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第十七話 波乱の誕生パーティ①

 国王陛下が式の始まりを告げた。そして本日の主役リヴァイド王子の登場で、会場に黄色い歓声が上がる。

 さすが王子様、大人気のご様子だ。リヴァイド王子が乾杯の挨拶をしてパーティが本格的に始まった。

 

 それと同時に、順番に会場を盛り上げる演奏を披露する子息と令嬢が準備をし始める。ルイスは3番目、私は15番目だ。

 続けて同じ楽器にならないよう順番が組んであってよかった。



「リィ、僕の演奏が終わったらすぐに控え室に戻っておいで」

「うん、分かった。ルイスも頑張ってね」



 順番の早いルイスを会場の入口まで見送ってステージの近くに戻ろうとすると、声を掛けられた。



「あの、リオーネ様ですよね?」



 振り返ると、少し緊張した面持ちの男の子が立っていた。チョコレートブラウンの髪に深紅の瞳が印象的だ。



「はい、そうですが……」



 私の返事を聞くなり彼はパッと花が咲いたような笑顔を浮かべた。



「やはりそうなんですね! あ、申し遅れました。僕はフェリクス・ウルフリック・キルシュタインと申します。以後、お見知りおきを願います」



 キルシュタイン家と言えば確か辺境伯の家名だったはず。失礼がないようにこちらも挨拶をしておかないと。



「初めまして、フェリクス様。リオーネ・ルシフェン・レイフォードです。こちらこそ、よろしくお願い致します」

「お目にかかれて光栄です! 噂に違わぬ美しさ、本当に月の女神のようですね! リオーネ様の演奏、とても楽しみにしています!」



 つ、月の女神?!


 それはお母様の異名であって私のものではない。もしかして、メアリーが選んだルイスとお揃いで仕立てられたこのドレスのせいだろうか。コンセプトは『月の女神の申し子たち』らしく、夜空と月を連想させて黒と黄色を基調として作られている。目立つよね、これ。ルイスと並ぶと特に。

 キラキラとした羨望の眼差しを向けられ、ものすごく心地悪い。

 


「あ、ありがとうございます。フェリクス様の演奏も楽しみにしていますね。それでは、そろそろ兄の演奏が始まるので失礼致します」



 ふぅ……ひと仕事終えたような疲れを味わったのも束の間、一歩踏み出す度に別の人に話しかけられる。

 公爵令嬢として恥じないよう言葉遣いと仕草に細心の注意を払いながら挨拶をしていたら、顔の筋肉が痛くなってきた。

 今までサボっていたツケだろうか。会う人会う人が初対面だから大変だ。何度名乗ったことか。噛まなくてよかった。


 ようやく解放された頃、ステージに目をやるとついにルイスの番が回ってきた。ハラハラしながらステージを見守っているとルイスが登場してきた。同じ年頃の令嬢達がうっとりとした瞳でステージを眺めている。流石はお兄様、王子に負けず劣らず大人気のご様子だ。


 室内だから風が吹いているはずがないのに、柔らかな風にのって旋律が舞うみたいに響き渡る。ルイスって風属性の魔力持ちだったよな……無意識のうちにヴァイオリンに魔力を通しているのだろうか? ここで、あのユニーク眼鏡をかけるわけにはいかないから確認できないけど、少し興味あるな。


 そんな事を考えているうちに、完璧な演奏をしたルイスは盛大な拍手に見送られてステージを後にする。本当に素晴らしい演奏だった。


 ここからは時間との勝負だ。私は準備を装って会場から控え室に戻る。すでにルイスは戻ってきてたみたいで、私のヴァイオリンの調整をしていた。誰も入ってこないように鍵をかけて、声を掛ける



「ルイス、演奏すごくよかったよ」

「ありがとう、リィ。今度はもっと良い演奏するからね」

「ごめんね……でも、ありがとう」



 話しながら、私は着ていたドレスを脱いでハンガーにかける。鞄に仕込んでいたシャツに袖を通して、おろしていた髪を後ろで1つにきびって口紅を落とす。



「よし、今日も良い音色が鳴ってるね。僕も着替えよう」

「手伝うね」

「うん、ありがとう」



 ルイスが着ていた燕尾服のジャケットとズボンを借りて身につければ、私の変装は完了だ。

 今度はルイスの番だ。ドレスをひとりで着るのは難しいので、メアリーに習ったように着替えを手伝う。

 用意しておいたドレス用のインナーをルイスに着せて、コルセットでウエストをしめる。「うっ」と小さくルイスが呻くも、ここは我慢してもらうしかない。壁に掛けていたドレスに袖を通させて、背中の紐を絞ってドレスがずれ落ちないようにしっかりと結ぶ。1つに結んでいた髪は櫛で綺麗にといて、唇に薄く紅を引く。

 最後に靴を交換すれば、鏡の前には見事に性別の入れ替わった私とルイスが立っている。

 ルイスはまだ声変わりもしていないし、話し方さえ気をつければきっと誰にもばれないだろう。



「よし、行こうか」

「うん」



 控え室を出て途中まで一緒に歩いて、ルイスを見送って会場に戻った。

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