません、今のは失言でしたね。どうか忘れて下さい。素材、片付けてきますね」

「は、はい!」


 去ってゆく先生の耳が、心なしか赤かった。

 どういう意味で、先生はそんな事を言ったの!?


 結局戻ってきた先生はいつも通りの先生で、それ以上さっきの事については触れなかった。


 先生の言葉がずっと気になって、部屋に戻っても何だか落ち着かなかった。


 伝説の錬金術師

 セシル・イェガー

 カトレット皇国の第一皇子

 セシリウス・マルメナーデ・カトレット


 そういえば、ラストダンジョン前に立ち寄る最後の街、花の都と名高いカトレット皇国の皇族一家の中に、一人だけ目立つ金髪の女性が居たな。


 勝ち気な性格の女性で「旦那が中々帰って来ない」ってぼやきながらも「あの人が好きだった花を摘んできて」と超難易度の高いダンジョンの最奥にしかない花を指定してくるツンデレの顧客キャラ。いつでも旦那が帰ってきていいようにって、部屋にその花を飾ってる彼女の名前は確か……リから始まる……り、り、リオーネ……えっ、私?!


 悪役令嬢のリオーネは、ファンディスクの『夢色セレナーデ』から登場したキャラだとばかり思っていた。けれどもよくよくそのモブキャラの言動を思い出してみると、「実は私には双子の兄が居るのよ」とか、部屋にヴァイオリンが飾ってあって調べると、「ええ、ヴァイオリンは得意よ」とか話してた。思い返せば返すほど、端々に散りばめられた運営の遊び心があった事に気付く。


 つまり要約すると、悪役令嬢リオーネは『夢色セレナーデ』でローゼンシュトルツ学園を卒業した後、カトレット皇国の皇子へ嫁いだという事なのだろう。


 しかも、放浪癖のある皇子なんて伝説の錬金術師であるセシル・イェガーぐらいだ。


 ゲームの中のリオーネは、セシル先生と結婚していた……どんな経緯で?! 馴れ初めは?! あの伝説の錬金術師と何があったの!?


 私が気付いてなかっただけで、伝説の錬金術師の情報はそうして、色んな所に散りばめられていたのかもしれない。よりにもよって、何で今頃思い出すの!


 伏線を中途半端に回収してしまったせいか、真相が気になってその日はよく眠れなかった。

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