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第三十三話 初冒険! と意気込んではみたものの……

 メルエム街道の中心部にて。現実世界で冒険することの厳しさを、私は肌で感じていた。



「大丈夫か? リオーネ」



 心配そうにリヴァイが声を掛けてくれる。



「ええ、これくらい……何とも……」



 強がって言ってみても、よろよろとする身体は誤魔化しがきかない。二、三歩歩いてダウンした。

 フライングボードで酔うなんて、こんなんじゃ冒険なんて夢のまた夢じゃないか。嫌だ、認めたくないこんな現実!



「リオーネ、無理をせずこちらを飲んで下さい。楽になりますよ」



 とはいえ、いつまでも意地を張ってたら逆に迷惑をかけるだけだ。



「ありがとうございます」



 先生が差し出してくれた小瓶に入った液体を飲むと、気持ち悪さが一気にとれた。そして身体の奥底から力が漲ってくる感じがする。



「先生、これは? 身体が活性化しているような不思議な感じかします」

「水と風の魔力を融合させ、少しだけアレンジを加えた万能薬ですよ。状態異常回復は勿論のこと、追加効果で三十分はHPとMPの持続回復効果をつけています」



 原作でこんな便利な回復アイテムは無かった。リジェネ効果と状態異常回復効果を融合させているとは……相変わらず先生のオリジナル調合はすごいな。



「複数の属性の魔力を融合させたら、他にも色々付加価値をつける事が出来るのですか?」

「可能ですよ。ただ魔力の消費も激しいですし、素材の選定も大変なので、大量生産しておきたい消費アイテムに関して一からそれをやるのは、おすすめはしません。アイテムの融合だけなら完成品同士を掛け合わせた方が、はるかに楽ですからね」



 完成品同士を複数の魔力で融合させる。そうか、そうだったんだ。作中では終盤になって、エリキシル剤っていう回復、蘇生、状態異常回復を併せ持つ効果のあるレアアイテムを作れるようになった。かなり高価な素材を必要とし、使うのも躊躇う程で量産するなど夢のまた夢だった。


 しかし複数の魔力を用いたオリジナル調合で、比較的安価な回復アイテムと状態異常回復アイテムを融合させれば、それに近い効能を持ったアイテムを簡単に作ることが可能だということだ。

 これは発想次第でかなりの便利アイテムを作れるんじゃないだろうか。



「ここからは少しハードになりそうなので、リヴァイド君。君もこちらを飲んでおいて下さい」

「分かりました。ありがとうございます」



 リヴァイが渡されたアイテムを飲み終わった頃、砂埃が風に乗って頬にあたり、何か嫌な気配を感じた。先生が氷のレイピアを構えた所で悟る。敵が現れたのだと。

 振り返ると、頭にターバンを巻き盗賊風の出で立ちをした柄の悪い男達が四人ほど立っていた。



「さっきの兄ちゃんといい、今日はカモが良く通る。おい、テメェ等! 怪我したくなかったら大人しくついてき……な?!」



 男が喋り終わるより先に、先生が氷魔法を使っていた。男達の足下は氷の大地で覆われており、足下から男達をじわじわ凍らせようとしていた。



「全身が凍ってしまう前に、『さっきの兄ちゃん』について、詳しく伺ってもよろしいですか?」



 捕まえようとした相手が悪かったとしか、言い様がない。あの伝説の錬金術士に喧嘩を売るなんて、命知らずにも程がある。



「わ、分かった!」

「彼は今、どこに居ますか?」

「お、俺達のアジトに居る! 返してやるから、この魔法を解いてくれ!」

「そうですか。ではそのアジトまで、案内をお願いします」



 先生が盗賊達にかけた魔法を解くと、リーダー格っぽい男が私の方を目がけて走ってくる。手には短剣を携えて。



「誰が馬鹿正直に案内なんかするかよ!」



 確かにこの中だと、私が一番弱そうに見えるよね。ここは、ライトニングロッドの出番だ!

 ベルトホルダーにかけている、ミニマムリングで小さくしたマイ武器に手を伸ばす。華麗に魔法攻撃をきめようとしたその時──



「リオーネ、後ろに下がってろ!」



 リヴァイが私を庇うように剣を構えて私の前に立つ。そんなリヴァイの前で、セシル先生が氷のレイピアで男の持つ短剣を素早く落として腕を捻り上げる。その間、わずか数秒の出来事だった。

 あれ、私の出番は? 実戦経験が積めると思ったのに……



「イテテテテ!」



 男が悲鳴をあげる。



「勿論、おかしな真似をしたら二度目はありませんからね?」



 有無を言わせないとはこの事だろう。美人さんが凄むと怖い。



「す、すまなかった! 案内する! あの兄ちゃんも返す! だからどうか命だけは……!」



 武力でも敵わないと悟った盗賊達は、素直になった。



「では、案内をお願いします」



 盗賊達の後について歩くこと十五分くらい。洞窟の前に着いた。


 その間、何度かモンスターが現れたものの……

 セシル先生が瞬時に氷漬けにしたモンスターを、盗賊の皆さんが木っ端微塵に砕いていく。

 先生の魔法を避けた素早い虫モンスターがこちらに向かってきたものの、リヴァイが剣で真っ二つに切って守ってくれた。

 私のライトニングロッドの出番は、悲しいほどに一度たりとも来なかった。


 洞窟の中でこそ、真価を発揮するはずだ!


 そう思ってみたものの、外灯整備のきっちりとされた洞窟内にモンスターの気配があるはずもなく、マイ武器の出番はまたしても来なかった。

 案内された先は、どこかの屋敷の地下室へと繋がっているようだった。

 扉の奥から「はっ!」「やっ!」という訓練でもしているかのような声が聞こえてくる。

 中に入ると目の前には、高貴なお召しものを身に纏った青年が、盗賊達に剣の稽古をつけているようだった。



「脇が開いている。もっと引き締めて」

「はい、師匠!」

「もう少し腕を上げて。角度が大事だから」

「はい、師匠!」



 えーっと、師匠と呼ばれているあの人は間違いなくエルンスト様だよね?

 何故、こんな所で盗賊達に稽古をつけていらっしゃるんだろう?



「あ、兄上!? ここで一体何を……?!」



 私の疑問をリヴァイが質問してくれた。



「見ての通り、鍛錬だ。稽古を付けて欲しいと頼まれてな。道に迷った俺を親切に助けてくれたこの者達への、ささやかな恩返しだ」



 人を疑うことを知らないエルならではの発想だ。でもその言葉に、リヴァイは再び頭を抱えこんでしまった。

 こんな所に居たら、確かにどんなに捜索隊を出してもそう簡単には見つからないはずだよね。

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[一言] 最強のボディーガードの伏線回収のため、第一王子には泣いてもらおう! と言うことだろうか。
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