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第二十二話 ルイスの抱えていたもの

 メアリーが掃除の持ち場に戻った後、手持ち無沙汰な私は窓から外を眺めていた。

 今頃、セシル先生はどの辺を飛んでるのかな。フライングボード、いつか乗ってみたいな。鳥のように空を駈けるって、きっと気持ちいいんだろうな……

 物思いにふけりながらしばらくボーッとしていると、背後から突然声をかけられた。



「ため息なんてついてどうしたの?」

「る、ルイス! いつからそこに?!」

「ごめんね、ノックしても気付かないみたいだったから……」

「そうなんだ、ごめんね気付かなくて」

「セシル先生が来てからは、そういう顔してるリィを見なくなったと思ってたけど……リヴァイとの婚約、実は嫌だったりする?」



 リヴァイの提案で期間限定だということは二人だけの秘密にしている。もちろんルイスにも、その事は言っていない。秘密がバレてしまったことは話したけれど。



「そんなことないよ。私には勿体ないくらい素敵な縁談だと思う」



 王子様と結婚の約束をするなんて、絵本の中のお姫様みたいだ。それは本心。

 ただ、本当に結ばれることはないけれど。私とリヴァイはあくまでお互いの目的のために偽りの婚約をする言わば同志だから。


 あの時は目先の欲に囚われて引き受けてしまったものの、本当は内心これでいいのか悩んでいた。かといって、秘密している事をルイスに相談するわけにもいかないし……とりあえず笑って誤魔化す私に、



「僕の前でまで嘘をつく必要はないんだよ、リィ」



 ルイスはもちろん騙されない。やはり、バレちゃいますよね。こういう時、双子って少し不便だなって思う。

 ルイスは昔から、私の感情の変化を機敏に感じ取ってしまう所がある。離れた場所にいても、私が悲しんだり落ち込んだりしていると何故かそれを感じ取ってしまうようで駆けつけてくるのだ。

 昔はよく楽器を壊して落ち込む度に、誰も居ない所で隠れて泣いた。その度にルイスは私を見つけ出して、泣き止むまで傍に居てくれたっけ。


『りぃがかなしいと、ぼくもかなしい。だから、ひとりでなかないで』


 そう言って膝を抱えて泣く私の身体を、そっと包み込むように抱きしめてくれた。

 でもいつまでもそれじゃいけないと思って、余計な心配をかけたくなくて……ルイスが来ると、私は笑って誤魔化すようになった。その度にルイスは悲しそうに眉を寄せて、寂しそうに笑うようになった。

 本当はそんな顔させたいわけじゃないのに……



「ずっと考えてたんだ。君から音楽の才能を奪ってしまった僕に、出来ることは何か……でも、空回りしちゃったみたいだね。本当にごめんね」



 ああ、だからリヴァイの誕生パーティーの時、あんなに必死だったのか。私の幸せを思って、自分の身を危険にさらしてまで頑張ってくれたんだ。

 双子として生まれ、自分には音楽の才能があり妹にはこれっぽっちもない。私がルイスの立場だとしても確かに気にせずにはいられない。

 もう、なんで今までその事に気付かなかったのか。お兄様はいつも私のことを気にかけてくれたのに。


 なんて言えば、ルイスの心のわだかまりを解いてあげられるのか……悩んだ末、私は真実を話すことにした。

 ルイスになら本当の事を話しても大丈夫だろう。何よりそんな勘違いで、大事なお兄様にこれ以上悲しそうな顔をさせていたくないから。



「私に音楽の才能がないのは、ルイスのせいじゃないよ。だって前世から、私には音楽の才能なかったから」

「前世から……って、リィには前世の記憶があるの?」

「うん。前に倒れた時、思い出したんだ。こことは違う世界で生きる自分のことを。楽器に触れれば即破壊……ついたあだ名は『楽器クラッシャー』それが、生まれ変わる前の私。だから、ルイスのせいじゃないんだよ」

「そんな、僕に気を遣わなくていいんだよ」



 気なんて遣ってないよ! むしろ、ルイスが私に気を遣いまくっているんじゃないか!

 ここは本気を出すしかない。大きく深呼吸して途中で逃げられないようにルイスの肩をガシッと掴む。戸惑いを見せるルイスを真っ直ぐに見据えて、私は正直な気持ちを伝えた。



「本当なの! 触っただけで楽器壊しちゃうし、歌ったら不協和音って言われちゃうし。それなのに有名な音楽一家に生まれて、才能のない自分に塞ぎ込んでた時期もあった。でも生まれ変わる前の私には、翼って名前の幼馴染みが居たの。彼が音楽の他にも世界にはいっぱい楽しいことがあるって教えてくれたから、前世の私は前向きに生きることが出来た。それを思い出したから、私は今毎日がすごく楽しいよ。もうすぐアトリエも完成するし、本格的に錬金術も教えてもらえる。素敵な先生にも恵まれて、本当に幸せなの。だから、ルイスが自分を責める必要なんてこれっぽっちもないんだよ! ルイスが私の幸せを望んでくれているように、私もルイスには幸せになって欲しいから! それでも僕のせいでって気持ちが拭えないなら、私のためにヴァイオリンを弾いて。音楽を聴くのはすっごく好きだから、リクエストを聞いてくれるとなお嬉しい!」



 どうだ! ここまで言えばルイスもきっと分かってくれるはず。

 一気に捲したてるように喋ったら、呼吸するのも忘れていたから酸欠気味だ。ゼーハーと肩で息をしながらよろけそうになった身体をルイスに抱きとめられた。



「リィが望むなら、僕は何だって弾くよ。それで君が喜んでくれるなら」

「私のリクエストは多いからね、後で後悔しても知らないよ?」

「望むところだよ。何でも言ってごらん」

「もう! ルイスはもう少し我が儘になってもいいんだよ? 前世の記憶分を足したら私の方がお姉ちゃんなんだから」

「たとえ精神年齢が足して僕より上だとしても、リィは大切な僕の妹だよ。最近はセシル先生にその役目をとられた気がして、寂しかったんだけどね……」

「そうなの?」

「うん」



 恥ずかしそうにコクリと首を縦に振るお兄様。エメラルドグリーンの瞳がすこし潤んでプルプルしてる。そんなことを心配してたなんて……か、可愛いすぎる!

 深い愛情を感じて嬉しくなった私は、両手を伸ばしてそのままルイスに飛びついた。頭をぎゅっと抱きしめるようにして、耳元で囁く。



「不安になる必要なんてないよ。ルイスは私にとってたった一人の大切なお兄様なんだから」

「ありがとう、リィ」



 私の身体を抱きしめ返しながら、ルイスは嬉しそうに笑ってくれた。

 改めて兄妹の絆を確認し合っていたその時、外から正門を開く音が聞こえてきた。

 窓から外を覗くと、王家の紋章が入った豪華な馬車が見える。どうやら陛下とリヴァイがおみえになったらしい。

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