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【閑話】儚げな妖精(前編)

閑話のため三人称です。

 ウィルハーモニー王国の第二王子として生まれたリヴァイドは、物心ついた頃から楽器に囲まれた生活をしていた。彼が色んな楽器を一通り触ってみて一番しっくりきたのはピアノ。鍵盤をたたくのが心地よく、初めてさわった気がしないくらい指に馴染むそれが大好きだった。


 わずか3歳にして器用にピアノを弾きこなしたリヴァイドは、5歳になると即興で演奏が出来る程たぐいまれな才能に溢れていた。


 その上容姿にも恵まれていたため、行事ごとに参加すれば本人の意思とは関係なく、同じ年頃の令嬢達の心を鷲掴みしにしてしまう。

 我が子を是非未来の妃にと、下心丸出しの貴族が娘を従え挨拶に来るのに辟易していた。

 心にもないお世辞を長々と聞かされる度に、腕にはめた真実の腕輪が熱を持って教えてくれる。相手は嘘をついているのだと。

 小さい頃から持たされているこの腕輪のせいで、リヴァイドは人を見る目が肥えていた。人が嘘をつく時の仕草なんて、最近は腕輪をしてなくても見分けられる。



「リヴァイド様! あれ、どこに行かれたのかしら?」

「あっちじゃない? 行ってみましょう!」



 恍惚とした眼差しを向ける猪の群れ、もとい令嬢達から逃げ切ったリヴァイドはひとり木陰に隠れてそっとため息を漏らした。


 女というのは実に面倒くさい。片方を立てれば片方が嘆く。全てを平等に褒めあげれば、どんどん数が増えていく。そして終いには腕を掴んでは引っ張り合うあの凶暴性。あんな面倒くさいものの相手をしている暇があるならば、ピアノを弾いていたい。そちらの方が何倍も有意義だ。

 モテすぎるが故に、わずか6歳にして何とも捻くれた倫理観を持ってしまっていた。

 王子としての立場がある故に表だってそれを顔に出すことはないが、内心は毒を吐きまくっている。

 それを知っているのは、同じような境遇にある妹馬鹿……もとい、親友のルイスだけだった。



 そんな親友の家で開催されていた茶会に参加していたリヴァイドは、令嬢達から逃げているうちに気がつけば人気の無い裏庭に居た。

 王城程ではないが、かなりの広さを誇るレイフォード家の屋敷は少し年季は入っているものの手入れがよく行き届いており、古さを感じさせない。

 少しくらいならここで休憩しても構わないだろう。隠れるように大きな庭木に背を預けて座りながらも念のため、辺りの様子を窺って誰も来ていない事を確認する。その時、視界に人影が映った。


 三階の窓から空を眺めている綺麗なプラチナブロンドの少女。何かを掴もうと必死に手を伸ばすも、届かなかったようで落胆したように肩を落とす。サラリとこぼれ落ちるその色素の薄い金糸がキラキラと輝いている。儚げなその少女は、瞬きをしたら消えてしまいそうな印象を受けた。



 (まるで、妖精のよう)



 そんな事を考えてリヴァイドは我に返る。何を馬鹿なことを。女は面倒くさいだけだ、と思わず心の中で悪態をつく。


 その少女から隠れるように身を隠すも何故か気になって仕方ない。チラリと覗くように様子を窺うと、少女は何をするでもなくただじっと空を眺めている。その顔は悲しみに満ちていた。

 空に何かあるのか確認しても特に何のかわりばえもしない青空が広がっているだけだ。それなのに、何故あの子は悲しそうな顔をして空を眺めているのだろう。

 気になって、憂いに満ちたその眼差しから目が離せない。悲しみが伝染してしまったかのように、胸がざわつく。今まで体験したことがない苦しみがリヴァイドの胸を締め付けていた。



 (何なんだこの感情は……)



 わけのわからない感情に葛藤を抱いているうちに、気がつくと少女は居なくなっていた。胸に残ったのは、小さなしこりのような痛み。あの子のことを考えると、胸がズキズキと痛くなる。



 (あの子は誰だ?)



 少し考えてその答えはすぐに分かった。ルイスの話に出てくる可愛い自慢の妹リオーネ。身内可愛さでかなり誇張していると思っていたが、よくよく考えればルイスと双子なのだから整った容姿なのは間違いない。病弱で屋敷から出られないと聞いていたその子に違いないだろう。


 その日から、リヴァイドはふとした瞬間に気がつくとリオーネのことを考えるようになっていた。あの悲しそうな顔が脳裏に焼き付いて離れない。

 何の病を患っているのか、ルイスに尋ねてもいまいちはっきりとした返事が得られない。どうやらロナルド卿に口止めされているらしく言えないようだった。

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