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第三十四話 互いに譲れない思いがあるのなら、妥協案を提案します

「兄上、貴方は盗賊に攫われたのです。彼等は親切で保護したわけではなく、金目の物が目的なんですよ」

「それは誤解だリヴァイド。別に俺は何も盗られてはないぞ? ここで模擬戦を楽しんで、彼等に頼まれて稽古をつけていただけにすぎない」



 さすがは安定の力馬鹿……じゃなかった! すごいな、エルンスト様! その有り余る力で難なく返り討ちにしたんだろうな……



「お頭! はやくその男を開放して下さい。匿うのは危険すぎます!」



 その時、私達を案内していた盗賊達が、部屋の中に居る一番がたいの良い男に駆け寄った。どうやらこの男が盗賊団のリーダーのようだ。



「お前等も加われ。この方の強さは本物だ。この方に剣を習えば俺達はもっと強くなれる!」

「お、おかしら?!」



 困惑したような声を上げつつも、盗賊達はその命に従い隊列の一番後ろに並んだ。



「すみません、師匠……確かに最初はその少年の言うとおり、あんたを騙そうとしていた」



 そう言って盗賊団のリーダーは、エルンスト様の前で片膝を突いて頭を深々と下げた。



「だけど師匠と剣を交わすうちに、その人を疑うことを知らない真っ直ぐな思いに触れて、痺れるような強さに憧れて、俺達は改心しようと決意した。これからは師匠を見習って、お天道様に胸張れるよう全うに生きていく! 騙して本当にすまなかった!」



 見たことあるよ、こんな場面。ゲームの画面越しに……やっぱり彼はエルだ。

 若くとも「荒くれ者のシュトラール」の異名は伊達じゃない。

 銀蝶花を探して世界を回るうちに、彼は世界の裏社会に生きる荒くれ者達を改心させ続けてきた。

 人を疑うことを知らない無垢な瞳と驚異的な強さで、気付かないうちに悪者の頭を屈服させる。

 その後でエルは、傷付いた悪者達へ笑顔で手を差し伸べるのだ。昨日の敵は今日の友だと言わんばかりに。

 広がり続ける人脈の和。その結果、彼は裏社会のカリスマ的存在になってしまうのだ。

 残念な事に本人にその自覚はなく、自身が裏社会でそう呼ばれて尊敬されていることを微塵も知らないけれど。



「そうか。それならさらなる鍛錬に励まねばな。素振り追加五百回!」

「はい、師匠!」



 目の前でまた剣の素振りを始めてしまった元盗賊の皆さんと、それを微笑ましく見守るエルンスト様。


 これにて一件落着!


 というわけにはいかないよね。

 私達の任務はエルンスト様を連れて帰ること。こんな所でいつまでも油を売っているわけにはいかない。



「兄上! 帰りますよ!」

「中途半端に投げ出すことは出来ん。リヴァイド、悪いが先に戻っていてくれ」



 常識人リヴァイが必死に説得するものの、エルンスト様は動こうとしない。妙なところで頑固なんだよね。



「馬鹿言わないで下さい! 兄上、自力じゃ戻って来れないでしょう?! つべこべ言ってないで帰りますよ!」

「だが俺はまだ……!」



 リヴァイ、苦労してるんだな。エルンスト様の説得を手伝わなければならない所だろうけど、中に割って入るのも不敬だ。でもこのままじゃリヴァイが可哀想だ。


 助けを求めるようにセシル先生を見上げる。すると先生は私の気持ちを汲み取ってくれたようで、「任せておいて下さい」と綺麗な笑みを浮かべて彼等の元へ近づいていった。



「エルンスト君、リヴァイド君、そこまでです」

「セシリウス様。奇遇ですね、またお会いできるなんて」

「奇遇ではありませんよ、エルンスト君。私達は君を迎えに来たのです」

「そうだったんですか?! でも、まだ稽古の途中だしな……」



 困ったように、エルンスト様は頬をポリポリかいている。



「互いに譲れない思いがあるのなら、それを叶える算段を考える方がはるかに有意義ですよ。エルンスト君は彼等に剣の稽古をつけてあげたい。リヴァイド君は、エルンスト君を王城へ連れて帰りたい。それらを同時に叶える方法を、私が提案します」

「同時に叶える、ですか?」

「ええ、そうです。彼等も共に連れて帰ればいいじゃないですか」

「お、俺達も?」



 いきなり話を振られた盗賊団の皆さんは困惑気味だ。



「才ある若者を鍛えるには、それ相応の設備のある所がよろしいでしょう?」



 腰に下げた鞄からセシル先生はとある本を取り出すと、サラサラと筆を進めて何かを書いた後、豪快にそのページを一枚破って近くにあった扉にペタッと貼り付けた。



「ゲートを繋げておきました。帰りはこちらからどうぞ」



 先生が扉を開くと、向こう側は王城の立派な正門が見えた。


 あれは確か、テレポートブック。


 一度行った事のある場所を記憶させることで、その場所へ簡易ゲートを開くことが出来る移動アイテム。

 一度行った事のある場所に関しての移動なら、フライングボードより便利な時短アイテムだ。


 ただ作るのがかなり難しい上に、材料も手に入りにくい。便利なんだけど、一カ所しか記憶出来ないからどこかへ行く時に使うっていうよりは、帰還する時に使う事が多かった。

 私は常に自分のアトリエを記録させておいて、依頼の締め切り日に普通に帰ったら間に合わない緊急の時だけ使ってたな。


 そういえば、行く時に先生が王城の上空で一度止まってた。あの時きっとテレポート先を王城に変えてたんだろう。

 気持ち悪くてそれどころじゃなかったからうろ覚えだけど。



「相変わらず、セシリウス様の魔法はすごいな。続きは訓練場でやろう。皆、付いてきて」



 エルンスト様は盗賊達に声をかけた後、疑うことなく普通にそのゲートを通っていった。

 それを見ていた盗賊の皆さんも、恐る恐るゲートを抜けていく。

 こうして、無事エルンスト様捕獲任務は完了した。


 去り際、エルンスト様に「ルイス君、これからも弟と是非仲良くしてやってくれ」と声をかけられた。

 私の今の格好はシャツにズボン。髪も後ろで一つに結んでるし胸はぺたんこ。女の子には見えなかったのだろう。

 ここで訂正してエルンスト様に恥をかかせるのも忍びない。ルイスのフリして返事をしようとした時……



「兄上。彼女はルイスの双子の妹、俺の婚約者のリオーネです」



 リヴァイが私とエルンスト様の間に入って訂正してくれた。

 その言葉を聞いて、エルンスト様が驚いたように目を点にしてこちらを見ている。



「ルイス君とあまりにも似ていたもので、勘違いをしてしまった! すまない、リオーネ嬢」



 膝をついて私の目線の高さまで屈んだエルンスト様は、申し訳なさそうに謝ってくれた。



「いえ、こちらこそ! 紛らわしい格好をしていてすみませんでした。どうか顔を上げて下さい」

「聞くところによると、リヴァイがステージ上で熱い告白をして婚約を申し込んだそうだね。いやー、俺も見たかった!」



 私はばっちり見てました、ステージの下から客観的に。なんて、口が裂けても言えないな。



「兄上! 彼等に稽古をつけてあげるのでしょう?! はやく行かれた方がよろしいのではありませんか?!」



 リヴァイが余計なことを言ってないで早く行けと言わんばかりに、エルンスト様の背中を押している。



「そうであったな。ではこの辺で失礼させてもらうよ。セシリウス様、また一緒に狩りしましょう」

「ええ、もちろん」

「それではリオーネ嬢、これからも弟のことをよろしく頼むよ」

「はい、勿論です!」



 何というか、やはり原作通り賑やかな方だな。ヒラヒラと手を振ってエルンスト様は訓練場へと向かわれた。後ろにはごつい盗賊の皆さんを引き連れて。

 その後、リヴァイが馬車を手配してくれて、それに乗って屋敷へと戻ることになった。



「フライングボードで帰るので結構ですよ?」


 そうセシル先生がおっしゃったけど


「リオーネの体調のこともありますし、どうか帰りは馬車をお使い下さい」


 リヴァイが私の体調を気遣ってくれた。

 八歳とは思えない心配りだ。アトリエの完成祝いにプレゼントまで用意してくれてたし、ほんといい人!

 思わぬハプニングで、錬金術は出来なかったけど、フライングボードに乗れたし、貴重な錬金術のアイテムに触れることが出来た。今日は楽しくて濃い一日だったな。

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