ゼフの村 偵察
俺とミラは夕暮れ時だがかなり暗い森の中を静かに進んでいく。
本気で気配を消せば俺を見つけられる者は早々居ない。
「そろそろです」
「分かった」
ゆっくりと音を立てないよう足を進めていく。
木々の間から聞こえる虫の音がやたらうるさく感じた。
そして暫く進むとゼフの暮らす村が視界に入ってくる。
「凄いな、木の上に村があるのか」
「これなら地上の獣を気にする必要はありませんね。彼らの身体能力があっての生活様式でしょう」
「ゼフの位置は分かるか?」
「はい、マーキングしますね。スコープとリンクします」
俺は村から少し離れた場所、木の太い枝の上からスコープを覗くとゼフの頭上にはミラが付けた赤い点が浮かんでいる。
「あれがお姉さんかな?」
「その確率は高いです。記録しておきます」
「Drレッドにはまだ見せないで置こう、興奮して死なれちゃ困る」
「そうですね」
特徴こそ普通の人間と違うが、それでもゼフの姉は美人という印象を受けた。
見ればゼフは何か怒られているようにも見える。
「唇の動きから最近手伝いをさぼっている事を怒られているようです」
「そうか、他に気になる点はあるか?」
俺の言葉を受けてミラは更に高い位置へと移動する。
「そうですね、やはり文明レベルは低そうです。他の村人の武装を見る限り弓や剣、槍などの武器しかありません。......ゼフが私たちのことを報告している様子も村人が戦闘準備をしている事も無さそうですね」
「大丈夫みたいだな」
「ええ、良かったです。......ご主人様。ゼフの村から少し離れたところに反応があります」
「ん?」
「どうやら人間のようですが、ここからでは確認できません」
「移動しよう」
「はい」
見つけたのは商人らしき者数名の姿。
特徴としては普通の人間だ。
沢山の荷物を積んだ家畜を引き連れている。
護衛には獣人が数名付いているようだ。
「どこの世界でも商人ってのは同じ雰囲気を出しているな」
「そうですね、荷物をスキャンしましたが食料品や雑貨、アルコール等が確認できました」
「ほう、それは是非仲良くしないとな」
「料理の幅も増えそうです。接触の方法を検討いたしましょう」
「そうだな」
消耗品が現地調達出来ればマナライトの消費も抑えられるだろう。
商人はゆっくりとした歩みで村へと向かっていく。
どうやら村のある木の下で交渉は行われるらしい。
木の下にある古びた小屋が彼らの宿泊場所のようだ。
そこまで確認して俺とミラは川辺の我が家へと戻っていった。
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翌日、すっかり常連になったゼフとイノシシ親子にミラが料理を振る舞っている。
「凄い美味しいよミラ」
「ありがとうゼフ」
ゼフの言葉にミラは嬉しそうに揺れる。
「なあゼフ。俺たちがお前の村に行ったら村のみんなはどう思うかな?」
「え? 大丈夫なの?」
「ん? 何がだ?」
「てっきり何かから逃げてるのかと思ったんだ。だから......こんな所に住んでるのかと」
「ああ、大丈夫だよ。俺たちは何からも逃げては居ないし悪事も働いてないよ」
「そうなんだ。......多分大丈夫だと思うよ。森の主も懐いてるし悪い人じゃないのは分かってる」
森の主とはイノシシ親子の事らしい。
「そうか、じゃあ村に案内して貰ってもいいか?」
「いいよ! でも......ここに来てたこと。姉ちゃんに黙っててくれる?」
「ああ、森で迷ってた俺たちを助けたって事にしておこう」
「うん!」
俺は目を細めて笑顔になるゼフの頭をクシャクシャと撫でた。
少し嫉妬した様子を見せるミラの頭? も撫でておこう。
「じゃあ、急ごうよ。ちょうど村に商人が来てるんだ」
「ああ、すぐに準備をしよう」
こうして俺たちはゼフの案内の元、彼の住む村へと向かっていったのだ......。