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第三十話 財力チートなアトリエ

 素材の収納が完了し、改めてアトリエを見渡してみるとかなり設備が充実していることに気付く。

 真ん中には、錬金術の核である大きな錬金釜。隅には流し台と作業台が設置され、棚には様々な器具や工具が収納されている。一角に机と椅子、ブラックボードも用意され、そこで授業を受けるのだろう。

 倉庫も素晴らしい性能を兼ね揃えているし、予想以上に立派な設備に感動した。

 一通り基本となる道具も揃えてもらっているようで、ゲームの画面越しに見ていた道具達が揃っている。


 作中では最初、錬金釜しかなくて冒険して素材を集めながら錬金術で品物を作り出し、それを売ったり酒場で依頼品として納めたりしてコツコツ貯めたお金で道具やレシピを揃えていた。そうやって、自分のアトリエの設備を整え立派にしていくのが楽しかった。


 でもここは……財力チートと言っても過言ではない程、色んなものが揃いすぎている。普通に本棚に並んでいるレシピ本、それはその国を訪れて初めて手にする事が出来るものだったはず。それなのに──


『必要なものは各国で集めてきたよ』


 その言葉通り、お父様は忠実にお金で買えるレシピ本はかき集めてくれている。親善大使として各国を回られているから、そのついでに買って下さったのだろう。

 それはそれで便利なので嬉しいけれど、少しだけ楽しみが減ってしまった事に切なくなった。

 まぁどちらにせよ、錬金術のレシピはその品物が作れるレベルにならないと読めない仕組みだった。

 つまり、この本棚に並べられたレシピの数々はまだ私には読めないだろう。そう思ってパラパラとページをめくると……何故か普通に読める。しかも日本語で書いてあるため、この国のミミズみたいな文字より馴染みがあって読みやすい。



「見たことない文字だな。これは、古代語か?」



 錬金術のレシピ本を覗き込みながらリヴァイが尋ねてくる。



「文字自体に不思議な術式が施されているようで、普通の人が見てもただの記号の羅列にしか見えません。錬金術レベルが上がれば読めるようになりますよ」



 やはり、錬金術レベルがないと解読できないのか。そこはゲームと一緒だけど、錬金術レベルが1なのに読める私は一体……



「今日は一番簡単な錬金術を実際にやってみましょう。2人ともこちらへ」



 先生に促され、角に設置された授業を受けるスペースに移動する。

 数ある錬金術のレシピ本の中から、先生は赤い表紙の本を取り出すと、最初のページをめくって私達に見やすいよう机の上において下さった。



「リオーネ、このページは読めますか?」



 目を通すと、この国のミミズみたいな字で書かれている。なるほど、錬金術レベルに応じて自国の文字で読めるようになるわけか。不思議な術式で施された文字がたまたま日本語だった。だから他のも読めたのか。すごい偶然だ。



「えっと、りんごのケーキと書かれています。HP回復効果のあるお菓子みたいです」

「すごいな、俺には全く読めない」

「リヴァイド君。君も錬金術の適性があるか水見式で調べたら読めるようになりますよ。やってみますか?」

「水……見式。いや、俺は見学だけでいいです。リオーネの邪魔はしたくないので」



 先生の問いかけに少し考える素振りをした後、リヴァイはかぶりを振って否定する。



「それは残念です。では、早速錬金術でりんごのケーキを作ってみましょう。リオーネ、魔力探知眼鏡は持っていますか?」

「はい、こちらに!」

「それをかけて、魔力の流れをよく見ていて下さい」

「分かりました」



 私がポケットから眼鏡を取り出すと、リヴァイが驚いた顔をしてこちらを見ている。



「それをかけるのか?」

「はい、魔力の流れが視覚的に見えて面白いですよ。かけてみますか?」



 魔力探知眼鏡を渡すと、リヴァイは何の迷いもなくそれをかけた。星形のユニーク眼鏡のはずなのに、何故かリヴァイがかけるとそれもクールでスタイリッシュに見えてくる。

 目がおかしくなってしまったのだろうか。いや、これがまさかのイケメン補正……って馬鹿なことを考えている場合じゃない。



「5色の魔力が螺旋状に……リオーネは、古の属性なのか?!」 

「そうみたいです。ちなみに先生もですよ」



 私の言葉にリヴァイは視線を先生の方に向ける。魚のように口をパクパクさせて、驚きで言葉が出ないようだ。



「……そんなに珍しいですか?」



 無印のゲームしかやったことないから、いまいち古の属性がこの世界にとってどんな存在なのか分からない。



「古の属性持ちは、国に1人居るか居ないかぐらいの貴重な存在なんだ。この国では、もう長いことその存在が確認されては居ない」



 はっとした表情でリヴァイは尋ねてくる。



「リオーネ、お前が古の属性持ちだと誰が知っている?!」

「セシル先生とルイスに、お父様、お母様ぐらいですけど……」

「いいか、リオーネ。絶対に周りにバレないようにするんだ。もし複数の魔力を扱えることが知れてしまえば、王立魔法院がお前を放ってはおかない。あの変人集団は、あらゆる手を使ってお前を引き入れようとするだろう」

「大丈夫ですよ、リヴァイ」



 見た目は子供でも、前世の記憶分の年齢を加算したら精神年齢は実年齢よりずっと上だ。そんなお菓子あげるからおいでみたいな誘い文句に付いていくはず……



「王立魔法院はレア素材の宝庫だ。貴重な素材をあげるからおいでなどと言われても、決してついていっては駄目だぞ?」


──前言撤回。


「それは是非とも行ってみたいですね!」

「だから、駄目だと言っているではないか!」



 私の言葉にリヴァイが頭を抱え込んでしまった。でも気になりますね、王立魔法院。



「リヴァイド君、自分で墓穴を掘るのはやめなさい。それからリオーネ、錬金術を極めたければ新鮮な素材を集める技量も必要です。楽して手に入るものでは一流品は作れませんよ」

「はっ! そうですよね、先生。精進します!」



 性能の良いアイテムを作るには、同じ素材でも鮮度や品質、特性などを気にする必要がある。

 最高性能の時短アイテム『フライングボード』が欲しくて、何ヶ月も同じダンジョンにこもって、ひたすらある鉱石を集めていたのが懐かしい。冒険の必需品である便利道具に妥協は出来ないからね。



「それでは始めますよ。二人ともよく見てて下さいね」

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