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第十二話 街中で出会った少女は……

 先生にもらったミニマムリングに先ほど購入したライトニングロッドを通して小さくし、ベルトループに引っかける。キーホルダーみたいでなんか可愛い。


 明日からはこの武器の扱い方を教えてもらえる。魔法攻撃ってひそかに憧れてたんだよね。しっかりつかいこなせるようにならなければ!


 意気込み新たに歩いていた武器屋の帰り道。突如、曲がり角から人相の悪い男の人が飛び出してきた。



「邪魔だ! どけー!」



 通行人を無理やり押しのけながら走って行くその男の先には、両手で大事そうに紙袋を抱えながら歩く少女が居た。男は容赦なくその少女を押しのけ走っていく。

 バランスを崩した少女はその場に倒れ、紙袋から赤い果実がこぼれ落ちた。自分の怪我よりも紙袋に入っていた果実の方が大事なようで焦ったように拾い集めている。こちらに転がってきたその果実を拾って、私は少女に声をかけた。



「大丈夫? ここに入れたらいいかな?」

「すみません、ありがとうございます」



 セシル先生と一緒に辺りに散らばった果実を拾うのを手伝う。元通りになった紙袋の果実を見てやっと少女に笑顔が戻った。



「本当にありがとうございます。助かりました」

「これくらい、何でもないよ。それより……腕、怪我してるよ」



 転んだ時に出来たのか、少女の腕にはこすり傷が出来ていた。

 こすり傷って地味に痛いんだよね。お風呂入る時とかしみるし、かさぶたになると結構目立つし、治りは悪いし。



「大丈夫ですよこれくらい! そのうち治りますから!」

「女の子なんだから、傷が残ったりしたら大変だ」



 私は出かける前にメアリーから持たされたレイフォード家に昔から伝わる秘伝の軟膏を鞄から取り出した。この軟膏はよく効いて傷跡を目立たなく治してくれる優れものだ。



「少し痛いかもしれないけど、我慢してね」



 傷口に軟膏を塗ってあげたあと、ハンカチを包帯代わりに巻いた。



「1日2回。次はお風呂上がりに塗ってね」



 少女の手に小さな軟膏の入った缶を握らせると、少女は驚きで目を白黒させて慌てて首を左右に振った。



「こんな高価なもの、頂けません! それにハンカチまで汚してしまって!」



 この世の終わりと言わんばかりに、真っ青になる少女に少し申し訳なくなった。

 市民にとって薬は高価なものだ。特に缶に入った軟膏などは保存も効き、そのケース代も相まってかなりのものになる。痛そうな傷を前にそこまで頭がまわらなかった。

 


「僕が勝手にしたことだから気にしないで」

「そんなわけには……!」

「その綺麗な肌が傷ついている姿を見ていられなかったんだ。1日2回、3日もぬれば綺麗に治るから試してみて」

「で、ですが……!」



 恐縮しまくっている少女に私はある提案を持ちかけた。ただでもらうから申し訳なく感じる。それも見ず知らずの人からともなればなおさらだろう。それならば──



「じゃあ、その果実1つと交換してもらえないかな? 発色もよく艶もあって実がぎっしり詰まっている。すごく美味しそうだからお土産にしたいんだ。だめかな?」

「こんなもので、いいのですか?」

「それがいいんだ」

「……はい、ありがとうございます」



 私が折れないと分かってくれたようで、何とか交渉成立し、少女は軟膏を受け取ってくれた。何度もおじぎをして立ち去る少女を手を振って見送ると、先程まで一部始終を見ていたセシル先生が尋ねてきた。



「リオーネ。ルイス君の真似、してました?」

「はい。彼には将来、領民から慕われる優しい公爵になって欲しいので……私がこの格好で粗相をするわけにはいかないのです」



 たとえ今はそこまで領民に顔を知られていないとしても、どこで誰が見ているか分からない。さっきのパンケーキはかなりの失態だったけど。冒険者の多い酒場内と街中じゃまた違うしね! 恥ずかしくて自分に言い聞かせていると、先生に頭を撫でられた。



「……よい心がけですね」



 そう言って、先生は少しだけ寂しそうに笑った。



「セシル先生?」



 私が見上げて居ることに気付いたようで、先生はすぐに表情を戻した。



「どうかしましたか?」

「いえ……」


 何故先生がそんな顔をしたのか分からなかったけど、なんとなく踏み込んで欲しくなさそうな雰囲気を感じて口をつぐんだ。



「では、行きましょう。帰りも訓練の一環ですから気を抜かずにして下さいね」

「はい、分かりました」



 いつも通りの優しい笑顔に戻った先生について、家までひたすら歩いて帰った。

 その後、少女にもらった果実を夕飯の食卓に一緒に並べてもらい美味しく頂きながらふと思った。


 あの子、どこかで見たことあるような気がする。左右に揺れるツインテールの栗色の髪……あの去っていく後ろ姿に既視感を覚える。家からほとんど出歩かない自分がどこで……あっ!!


 思い出した。前世で画面越しに自分が操っていた少女。『夢色セレナーデ』の主人公じゃないか! 思いがけない出会いに、心臓がバクバクと大きな音を立てる。


 物語は確実に進んでいる。後数年もすれば、名門私立ローゼンシュトルツ学園で顔を合わせることになるだろう。間違っても、あの子の出先で待ち伏せなんてしない。つつがなく平穏に3年間を過ごして、錬金術を極めるのだ。

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