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ゼフの村

 ゼフは人間である俺の足を考慮してかのんびりと地上を進んでくれた。

 その気遣いが嬉しく、彼の頭を撫でておく。


 フサフワの手触りが少し気に入っているのは内緒だ。


「もうすぐだよ」

「ああ、分かった」


 もちろん事前に近くまで来ているので村の場所は把握している。

 

 村の下では商人を囲むように人だかりが出来ていた。

 そして俺たちの姿を何人かが目に止めると少しづつ村人がざわつき出した。


「なんで人間が?」

「あの浮かんでいるのは何だ?」


「ゼフ! 何してるの!」

 そんな中、一人の女性が人だかりの中から駆けだしてくる。

 ゼフの姉だ。


「姉ちゃん。森で迷ってた人を案内してあげたんだよ」


 偉いぞゼフ! 打ち合わせ通りだ。


「弟さんには随分と助けて貰いました。ありがとうなゼフ」

「うん」


「あらまあ、それは大変でしたね。でも森に人間の方が一人で?」

「マコトさんは魔法使いなんだよ。こっちは精霊のミラ」

「こんにちわ」

「あらまあ! 魔法使いの方でしたか」

「情けないことに森で迷ってしまいましてね。本当に助かりました」

「いえ、弟がお役に立てて何よりです」


 物珍しそうに村人が遠巻きに集まってくる。

 そんな中、商人達の訝しげな表情が目に止まった。


 そして商人がおもむろに店じまいを始め出すのだった。


 村人が困惑する中、俺は人混みをかき分けて商人の一人へと近づく。


「おいおい、逃げなくてもいいだろう? 何もお前達の商売を邪魔しに来たわけじゃないんだ」

「そ、そんな逃げるだなんて」

「どうせ田舎者相手にふっかけてるんだろ? そっちの邪魔はしないが、こっちも路銀が心許なくてね」

「そ、そういうことなら相談に乗らさせて貰いますよ」

「ああ、お前達が欲しがるような物もいくつかある。後で商売をしようじゃないか」

「は、はい」 


 俺の耳打ちで商売が再開されると村人から安堵の溜息が聞こえる。

 

「商人を引き留めてくれたのですか?」

 ゼフの姉が俺に近寄って聞いてくる。


「ええ、彼らは魔法使いが嫌いなようですね。ご迷惑をお掛けしました。でも、説得したら分かってくれましたよ」

「あ、ありがとうございます。まだ買い物も終わっていなかったんで」

「それは良かった。商人の気が変わらないうちに急いだ方がいい」

「は、はい!」


 そんなやり取りのお陰か、俺はすっかり魔法使いという事で認知されたようだ。


 そして村長の使いを名乗る者が声を掛けてきた。


「少しよろしいかな? 村長が話をしたいと言っています」

「ああ、構わないよ」


 村長の使いは、いかにも出来るといった雰囲気を醸し出している。

 使い込まれた様子の腰の剣は飾りではなさそうだ。


「では、こちらに」


 村長の使いは軽々と木を登っていく。

 俺はミラに視線で合図をして彼女のマルチアームに掴まった。


 ゆっくりと俺の身体が宙に浮くと周囲から「おお!」と声が上がる。


 ミラへの負荷が大きいのであまりやりたくは無い事だが、この際仕方ないだろう。

 後でたっぷりと誉めてやろう。


 村長の使いも感心した様子でそれを見ていた。


 そして案内されるまま村長の家へと俺たちは入っていったのだ......。


****


「まあ、ゆっくりしてくだされ」

 目が隠れるほどに眉毛の伸びた長が敷物に座るよう促してくる。


「では、失礼します」

「単刀直入に訪ねますが、この地を訪れた目的は何ですかな?」

 長の眉毛がぐいっと上がり、隠れていた目が俺を見つめる。


「......そうですね、強いて言えば」


 俺はそう言うとマナライトの結晶を村長に見せた。


「これを集めることです」

「......なるほど魔晶ですか」


 ゼフに聞いた話ではこの魔晶というものは村ではそれほど珍しくはなく、商人との取引で貨幣代わりに使っているらしい。


「お陰で森で迷ってしまいましだけどね」

「それは難儀でしたな、何か助けになることがあれば言ってくだされ」

「随分とゼフには助けて貰いました。こちらこそ出来ることがあれば手助けしますので」

「魔法使い殿の助力が得られるとなれば心強いばかりですな。何も無い村ですがどうかくつろいで下され」

「ありがとうございます」


 様子見は終わったようで村長の家の扉がゆっくりと開かれる。

 まあ、今後も村を訪れる許可は取れたと思って良いのだろう。


 村長の家を出るとゼフが飛ぶような勢いで駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫だった?」

「ああ、ご覧の通りさ」

 俺は両手を広げて無事をアピールする。


「僕の家に来てくれよ。姉ちゃんが晩ご飯を作るって言ってる。......ミラのご飯よりは美味しくないけどね」

「駄目ですよ、そんな事を言っては。でも、ありがとうゼフ」

「へへ、ミラのご飯は世界一だよ」


 この後、ゼフの姉『マニ』がミラの弟子になる経緯は省いておくことにする。




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