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第二十一話 皆の思いが……胃にきます

 ルイスの完璧な演奏とリヴァイの告白が相まって、私がヴァイオリンの名手だと知れ渡ってしまった。お母様曰く、社交界では私とルイスのことを『奇跡の双子』と称し、皆が絶賛しているという。


 ごめんなさい、奇跡なのはルイスだけで私はゴミ屑以下です……なんて、言えるわけがない。


 やたらめったらお茶会や誕生パーティーの招待状が来るようになったし、着実に「夢色セレナーデ」の舞台設定に一歩近付いた未来に不安しかない。

 そもそも現実的に考えて、この嘘をつきとおせるわけがないのに。大きくなればルイスとの入れ替わりも厳しくなるだろうし、学園というあの閉ざされた閉塞空間で楽器を全く弾かずに過ごすなど不可能だ。音楽の講義を全て欠席でもしたら良いのだろうか。うぅ……考えれば考えるほど胃が痛い。


 頭を悩ませながら悶々とした日々を過ごすうちに、1週間が経った。

 今日は婚約の挨拶に、陛下とリヴァイがお昼からわざわざ公爵家に足を運んで下さるそうだ。

 そのためお屋敷は昨日までの祝賀会ムードから一変し鬼軍曹の元、激清掃モードに入ろうとしていた。


 頭に三角巾、体には割烹着のような白い衣服を身に纏い、腰にはたきをぶらさげて、手にはバケツと雑巾を持ったメイドと執事がエントランスに集結している。



「今日はお嬢様にとってとても大切な日だ! 埃一つ許していいと思うな! その覚悟で清掃に取り組むように! それでは各人持ち場につけ!」

「アイアイサー!」



 鬼軍曹こと執事長リチャードの号令を元に、蜘蛛の子を散らしたかのように皆が持ち場に向かった。

 普段から皆の頑張りのおかげで綺麗に保たれているお屋敷だから、そこまで気合いを入れなくてもいい気がするけどそういうわけにはいかないらしい。

 将来婚約を破棄するのが分かっているから、皆のその気持ちが嬉しい反面心が痛む。



「おはようございます、リオーネ。今日はお屋敷が賑やかですね」

「セシル先生! おはようございます。お昼から陛下と王子がお見えになるので皆張り切っているみたいで」



 相変わらず先生は美人さんだ。でも、今日はひと味違う。色素の薄いサラサラの青髪を高い位置で結び、いつもはミニマムリングで小さくしている氷のレイピアを腰にさされていて凛々しい印象を受ける。もしかして……



「先生はお出かけですか?」

「ええ。もうすぐアトリエも完成しますし、少し素材を集めてこようと思いまして」



 やはり、外に行かれるのか。王国から一歩出ればモンスターが闊歩しているフィールドだ。

 すぐに抜剣出来るように腰にさされているということは、危険な所を移動するということなのだろう。



「どちらまで行かれるのですか?」

「次の講義まで3日ほどあるので、ホルン山脈あたりまで足を伸ばそうかと思っています」

「ホルン山脈ですか?!」



 片道歩いて3日はかかるであろう距離にあるホルン山脈まで3日で行って帰ってくるなんて……って、それはゲームの中の話だ。しかもここからだと隣国のリューネブルク王国の先にあるから、さらに遠い。現実だとどれくらいかかるんだろう。


 はっ! まさか先生はあれをお持ちなのか!



「これでひとっ飛びいってきます」



 先生の手のひらにはミニマムリングで小さくされたミニチュアサイズのフライングボードがのっていた。

 作中で1、2を誇る便利道具、時短アイテムをお持ちとはさすがはセシル先生! オープニングで主人公が楽しそうに守護獣のクッキーと一緒にフライングボードに乗って草原を駆けるシーンがあったけど、楽しそうだったんだよな……ものすごく!



「先生、私も行きたいです!」

「リオーネ、皆さんの頑張りを無にしてはいけませんよ」

「はっ……そうでした。先生、お気をつけて。お帰りをお待ちしてます」

 


 セシル先生の授業だけが、今の私にとって現実逃避という名の癒やし空間だったのに3日もお預けとは……つらい。

 後ろ髪引かれる思いで先生を見送って部屋に戻った。


 今私がやるべき事は、屋敷をピカピカに磨き上げてくれている皆の気持ちに応えるため、そしてこれからやって来る友人のために身なりを整えることだ。



「今日は可愛らしさを全面に出して行きましょう!」



 部屋に戻るなり、鼻息荒いメアリーにそう言われ念入りにおめかしされた。

 お姫様を思わせるピンクと白を基調としたプリンセスラインのふんわりレースのドレスに合わせ、髪も緩く巻いてハーフアップに。首元にはリボンのチョーカー、耳元には控えめなピンクダイヤモンドのイヤリングをつけられどんどん飾り立てられてゆく。



「これでリヴァイド王子もお嬢様に釘付け間違いなしです!」



 鏡の前には思わず強調して『The お姫様』と言いたくなる容姿の自分が居た。

 いつも思うけど、メアリーの美的センスは本当にすごい。王宮務めでもやっていけそうなくらい彼女の着付けや髪結いの技術は高い。

 新しいドレスを仕立てる時もお母様は必ずメアリーに意見を求めているし、レイフォード家にとってメアリーは美の先導者と言っても過言ではないかもしれない。



「ありがとう、メアリー。何だか自分じゃないみたい」

「気に入ってもらえたようで何よりです。それでは私も、お掃除に戻りますが……お嬢様! くれぐれも、大人しくしておいて下さいね? 走り込みなんてしたら駄目ですよ?」

「分かってるよ、メアリー。綺麗にセットしてもらったのが台無しになっちゃうからね。陛下とリヴァイが帰るまでは大人しくしておくよ」

「まぁ……! リヴァイド王子とはもう愛称で呼び合う仲なのですね! お嬢様の結婚式の準備は是非、このメアリーに任せて下さいね!」

「き、気が早いよメアリー」



 破棄が前提の婚約なんて言えない。瞳をキラキラさせて喜んでいる今のメアリーには、口が裂けても言えるはずがない。

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