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第十一話 武器は実用性重視

 お屋敷を出て、歩いて武器屋を目指す。訓練ということで、馬車で30分程の道のりを徒歩で約2時間。ひたすら歩き続けてやっと冒険者の集う繁華街まで着いた。息が上がる私に対して先生は実に涼しそうな顔のままだった。



「リオーネ、君はこういう所に来るのは初めて……ですよね?」

「はい、初めてです」



 ゲームの世界では何度も来たけど、現実としては初めてだ。だから返答としては間違ってないはず。



「変な尋ね方になってしまいすみません。リオーネがどれくらい外の世界について知っているのかが分からなくて……」



 ゲームの画面越しになら全ての国を制覇しました……とは言えない。リオーネとして生きた7年間はほとんどお屋敷で過ごしてきた。外に出たのは家族で一度、演奏会を観に行った時だけだ。馬車での移動だったから、窓越しに外の風景を眺めているだけだったっけ。



「私は1度だけしか、お屋敷の外に出たことがありません。それも馬車での移動だったので、こうやって自分の足で屋敷の外を見て回ったのは初めてです」

「それならば、休憩もかねて少し寄り道していきましょうか」



 そう言って、先生はとある建物の中へ入っていく。恐る恐る後について入ると、かなり賑わっていて美味しそうな匂いが漂っている。冒険者ギルドを兼ねた酒場のようで、屈強な男の人が多い。


 席について先生が注文を済ませてくれて、美味しそうな生搾りのフルーツミックスジュースとパンケーキが目の前に出されて思わず生唾を飲み込む。


「召し上がれ」という先生の言葉にはやる気持ちを抑えて、パンケーキをナイフで切って木苺と一緒にさしてクリームをつけて口に運ぶ。

 木苺の甘酸っぱさと、レアチーズ風味のクリームがほのかに甘いパンケーキと相まって美味しい! ミックスジュースも濃厚で美味しいし、幸せ~!



「リオーネは、本当にいつも美味しそうに食べますね。その幸せそうな顔を見ていると、こちらも和みます」

「せ、先生もいかがですか? すごく美味しいですよ?」

 


 緩みきった顔を見られていたのがはずかしい気持ちと、自分だけパンケーキを食べているのが申し訳ない気持ちが入り交じってテンパった私は、気がついたらそんな事を口走って先生の前にパンケーキをさしたフォークを差し出していた。


 自分の使っていたフォークをそのまま殿方の前に差し出すとは、なんてはしたない事を……我に返った私が慌ててそれを引っ込めようとした時、


「それでは遠慮なく」


そう言って、先生がパクリとそれを口に含んだ。


「うん、美味しいですね」


 唇についたクリームを舌でペロリと舐めとって微笑むその仕草が、なんかすごく妖艶に感じた。ま、魔性の男……その片鱗を垣間見た瞬間だった。

 落ち着け、精神年齢はともかく私は今7歳なんだ。無邪気な子供はそんなの気にしない。ここで正しい私の行動は……



「ですよね! 先生、おかわりいかがですか?」

「リオーネは優しい子ですね。私のことはいいのでほら、冷めないうちにお食べなさい」



 無邪気な笑顔を装ってもう一口パンケーキを切り分けて差し出しながら尋ねると、先生は口元を緩めて優しく私の頭を撫でてくれた。

 貴族の令嬢としてはマイナス100点満点のお行儀の悪さだったけど、今の私は冒険者だ。ルイスに借りた服で男装しているし、まぁいっか……いや、よくない!

 男装しているということは今の私はルイスにしか見えないはず。この姿で彼の評判を落とすわけにはいかない。

 気をひきしめつつマナーを気にしてパンケーキを食べていると、先生が酒場の説明をしてくれた。



「もしリオーネが将来旅をすることがあれば、覚えておいて下さい。大体どの国にもこういった冒険者の集う酒場が存在します。ここでは主に、レアモンスター出現の情報や、その街の流行、寄せられた依頼などが確認出来ます。旅先で困ったときは、まず酒場に寄って情報を集める事から始めてみて下さい」

「はい、分かりました。先生」



 酒場を出た後、やっと念願の武器屋に辿り着いた。店内には剣や斧、槍、鞭、短剣、鉄球など様々な武器が並んでいる。

 魔法タイプの冒険者が主に扱えるのは、ロッドか魔術書、メイスのようだ。



「ロッドは魔法を飛ばして攻撃する遠距離型の武器です。魔術書は誓約を交わしたモンスターを召喚して戦わせる使役系の武器です。メイスは魔力量に比例して攻撃力の増す打撃用の武器になります。後者の2つはレベルがないと使いこなせないと思いますので、最初の武器としてはロッドをお勧めします」



 そう言えば傭兵として雇えるキャラクターに、魔術書でドラゴンを呼び出して雑魚敵を瞬殺する召喚士と、基本回復役なのにメイスで無双する武闘派聖職者が居たな。かなりの強さを誇ってて仲間になるのも終盤だった。確かに、今の私じゃとてもそれらの武器は扱えそうにない。


 初心者でも扱いやすそうなロッドを属性ごとに1つずつピックアップしてもらい、目の前には5本のロッドが並んでいる。

 確か杖の属性に合わせて使える魔法が変わるんだよな。大体は得意な属性の杖を持った方が強い魔法が打てるからその属性にするんだけど……今の私の属性は全属性を扱える古だ。


 それならば──私は雷属性のロッドを最初の武器に選んだ。運が良ければ敵を麻痺状態にさせる事が出来るのが便利そうだから。



「先生は何の武器を使われているのですか?」

「私はこれです」



 先生がベルトに引っかけていた小さな剣の形をしたキーホルダーみたいなものを取ると、一瞬でそれが大きくなる。刀身が青白い光を放つレイピアが現れた。



「この氷のレイピアを使う事が多いですね。直接攻撃も出来ますし、面倒な時は魔法でさっくり片づけることも出来て便利ですよ。普段は邪魔なのでこのミニマムリングで小さくして持ち歩いています」



 なるほど、水属性の魔法剣なんだ。いいな、なんかかっこいい。

 それに、ミニマムリングにそんな使い方があったとは。輪っかに通したものを何でも小さく出来る便利アイテム。ゲーム内では武器をどうやって持ち歩いているかなんて考えたこともなかったもんな。あの大きさなら確かに便利そうだ。



「どうして水属性にしたんですか?」



 雷属性を選んだものの、もしかすると水属性の方が使いやすくて便利なのかもしれない。そう思って尋ねると予想外の答えが返ってきた。



「モンスターの返り血を浴びないため、ですね。斬りながら凍結させればこちらには一滴も飛んできませんし。道中……汚れたら洗濯するのが大変でしょう?」



 そっちの実用性重視だったのか!

 ゲームの画面越しじゃ絶対考えない発想だった。

 ああ、やはりここはリアルな現実の世界なんだと妙に納得しながらお店を後にした。

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