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第十九話 波乱の誕生パーティ③

「そ、それは……」



 適当に話を合わせてしまったことが裏目にでた。



「楽しみにしていたのに……こんな小細工までして、俺のために弾きたくはないということか」



 シンとした空間に、怒りを押し殺したような王子の低い声が響く。冷静さを保ちつつもその鋭い視線から感じられるのは、今にも爆発しそうな感情をなんとか抑えているということ。

 これ以上嘘を重ねても、王子をさらに怒らせるだけだろう。ここは正直に謝るしかない。



「お誕生日に、大変不快なご無礼をはたらき申し訳ありません。全ての責任は何も演奏できない私にあります」

「何も……演奏できない?」



 綺麗なブルーアイズを大きく見開いて驚きを露わにする王子に、私は冷静に理由を述べる。



「はい。私には、音楽の才能がありません。信じられないかもしれませんが、楽器に触れると壊れてしまい、触ることすら出来ない特異体質なのです。あらゆる楽器を試してみましたが全てダメでした。なので、兄が代わりに……」

「少し、そこで待っててくれ」



 王子は控え室の隅にある楽器棚を漁って古びたフルートを持ってきて差し出してきた。



「廃棄に出す分だ。壊れても構わない。試しにこれを触ってみてもらえるか?」



 いくら捨てると言っても、壊すのは気が引ける。でも、触らないと証明が出来ない。



「分かりました」



 そっとフルートを掴むと、王子が手を離した瞬間フルートがあり得ない方向にぐにゃりと折れ曲がった。

 驚いたように目を丸くして王子はフルートと私を交互に見ている。



「貸してもらえるか?」

「はい。尖っている箇所があるのでお気をつけ下さい」

「ああ、すまない」



 私からフルートを受け取った王子は、それを真っ直ぐに伸ばそうと試みているようだが、折れ曲がった形状で固まってしまったフルートはびくともしない。



「病弱とは聞いていたが、とてもそうは見えない……そういうことか。今までロナルド卿がお前をひた隠ししていた本当の理由は」



 毎日レベル上げに勤しみ身体を鍛えている今、昔と違って病弱とはほど遠い。王子の言葉に思わず苦笑いがもれる。



「深層の令嬢リオーネ。演奏する姿が月の女神の申し子の如き美しさ故に、悪い虫がつかぬよう公爵が外に出し渋っている。お前がそう噂されているのを知っていたか?」

「いえ……初耳です」



 王子がさっき怒っていたのはそういうわけだったのか。私が演奏したくないからルイスに身代わりさせていると思われていたのだろう。知らぬ間にとんだ高飛車な令嬢になっていたものだ……



「ただ事実を申し上げるなら、私の外に出たくないという願いを父がかなえてくれていただけです。さらに出来すぎる兄を持ったが故に、そのような根も葉もない噂がたったのでしょう。もしその噂を信じておられたのなら、まことに申し訳ございません」



 このまま不敬罪で訴えられるのだろうか。もうすぐアトリエが完成する予定だったのに。セシル先生からまだたくさん習いたいことがあったのに。家族に恩返しどころか、結局家に泥を塗ることになってしまった。今の私に出来ることは……



「あの、リヴァイド王子……此度の件は私が無理にお願いして成り立ったこと。ですので兄は……ルイスは何も悪くありません。どうか、罰は私だけに……」

「俺には、相手の言っている事の真偽が分かる。相手が嘘をつけば、この腕輪が教えてくれるからな」



 そう言って腕を掲げて見せたリヴァイド王子の左手には、真偽の腕輪がはめられていた。

 最終盤に手に入るレシピで作ることが出来るかなり貴重なアイテム。嘘発見器のような機能を持つそれを、まさか王子が持っていたとは思わなかった。



「ルイスを庇うためとはいえ、それ以上嘘をつくな」

「も、申し訳ございません」

「大方、あの妹バカが言い出した事だろう。優しい妹を持って、あいつも幸せ者だな。この件に関して、俺は別にどうこうするつもりはない。それに……楽器が弾けぬのも1つの個性だ。誰にでも得手不得手はあるし、あまり悲観する必要はないと思うぞ」

「……ありがとう、ございます」



 励ましてくれた?

 王子のその心遣いにじんわりと胸が温かくなった。

 大抵の人は私が楽器を壊した姿を見ると、驚いた後気味悪がって離れていく。普通に接してもらえたことが、嬉しくて仕方ない。不覚にも目頭が少し熱くなってしまった。



「ところでリオーネ嬢、此度のパーティの趣旨を知っているか?」

「リヴァイド王子のお誕生日祝いと、優秀な人材の発掘だと父よりうかがっております」

「それなら話は早い。このままルイスが完璧に演奏を終えてしまえば、お前は間違いなく俺の婚約者に選ばれるだろう」

「……え?」



 私が王子の婚約者?! 変な単語が聞こえて思わず声を上げてしまった。



「家柄的に申し分ない。それに加えてその容姿とルイスのあの完璧な演奏が加われば、誰も否定の意を唱える者など居ないはずだ」



 じょ、冗談じゃない。王子の婚約者なんて高い教養と音楽的センスを問われること間違いない。何の楽器も弾けない私にそんな大役務まるはずがない。



「あからさまに嫌そうな顔をするな」

「す、すみません」



 やばい。あまりの衝撃に取り繕うことさえ忘れてしまっていた。



「しかし、そんな反応する奴も珍しいな。妃の座が欲しくはないのか?」

「そんな恐れ多いこと! 何の演奏も出来ない私に務まるわけがありませんし……その、私にはやりたい事がありますので……」

「ほぅ……やりたい事とは何だ?」

「私は、錬金術士になるのが夢です。こんな体質ですから家族には迷惑をかけっぱなしで……だからはやく独立して、一人前の錬金術士になって恩返しをしたいのです」

「錬金術とは?」

「素材と魔力を掛け合わせて別のものを作り出す術です。リヴァイド王子が身につけておられるその真偽の腕輪も、元は錬金術で作られたものだと思います」

「そうなのか? これは王家に代々伝わる家宝だ。錬金術……というもので作れたのか」



 王家の家宝になるほど、この国では貴重なアイテムだったのか。真偽の腕輪の作り方が記された神秘シリーズの参考書は、古代神殿にある。普通の人はまず近付かない魔鏡の森の奥深くに位置するそれは、特殊なアイテムを身につけないと道に迷って目的地にまずたどり着けない。

 それに、ウィルハーモニー王国は音楽に造詣が深い国。一般的に錬金術はあまり知られていない。前世の記憶がなければ私も錬金術の存在すら知らなかったし。

 作中では終盤、錬金術のレベル上げに何個も作ってたとは口が裂けても言えないな。


 今はそれより、婚約者に選ばれるかもしれないという物騒な案件を片付けなければ。

 短時間しか接してないけど分かる。王子は人の話に耳を傾けられるお方のようだ。私の弱みにつけ込んで無理難題を押し付けてくる感じでもないし、逆に励ましてくれた。

 ならば人の良さそうな王子のこと、錬金術に興味を持ってもらえれば、婚約者の話を王子の方から撤回してもらえるかもしれない。

 一縷の望みをかけて、私はあるものを王子に差し出した。

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